油断も隙もない「竜次」
種ヶ島が甘く呼び、肩に触れる。これは恋人としてのスキンシップを取りたい、という合図だ。勿論それは大曲にとっても吝かではないが、問題はここが彼と遠野の相部屋だということだ。
「……アイツ、戻ってくんじゃねえの」
「篤京?ああ、君島とこ行ってくる言うてたから、しばらく帰ってきいひんよ」
「でもよ」
「何、そんなエッチなこと期待しとったん?」
いたずらっぽく片目を瞑る種ヶ島に、大曲は盛大なため息をついた。
「アホか」
「ははっ、冗談冗談。ちょっとイチャイチャしたいだけ……あかん?」
この上目遣いに弱いのだ。それを彼も知っている。わかった上で、互いにこの駆け引きを楽しんでいるのだ。
「ったく……」
軽く唇に触れると、それだけで嬉しそうに目許を緩ませる表情に胸が高鳴る。そのまま何度か柔らかい感触を味わっていると、向こうから舌先で唇の間をつつかれた。
「ん……ッ」
誘われるがままに舌を絡ませ、時折ちゅっ、と吸う。粘膜を擦り合わせる感覚はじわじわと熱を生み出す。傷んだ銀髪を撫でてやると、種ヶ島の両手が大曲の頬に添えられた。
「ぁ、なんか、ヤバい、かも」
引き寄せられ、二人諸共ベッドに倒れ込む。見下ろした双眸は僅かに潤んでいた。
「ちょっとじゃ済まねーじゃねえか」
「竜次だって」
膝で下肢の中心をぐりぐりとやられ、小さく呻く。流石にまずいが、もう少しだけ、と再び顔を近づけた瞬間。
「……」
「……」
ドアが開いた音がし、反射的に目を向けた先に遠野がいた。ぎろりと睨む眼光は鋭い。どかどかと足音を立てて、サイドテーブルに置いてあったスマートフォンを引ったくる。
「……テメェら、俺のベッド使ったらタダじゃおかねえからな」
「それはないから安心してや☆」
地を這うような声にもあっけらかんと答える種ヶ島に、大曲は頭を抱えた。遠野が出ていき、妙な空気が漂う。
「いやー、びっくりしたなあ。……続き、する?」
「しねえし、修二オメーどんなメンタルしてんだよ」
終わりだ、と手を引っ張って起こすと、えーと言いながら抱きついてくる。全くとんでもない男だと思いながらも、大曲はその背中に腕を回したのだった。
End.