Bonnes vacances「……すげえ」
本日の宿であるヴィラに到着すると、遠野はあんぐりと口を開けて絶句した。久々にまとまったオフが取れたという君島に誘われて、二人でリゾート地に赴いたのだ。五つ星であるこのホテルの客室の中でも最高級のヴィラスイートは、リビングからエメラルドグリーンの海とプライベートプールが見渡せた。
「プールの隣には露天風呂があります。この辺りで天然温泉は珍しいんですよ」
「ていうか、広すぎねえ……?」
「まあ、ご家族で泊まっていただけるような広さではありますね」
たった二人で泊まるには広すぎる間取りに、贅を極めた部屋の造り。都会の喧騒から離れ、他人の気配を感じさせない空間はどこか開放的な気分にさせる。
「気に入りましたか?」
一通り部屋の探索を終えた遠野に君島が問う。天気は快晴、今すぐプールに飛び込んでも気持ち良いだろう。
「んー……部屋もいいけど」
「けど?」
「単純にお前と二人きりなの久しぶりだから嬉しい、かも」
予想外の言葉に、君島はぴたりと動きを止めた。むず痒い沈黙の合間をすり抜けるように、外から吹き込んだ風がそよそよと遠野の髪を揺らす。
「……」
「おい、引っ張んなって」
やっと動き出したかと思いきや、君島は遠野の手首を掴んでぐいぐいとベッドルームへと連れて行く。キングサイズのベッドに押し倒された遠野は、君島を見上げて笑った。
「何、すんの」
「二人きり、ですからね」
「まだ昼だぞ」
「時間は沢山ありますから」
二つあるベッドルームも、結局は片方しか使わないのだろう。勿体無いがまあいいかと思いながら、遠野は覆い被さってきた背中を抱き寄せた。
End.