⚔️🌻冬彰暑い日差しが肌に刺さるような日に街を歩いているとオレンジの髪の優しそうな同い年くらいの男を見かけた。そこは花屋で両手いっぱいにひまわりを重そうに抱えながらも愛おしそうに花を見つめる姿に思わず見惚れてしまう。
花たちを運び終えたその青年は一本一本不要な葉や伸びすぎた茎を切り綺麗に揃えていく途中に俺の存在に気付いたようで「あ、すいません。何かお花をお探しですか?」と聞かれた。
夏の暑さも加わりぼーっとしてしまっていた俺は声をかけられた時にハッと意識が戻るような感覚になり咄嗟に「キミの好きな花はどれだ?」と声を捻り出した。
驚いた顔を見せた後えーとっと言葉を選んでいる様だった。
「ひまわりですね。夏にしか咲かなくて綺麗なんです」
青年は手に持っていたひまわりの花を顔の近くまで持っていきニコリと微笑む。
「じゃあそれをいただこう」
「長さはどうしますか?」
花など買った事がなく長さのことなど気にしたことはなかったので「そのままで」と伝えればかしこまりましたとニコリと笑顔を見せ、ひょっこり花が顔を見せるように紙で包んでもらった。
「ありがとう、また来る」
「こちらこそありがとうございます。お待ちしてます」
ペコリとお辞儀で見送られそのまま街を見回った後に城へと戻る。
「珍しい、花を持って帰ってくるなんて」
ルイさんが後ろから声をかけてきた。
「気になって思わず。花なんて初めて買いました」
「ふーん、トウヤくん花が気になったんだ」
ルイさんはちらりと包み紙から覗く花を見つめている。
「そういうことにしてください」
「そうだね、花もトウヤくんも早く水分をとった方がいい今日は暑かったからね」
ルイさんにはなんでも見透かされている気がする。
自室に戻る前に城の人間に花瓶はどこにあるのかと尋ね物置に寄りちょうどいい一輪挿しの花瓶を手に取った。
窓際に飾り置けばひまわりは自然と日の方へ顔を向ける。その姿と先ほど暑い日差しの中でみた青年の横顔を思い出され、もう涼しい部屋にいるというとに心の中を焦がされるみたいだった。
「そういえば名前を聞くのを忘れていた」
、
騎士様が度々うちへ花を買いにくるようになってから数ヶ月ほどが経とうとしている。いつもおすすめのものを聞いていつも一輪だけ買って帰る。真っ直ぐに目を見て話す人なんだなって思ったのが最初の印象だった。
「アキト、今日のおすすめはなんだ」
花屋の敷居を跨いで決まった言葉をかけてくるのは冬弥様だ。
「今日はスイートピーですね。以前の花がまだ元気でしたら一緒に飾っても良いかもしれません」
この人がいつきても良い様に今日一番元気な花を見ておくのが日課になっていた。
「じゃあそれを」
「そうだアキト、今日は受け取って欲しいものがあるんだ」
そう言って小さいシルクのような綺麗な袋を取り出し口を開け逆さまに向け転がり出てきたのは少し紫がかってシックな金色でトウヤさまがよく身につけている鎧にある薔薇の模様が描かれている指輪だった。
「これだ」
「え?!指輪をですか…?!」
そうだとオレの左手に優しく触れトウヤ様の方に寄せられる。
「城に来るときはこれを付けていたら良い。門番にでも見せると快く通してくれるだろう」
(通行証…みたいなものか…)
などと考えていたら薬指に指輪を通される。
「ふ…よく似合っている」
大事そうに指を撫でた後オレの方に微笑む。
その優しい笑顔にかぁっと顔に熱が集まるのを感じた。それに…
それにこれはいわゆるプロポーズみたいで変に意識をしてる自分がいる。トウヤ様のご厚意で貰っているだけだと自身に言い聞かせ声が裏返らない様に「ありがとう…ございます」と捻り出した。
トウヤ様がいつもより嬉しそうにお城に帰ったあと自室に戻り薬指を見つめた。太陽の光を浴びているときはキラキラとより美しさが際立っていた指輪は部屋の灯りでもその美しさを失わないものだった。
はぁっと一つため息をつく。きっと高価なものに違いない。そんなものをわざわざオレにと言う気持ちと、トウヤ様にプロポーズさながらこの指輪を通してもらった時の嬉し恥ずかしさとで気持ちがまるで混乱していた。ベッドに寝転び何度も指輪を部屋の灯りに照らす。
城に行くときはこの指輪をつけてと言っていた…特に用もないのに城に行くのも迷惑だろうし、高価そうな物なので机の引き出しの中に布に包んで入れておく事にした。
「どうして来てくれないんだ。俺は毎日アキトが来てくれるのを待っているんだ」
やや不機嫌気味に店に入って来たトウヤ様の姿を見てすこし身を震わせた。
「用もないのにずけずけとお城にお邪魔できません…」
「俺に会いに来たって言えばいいのに」
いちいちドキドキさせられる。そんな風に言えるわけがないことをこの人は分かっていない。
「い…言えない…です…」
素直に言えばすこし眉を困らせた様に下げた後に「アキトを困らせてしまったな。すまない」と謝られた。謝られたいわけではない、素直に言えないこちらも…。
「ではこうしよう、うちの庭の花の剪定をお願いするのは」
毎日来るのは大変だろうから、お店が落ち着いている火曜と木曜だけ、もしくはどちらかでも良いと言われた。親から引き継いだ店を見ているのはオレと、姉のエナだった。絵を生業にしているエナだったがオレがどうしても店が見れない日は店番をしてくれていた。
オレ1人では答えを出せないのでエナに確認をとってから返事をすると約束して今日も1輪花を買ってトウヤ様は城に帰った。
結論を言えば火曜と木曜城に行く事になった。事情を話せばエナも意外と快く許可してくれたのだった。と言うのもそもそもあまり人の出入りがない店だから店でも絵は描けるという失礼極まりない理由だ。
まぁそれでもお城の剪定をさせてもらって間、店を見てもらうには違いないので静かにしていた。
「良かった…!じゃあ次の火曜日、城で待っているぞ」
動物だったら尻尾がこれでもかと振っているだろうというくらい喜んでいる。
「ところで指輪はなんでつけてないんだ?」
「お城に行くときだけつけた方がいいのかと…」
「確かにそう言ったな…」
先程とは打って変わってしょぼんと眉を下げてしまった。話をする前はクールであまり表情を表に出さない人だと思っていたのに意外とコロコロと変化する表情を見るとなんだか嬉しい気持ちになっていた。
「じゃあ付けます…!部屋店の上なので、取りに行きます」と言えば「じゃあ着いて行こう」そう言ってオレの後ろに着いてくる。
部屋はモノが多くないのもありそこまで汚い方では無いためまぁ良いかと店の奥の階段を上がり自室へ案内する。そういえば人を通す事自体初めてかもしれないとドアに手をかける時に思った。