鳥を眺める仲→恋仲→同棲(今ここ)①かつてクソ野原だったその場所は、開拓民の努力の甲斐あって町と呼んでも恥ずかしくない程度に発展した。
町の名称はどうでもいい。そんなことよりも今話題になっているのは、最近完成した小さな邸宅だ。そこはあの開拓監査官ロイテルの新居だった。――正確には彼とファリスの。
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「いい加減家建てちゃおうよ」
半年前、冒険者がそう言った。
ロイテルよりも数センチ視線が低いこの小娘(仮。性別不明、未成年)は冒険に出かけてはネフィアを制覇し、戦利品を持ち帰り、しばらく拠点にこもって釣りやら彫刻やら酒造やら執筆やらフリーダムかつクリエイティブな生活を過ごし、飽きたらまたネフィアへ向かうという日々を送っている。
すっかり特産品として定着したかつおぶしワインをちびちび飲みながら、小娘は監査官と、彼の肩にもたれて寝息を立てている唄い手を一瞥した。
「家?」
「ふたりの家。どうせ毎日一緒にいるなら、そっちのほうが楽じゃないの?色々と」
「いや……同棲というのは……」
「大人同士なんだし問題ないでしょ。それともロイテルさん、結婚前にひとつ屋根の下で暮らすのは〜とか思ってる?だとしたらクソ野原時代でとっくにアウトだよね」
酒を飲むと饒舌になる彼女は、今日もまたぺらぺらとまくし立てる。酒好きなのは親譲りらしく、曰く彼女は酒樽に産み落とされたという。ティリスジョークだと思いたいが、完全に作り話とも思えないのが恐ろしい。
「ぐ……お前、また口が悪くなったな……」
ふた回り近く年下の小娘の言葉に頭痛を覚えたロイテルは、ファリスの肩からずれたブランケットを直してやりつつ、片手でこめかみを抑えた。眉間に皺が寄っている。
「ファリスさんにも聞いてみようよ。ファリスさーん、ロイテルさんと一緒に暮らしたいですかー」
「おい」
起きるわけないだろうとか、寝た子を起こすなとか、お前が聞くなとか、そんなことを言いたげなロイテル。彼の意思に反してファリスはぼんやりと瞳を開けた。
寝ぼけ眼を擦る彼女を興味深そうに見つめる冒険者。向かいにある視線に気づかないまま、ファリスは恋人の顔を見上げてこう言った。
「ロイテルさまぁ……私のために毎朝パンケーキ作ってください……」
追い打ちをかけるようにぎゅっと腕に抱きつく。そのまままた寝落ちていく。
「彼女もこう言っている」
情熱的な告白に固まってしまった男へ、冒険者は誇らしげに鼻を鳴らした。