いいこと知った「ッてえ」
皮膚が引き攣れるような痛みを覚え、首を捻って鎖骨の下辺りを見る。案の定、そこは薄っすらと出血した痕があり、歯型もくっきりと残っていた。
何が楽しいのか、君島はコトのたびにこうして俺に噛みついたり傷をつけたがったりする。どれも数日もすれば消えるようなものだから今更どうするつもりもないが、普段澄ました顔をしている男がこんな動物じみたマーキング行為に執着しているのは面白い。
「私は仕事なので、もう行きますね。遠野くんは大学ですか」
「んー、午後からだから一回家帰るかな」
「そうですか。では出る前に適当に片付けておいてください」
二人とも朝から何をやっているんだと笑ってしまうが、先ほどまでの情事の気配など欠片も見せず、君島はいつも通りの声で告げると剥き出しの背中を向けた。ベッドから抜け出した背筋は姿勢良く伸びているものの、全裸というのはどんな人間でも間抜けなものだ。
綺麗に筋肉がついた背中からきゅっと引き締まった腰のラインは、いつ見ても見事だと思う。そしてその下にある小さな尻。割れ目の付け根の窪みに、ほんの悪戯心で指を這わせた。
「っひぁあああっ⁉︎」
ヤってたときよりデカいんじゃないかという大声をあげて、君島は膝から崩れ落ちた。こっちがびっくりする。
「ちょっと、何するんですか!」
「いや、俺もビビった。お前声デケェからさあ」
「アナタが変なところ、触るからでしょう!」
さっきまでもっととんでもないところを触ったり触られたりしてたんだがな、と思ったが、そんなことを言ったら余計うるさくなるから黙っておく。鳥肌が立った腕を摩りながらぎゃあぎゃあと騒ぐ君島を無視して、俺は再び布団に潜り込んだ。弱点を一つ知った一日の始まりは、気分が良い。
End.