ハウリング ───にいさんの髪はきれいです
子供の頃の無邪気な弟がそう褒めてくれたのが単純に嬉しくて髪を伸ばし始めていたのだな、とふと思い出す。
今となっては身だしなみに気を遣うという余裕もなく、ただ己の技量を磨こうと必死になっているが故の惰性であった。
演奏に邪魔にならぬようにとひとつに括っていたが、頭を振る度に遅れてやってくる束の揺らめきが煩わしくやめた。
ならばと団子のように丸くまとめてもみたが、今度は頭がやけに重く感じられ首や肩周りに多大な負荷がかかってやめた。
いっそ下ろしてみるか、と最低限邪魔になるだろう前髪などをひっくるめて後ろで結ぶだけのハーフアップなどにもしてみたが、やはりどうしてもヴァイオリンと顎の間にぢりぢりと髪が挟まるのでやはりこれもやめてしまった。
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