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    弓月です
    時々文字をかきます

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    ほしまほ2で展示していたオー晶♂です。
    北の国ではじめてのデートをする話

    Alone with you「ねえ、デートしようよ、賢者様」
    魔法舎の自室に突然現れた恋人は、美しい顔を妖しげに歪めて笑ってみせた。
    「……えっ……?」
    突然の展開に脳の処理が追い付かなくて、うまく返事の言葉が出てこない。どうして彼はここに来て、今、なんと言ったのだろう?
    「……行かないの?」
    しばらく何も言わず固まったままの俺を見て、目の前の彼は綺麗な眉を歪めてみせた。それが少し泣きそうな顔に見えて、俺は慌てて口を開いた。
    「い、行きます!」



    白いマントをひらりと翻して歩いていく背中を追ってエレベーターに乗ると、そこは北の国だった。オーエンは黙ったままぱっと魔法で箒を出したので、乗れということだろうと解釈して彼の背にそっと体を預けた。何も言われなかったので、選択は間違いではなかったらしい。
    ふわりと体が宙に浮く瞬間はいつまで経っても慣れなくて、風を切りながら空を飛ぶたびに自分の生まれた世界と違う場所であることを再確認する。最初の頃はそれに寂しさを感じていたけれど、賢者の魔法使いたちと魔法舎で暮らして、彼らのことを知ってからは、ぬくもりを近くで感じられるこの時間が好きになった。
    恋人になったからといって何かが大きく変わった訳ではない。距離感も、今まで通り気まぐれに戯れるだけ(オーエンに一方的に翻弄されるのが常)で、密に触れ合うこともない。ただ、肩書きがひとつ増えただけ。だから、オーエンの口からデートをしようと言われたときは嬉しかった。ちゃんと、彼も俺を恋人だと思ってくれているんだと分かったから。
    そんなせっかくのデートなのに、服はいつも通り『賢者』の装いで、寝癖を直す暇すらなかった。けれど、猫よりも気まぐれな恋人の貴重な誘いを無駄にはしたくなかった。
    「うわっ!」
    びゅうっと強い風が吹いて、咄嗟にオーエンに強く抱きつく。けれど、彼は嫌がる素振りを見せなかったので、少しだけ腕の力を緩めて、さっきよりも近い距離で彼の横顔を見つめた。風に靡くシルバーの髪の隙間から、綺麗なオッドアイがこちらを見る。
    「……何?」
    「あ……えっと、目的地はどこなんですか?」
    そう問いかけると、オーエンは俺を一瞥して雪原へ降り立った。いつか映画で見たような、そんな現実離れした白以外になにもない世界。なんの力もないちっぽけな人間の命なんて、簡単に奪ってしまえるような、そんな場所だ。改めて、北の国の魔法使いたちの強さに納得した。
    「ここが、目的地だよ」
    魔法舎からここまでほとんど話さなかったオーエンが、笑みを浮かべて口を開いた。
    「えっと……どうしてこの場所なんですか? 何か思い出があるとか……?」
    責める気持ちは全くないけれど、純粋に疑問だった。そんな困惑する俺の顔を見て、オーエンはとても嬉しそうだった。
    「初めてデートに誘われて、連れてこられた場所がこんなに何もない雪原だった時にがっかりする賢者様の顔が見たかったんだよ」
    「ええっ……」
    彼のことだから一筋縄ではいかないと覚悟はしていたけれど、まさかこんなところで初めてのデートをするとは流石に想像していなかった。怪しげな笑みを浮かべて、これから俺がどんな文句を言うのか待っているようだった。
    「えっと……さすがにちょっとびっくりしましたけど、でも、あなたと二人なら、どんな場所でも嬉しいです」
    「……は?」
    「だって、俺が死なないように魔法をかけてくれて、ここまで箒で飛ぶのだって大変じゃないですか。俺をどこに連れて行こうか考えて、実行に移してくれたことがすごく嬉しいです」
    素直な気持ちを伝えると、オーエンは心底嫌そうな顔をしてみせた。でも、素直ではない彼が図星を突かれて照れているようにも見えるのは流石に自惚れすぎだろうか。
    「……つまんない、帰る」
    「えっ! もうですか!?」
    「自分じゃ何もできないくせに。誰がお前に魔法かけてやってると思ってるんだよ」
    体を包んでいたあたたかさがふっと失われて、恐ろしいほどの冷気が肌を刺す。あっという間に体温は失われて、自然と体が震え出した。
    「ふふ、無様」
    「……すみません、オーエン。まだ死ぬわけにはいかないので、助けてください……」
    何も言わずにこんな極寒の地に連れてこられ、備えのしようもない状況であまりの理不尽さに流石に思うところはあるが、生命の危機の前ではあまりに無力だった。
    「あはは、僕に助けを乞う賢者様が見られるなんていい気分」
    「本当に……助けてください……」
    無様に懇願する俺の姿を見て満足したのか、オーエンが魔法をかけなおしてくれた。寒さから守るだけではなく、冷えた体も温めてくれたようだ。
    「あ、ありがとうございます」
    「……はあ、帰るよ」
    流石にずっとここに居ては自分の身が持たないので、少なくともこの北の大地から離れる必要がある。オーエンの目的は果たされてしまったようだし、きっとこのまま魔法舎に帰ることになるだろう。でも、この二人の時間が終わってしまうにはまだ惜しいと思ってしまった。
    「あ! あの、これから中央にあるカフェに行きませんか? 戻るまではまだオーエンの力を借りないといけないんですけど、よかったら今日のお礼にごちそうさせてください」
    「はあ? お前さっき僕が言ったこと忘れたの?」
    「さっき言ったように俺は嬉しかったし、それに……せっかくのデートで……まだ、一緒に居たいので……」
    「……お前さ……本当におめでたいね」
    「まあ……浮かれてはいると思いますけど……」
    「まあ、いいけど。もちろん僕を満足させてくれるんだよね?」
    「そのつもりです! スイーツが美味しいって教えてもらって、行ってみたかったんです」
    「ふふ、それじゃあ賢者様のお財布の中は空っぽになるかもね」
    「ああっ……それはちょっと困るので……お手柔らかにお願いします……」
    「自分の発言には責任を取らなくちゃ。僕を満足させてくれるんでしょ?」
    「あはは……最善を尽くします……」
    「ほら、早く行くよ」
    オーエンはすっと俺に手を差し伸べて、箒に乗せてくれた。その所作が王子様みたいに美しくて、優しくて、嬉しかった。そんな俺の気持ちなんてつゆ知らず、箒が宙に浮くと、白の地平があっという間に遠ざかっていく。心做しか行きよりもスピードが早い気がして、しっかりとオーエンの腰に手を回した。
    「ちょっと、あんまりくっつかないで」
    「……えへへ、すみません」
    「……お前が奢ってくれるなんて言わなかったらここに置いて行ってた」
    オーエンはそんなことしないですよね、とはとても言い切れないのが恐ろしいところではあるが、少なくとも今だけは、照れ隠しであることが分かる。
    「楽しみですね」
    それきりオーエンから返事はなかったが、いつもより少しだけ高く感じる体温に身を寄せる。何も分からない不安から解放されて余裕が出来たのか、彼の背からは息遣いや鼓動が微かに感じられて、風の音だけが耳元を通り過ぎていく沈黙は思いのほか心地よかった。この二人きりの時間が、ずっと続けばいいとさえ思った。
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