オブリビオン そいつは簡単に火を起こした。
テントの設営を手際よくやるので、どこまでやれるのか見ていたが、火まで自分で起こした。ライターを持っていたので、手間取るならさっと点けてしまえばいいと思ったが、必要なかった。
かつて大都市だった街には、草が生え、コケが生え、蔓が廃墟に這う。崩れる可能性のある廃墟の中で寝るよりも、今までと変わらず、テントをはったほうがよいと判断した。
パチパチと安定して燃える炎を見ていて、そうか、金持ちだから、恵まれているから火が起こせるのだと思った。安全で親が見守っている場所に用意された「サバイバル」を知っている。死ぬことはない、いざとなれば助けてくれる人間がいるから、こんなに何でもできるのだ。こいつは生活手段として火の起こし方を知っているんじゃない、「教養」として知っているのだ。
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