さして興味はない、が 目当ての本を無事購入し、越知は都内の街並みを歩いていた。ふと、特大広告が目に留まる。
(君島か)
近頃の君島は芸能人としての人気がますます高まっているようで、そこかしこで彼の姿を見かけるのだ。相変わらず活躍しているようで何よりだと思いながら、スマートフォンを取り出してカメラを起動させた。
(……悪くない)
人が写り込むことも、光の反射が入ることもなく、なかなか良い写真が撮れたのではないか。だからと言ってどうということもないが。スマートフォンをポケットにしまい、また足を進めるとカフェが目に入った。少し休憩でもするかと、店内に入りコーヒーを注文する。
一息ついたところで、先ほど撮った写真を思い出した越知は再びスマートフォンを手にし、トークアプリを起動させた。通知の一番上にあるトーク画面に、写真を送信する。ほどなくして『新しいCMのやつですね!めっちゃかっこいいです!』という返信と、キラキラと目を輝かせるうさいぬのスタンプが送られてきた。越知はこうして、君島を慕う後輩のためにときどき写真を送ることがある。そのたびに良いリアクションを返してくれるから、口角も上がってしまうというものだ(喩えそれが誰にも気づかれない程度だとしても)。
不意に、とある人物にも送ってみようかと思い立つ。これは本当に単なる思いつきだ。久々に連絡する相手だが、いきなり写真だけを送ってみたらどんな反応をするだろうか。思うがままに送信ボタンを押す。するとこちらもすぐ既読がついた。それから、何やら怒った様子の猫のスタンプが、次々と送られてくる。よく見てみれば一つひとつ表情が異なり、並んでいるとアニメーションのようだった。
(これは、かわいらしいな)
スタンプをタップして、購入する。ダウンロードが完了した瞬間、件の送り主から電話がかかってきた。
「……どうした」
「どうしたじゃねえ!久しぶりに連絡してきたと思ったら君島の写真なんか送ってきやがって!」
処刑しちゃうよ、と喚く声に、このスタンプ連打は処刑だったのか、と越知は頷く。
「たまたま見かけたから、遠野はどう思うか送ってみたのだが」
「どうもこうもねーよ、アイツからこれのポスター何枚も送られてきて見飽きてるっての!もう壁に隙間もねえ!」
「それをお前は全部、部屋に貼っているのか」
数秒の間の後、奇声と共に電話は切られた。きんきんと痛む耳を押さえながら、律儀な奴だと越知は冷めかけたコーヒーを啜るのであった。
End.