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    KaninoUra2

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    KaninoUra2

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    AIとの合作。

    竜に成る会社の取引先、それはそれは大きな、日本を背負って立つ大企業、鯉登財閥。社長である鯉登平二やその御家族は大企業の重役には珍しく、自身の誇らしい経歴も鼻にかけず、威圧感がなく、賢く、そのうえ頼りになるとてもいい人達ばかりで、非常に仕事がしやすかった。
    しかし、問題なのは、秘書として尊大な父親を支える長男・平之丞と少し歳が離れた次男坊・音之進。 日本人にしては珍しい父親似の褐色肌。母親と長男に同じくヘンテコな眉をしているが、容姿が非常に整っており、きっと恵まれた人生が決まっているだろう、と取引先の子息でありながら、少し妬ましくも、こなくそとも思う相手でもあった。
    それもそのはず。
    潔癖なわがまま坊主、お転婆で高飛車でいつも自慢げ。それでいて、汚したら怒られそうな恐らく高いブランドの丁寧な服を着て、顎を少し上げて得意げに笑うから、見るからにいいところのボンボン。
    しかし、父親も母親も長男もそんな次男坊のことを目に入れても痛くないとも言いたげなほど溺愛しており、この次男の性質があの聡明な御家族の愛故に成り立っているのを理解しているため、こちらからは何も言えない。
    そして、ここまで取引先の内情に詳しいのも全て、俺の第七商社の鶴見社長が大きな取引先との崩れぬパイプを作るために、次男坊の音之進の教育係として俺が遣わされていたからである。
    次男坊は、彼の親でもある取引先の大企業と俺の会社と俺との板挟みで苦虫をかみ潰した俺の苦労を知らず、自由奔放にすくすくと育っていた。
    俺が教育係として派遣されたのは、音之進が12歳、俺が25歳の時。最初は鶴見社長に何か粗相をしでかして、その罰だと思ったが、そんなことは無かったようで。社長の本当の胸の内は分からないが、ただただ適任だと思って任命されただけらしい。
    教育係としての仕事は、そう難しいものではなく。鯉登家にお邪魔させていただいた際に、音之進の宿題の面倒を見たり、世間一般のことを教えたり、鯉登社長や兄の平之丞が忙しく構ってやれない休日に一緒に遊びに出かけたり。その程度のもの。
    なんなら、ただの教育係…それも他人の会社の他人であるのにも関わらず、家族同然に食事を誘ってもらったり、行事に連れて行ってもらったり、俺自身も鯉登家のお人好しに割と甘やかされていた。
    問題の次男坊・音之進は、最初は怪訝そうで言うことも聞かず、鶴見社長のことを教えろ!と訳の分からないことを言ってきてたが、過ごす時間が長くなっていくにつれて、気に入られたのか、情が湧いたのか、相変わらずの高飛車で生意気なボンボンだったが、「月島、月島」とコロコロと変わる表情で彼自身の色々な話を聞かせてくれるようになった。それに、付き合ってみれば、実際はそこまで悪質な子ではなく、ただただ愛されて育ったがゆえに素直なだけだと音之進への認識を改めるようにもなった。
    それが達成感でもあり、情でもあり、最初は罰かと疑った教育係の楽しさでもあったのは確かだし、他人の俺が音之進の成長を覗き見させてもらえる環境は、家族との関係や愛情が皆無に等しい環境で育った俺にはやや暖かすぎるくらいで。
    お母様・ユキさんの付き添いで行った、中学の文化祭の劇と展示作品、中高のサッカー部の遠征や、高校の学園祭、入学式に卒業式…他人と写真を撮る場では、いつもと違い、気難しげにムッと口を噤んでいる音之進の成長と思い出が知らず知らずのうちに俺の人生を彩っていた。
    成績も優秀、きちんと言い聞かせればほとんどは言うことを聞いてれるようになった音之進との関係で、ただ一つ問題なのは、少々音之進のボディータッチが激しいことと、休日は執拗に俺の家に来ること。
    「月島、月島ァ、月島ぁん」と甘えた声で俺を呼びながら、ぎゅうぎゅうと腕に巻きついたり、寄りかかってきたり…その度に諌めるのだが、人一倍しょんぼりとした顔を見せるので、その少しの罪悪感が胸を刺す。それに、鯉登さんが魅力的な大人に近づいていけば行くほど、言い逃れの出来ない胸のざわつきを感じるようになってきたのは、自覚していた。
    『月島ぁ!遊びに来た!』
    『…いいですけど…ちゃんと、勉強してくださいね。それにインターホンは一度で十分ですよ。』
    休日には、家でのんびり読書をしている昼に、何度もインターホンを鳴らし続ける音之進を仕方なく家の中に上げることが多くなって、でも、ちゃんと黙って勉強を進めていたから、何も言わず。
    それに、彼がふにゃりと嬉しそうに笑って擦り寄ってくるのがどうにも麻薬的でやめられなかった。時々掛けられる熱視線、「月島、」と俺を呼ぶ甘ったるい声。その全てに、妙な居心地の良さを覚えて、少し困ってしまう。
    ……こんな子供に、何を惑わされているんだ。彼はただの大事な取引先の御子息で、俺は一介の社員、それも他人の会社の、そうに過ぎないじゃないか。
    このように自制する日々が続いていたのだが、ある日突然そのバランスが崩れる日がやって来た。それは本当に突然に。
    今度は、課題指導の時間になっても帰ってこなくなり、制服を着崩したり、バッグに派手で大きなキーホルダーをジャラジャラと付け、髪の毛もなんだかクネクネとワックスをつけていじるようになった。
    思春期ならこんなことがあっても仕方ない、俺もそんな時期があった…いや、むしろ鯉登さんより大分酷く…。
    しかし、さすがに目に余る、と
    「その服装も、指導の時間までに帰ってこないのも、もう少しどうにかなりませんか?お母様も心配していらっしゃいます。」
    屋敷内でばったり出くわした時に注意したが、
    「お母様はこのキーホルダーを可愛いと言ってくださったが?」
    と言い返されてしまった。
    ああ、お母様の部分は嘘だ。
    なぜなら、
    「それに、私はちゃんと成績も落としていない。月島の指導なしでも成績優秀だ。」
    音之進の言う通り、こんな荒れた身なりになっても音之進の成績は落ちることなく快調で、心配するところなどひとつもなかったからである。サッカー部での活躍も同学年の者と比べると抜きん出ている。
    「月島こそ、たかが教育係という立場であるにもかかわらず、主人であるお母様やお父様が何も言わないのに、私の素行に口を出し、あまつさえ、親の真似事か?教育係が居なくても成績優秀じゃ、私の人生は安泰だ。」
    そして、さらに、こんな言われよう。
    「お前なんか居なくても問題ない」
    と、いかにも音之進の負けず嫌いが遺憾無く発揮された脅し文句は、言い慣れたようにスラスラと流れでてくる。
    「…そうですね、出過ぎた真似をしました。教育係の件は明日にでも鶴見社長に掛け合っておきます。」
    「……あ、え?そういう訳じゃ……」
    確かに言われる通りだ、それに俺は教育係でありながら鯉登さんに対して人には言えぬ感情を持ってしまってる。そもそも教育係失格だろう。 それどころか、鯉登さんの荒れる風貌を見て、自分ではない『誰か』と遊んでいるのではないか、とエゴで鯉登さんを締め付けて、輝かしい未来を潰そうとしたのだ。当然だ。
    別に、悔しいとか屈辱とかそんなでは無い。元々、鯉登家は俺の生まれどころか、俺の今の生活と比べるには無礼すぎるほど煌びやかだったし、それに俺はそもそも、ただの派遣された他人の会社の他人で。こうやって、今まで円満に音之進の成長の過程を見せて頂いたこと自体、奇跡に近い。
    ただ、今までの音之進さんは、笑顔が明るくて、素直で、考えが俺なんかより聡明で優しい時もあり、本当はとても立派な人だった…こんな心無い言葉を冷たく言い放つ人ではなかったと、悲しさに似た自分への情けなさを感じて、帰り道の居酒屋で浴びるように酒を呑んだ。自分でもどうやって帰ったか分からない。朝起きると枕が濡れていた。きっとヨダレだ。
    歩けないほどの二日酔いで、頭がガンガンと揺れる中、顔を洗う前に掠れた声で休みの電話を入れたあと、社長に電話をかけた。ひと時の夢の時間をとにかく早く断ち切りたかった。
    「もしもし」
    『もしもし、やはり酷い声だな。宇佐美が噂をしてた。』
    「……はぁ」
    『それで、用件はなんだ。』
    「音之進さんの教育係を解任するようにしてください。あの人はもう俺がいなくても成績優秀ですから。」
    『なんだ、喧嘩したのか?』
    「いえ、指導の時間にも帰って来ず、身なりも派手になっていくので、それを注意したら、彼直々に「お前がいなくても問題ない」と言われたので…まあ、そうだなと。」
    『ふむ、それで飲んだくれたのか。散々だったな。』
    「……飲んだくれ?俺は風邪をひいたんですよ。」
    『隠すな、隠すな。ま、5年間も一緒にいて、そんな言葉を投げかけられれば、そうなっても仕方あるまい。鯉登社長には、私から言っておこう。』
    「助かります」
    『まあ、教育係は元々大学入学までだったからな、あと少しだったが…大学受験は心配だから、代わりに誰かを立てておくよ。』
    「ありがとうございます。」
    しばらく喋ってガチャと電話が切れる音が聞こえ、「これで終わったんだ」と安堵感とともに、空虚な心も同時にやってきた。
    音之進さんにとって俺はどんな存在だったのだろう。俺に対して、「月島、月島」とにこやかに笑ってくれたり、色んなことを話してくれていたのは……彼の気まぐれなのだろうか。彼にとっては、人との接触など日常茶飯事で特別な意味合いもなかったのだろうか。まあ、全部自惚れか。
    きっと、懐いたのは彼の気まぐれで、俺との接触など日常茶飯事で特別な意味もない。思い上がっていた。
    水を飲もうとベッドから立ち上がると、足元で何か割れた。昨日、家に帰って暴れた形跡か、足元でインスタントの袋麺がパンケージに入ったまま潰れている。
    そういえば、
    『今日、私は月島に教えてもらったことをしっかりと覚えたぞ。偉いだろう?』
    『そうですね。鯉登さんは偉いですねえ。頭がいい。』
    『だから、ご褒美のアレが食べたい。作ってくれ!』
    『……仕方ないですね、内緒ですよ』
    鯉登さんがここへ遊びに来るとたまに、自分が食べたことのない庶民料理をねだってきて食べさせたことがあった。きっとまた食べさせてやろうと昔の自分が鯉登さんのために買っていたのだろう。
    そんなことまで思い出しながら、割れたインスタントラーメンの袋をゴミ箱に捨てようとした瞬間、ゴミ箱の1番上に鯉登さんから頂いた修学旅行のお土産のキーホルダーがあった。カバンにつけていて同僚にからかわれた時もあったが、それが幸せだった。自分で引きちぎって捨てたんだろう、取り付ける紐の部分が毛羽立ってちぎれていた。
    まあ、昨日の俺は中途半端な暴れ方をしてくれたもんだ。部屋中、音之進さんの残骸ばかりで、冷静になった今に遺した拷問だ。とりあえず、音之進さんが俺にくれたものは見えない場所に取っておいて、これから与えようと用意したものは黒いゴミ袋に全て入れて、口を固く結んでおいた。
    頭も痛ければ吐き気も凄かったが、虚しさに比べれば何ともなかったし、薬を飲んでひたすら寝て過ごした。まあ、有給を消化するいい機会になっただけだなと自嘲して朝を迎える。1日休むと昨日までの虚無感は大分マシになったが、ただ無気力になってしまったのが厄介だった。会社に出てみれば気が紛れると思ったが、今までの俺の人生はこんなに退屈だったのか。もういそのこと死んでやろうかと、人生さえ諦めたくなる。
    『もしもし!月島さん!?』
    「は……あ、ああ」
    新しく鯉登さんの指導に付いたのは前山か…。
    『大変ですよ!音之進くん、部屋から出てこなくなっちゃったみたいで。食事も手につけてなくて。』
    「……そうですか」
    『…そうですかって、月島さんの時はこんなこと無かったんですよね!?どうやら、月島さんが解任になった日かららしくて。』
    「……はぁ、そんなこと1度もないな…。でも、俺を要らないって言ったのは向こうだぞ。」
    『それはそうなんですけど……でも、音之進くんも流石に言いすぎたと思ったのか、部屋に閉じこもって泣きじゃくってるらしくて。』
    「……それで?」
    『…お母様が酷く心配されてて…月島さんの時にこういうことがあれば対処の方法を教えていただきたかったんですが……無いなら……まあ、とりあえず様子見ですかね。僕もなんとか取り合ってみます…」
    「すまんな、苦労を掛けるが……まあ、きっと前山のことを気に入るよ。そんなに悪い人じゃない、素直なだけで。」
    それに、俺にはもう関係ない話だ。前山は仕事もできるし、物腰も柔らかい。これからはもう、前山にすべて任せるべきだ。
    「俺が教育係じゃなくなっても、ちゃんと成績優秀でいるし、心配はいらないさ。」
    『…まあ、そうですけど』
    「じゃ、もう切るぞ」
    『あッ……月島さん!」
    そう言って強引に電話を切ってやった。前山には申し訳ないことをしていると思うが、あれだけ言われてノコノコと出ていけるほど、ヤワじゃない。
    ──────────────────
    「音之進く~ん、新しく教育係になった第七商事の前山で~す。どうしたの?ご飯食べないと元気でないよぉ、三日も出てきてないよね?」
    「………」
    顔も知らない、見知らぬ声が外でする。確かに、月島が「解任してもらう」と言い放ったあの夕方からご飯は食べてない。お腹は減らないし、眠気も起きない。暇だからずっと勉強をしていた。お母さまには心配と迷惑をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
    「……月島さんなら……きっと、もう来ないよ。なんであんなこと言っちゃったんだい?仲良かったじゃない。」
    月島に『要らない』なんて言ってしまったことを思い出して、瞳が揺れる。
    「放っておいてくれ。」
    全ては月島が私になんとも思わないことがじれったくて、繕った芝居だった。なんども仕掛けたのに、家にも行ったのに、涼しげに素知らぬ顔押しているから。それに、もう限界だった。月島への思いは実らないのに、欲望ばかりが膨らんで、親に隠れて、マーカーで自慰をすることが増えて。全部、月島を考えながら…。毎晩、溢れてしまった思いが手を動かし、自分の奥をマーカーで突いた。初めて入れたときは違和感しかなかったのに、今ではもう、月島に突かれる妄想をしながらなら、何度も気持ちよくなれるくらいだった。それがつらかった。
    だから、私は性的な経験が一切ない青臭い子どもだと、月島がそう思っていると思い、勉強を今まで以上に努力し、そのうえで経験豊富な風に装った。いろんなところで遊んでいるんじゃないかと心配してもらえるんじゃないかと。そうしたら、気にかけてくれるんじゃないかと。
    学校帰りには校則をきっちり守った服装のまま、図書館でみっちり学習を行い、家に帰る前にパウダールームに寄る。そこで、こつこつと練習していたヘアアレンジをして、ワックスを付けてそれを整え、家の前で制服を着崩し、用意したピアスに見えるイヤリングとネックレスを付けて、何もついていなかった鞄に一生懸命集めるうちに可愛くなってきてしまったキーホルダーの束を付けて、家に入る。
    人生で一度も荒れた人間を見たことがないお母さまは、「おしゃれしてるのね、可愛いわ。似合ってる。」なんて言ってくれて。そもそもこの芝居にお母さまは巻き込みたくなかったので、何を言われるかドキドキしていたが、そこで少し安心した。
    だから、調子に乗ってその生活を続けていたら、荒れた人間を知っている月島は狙い通り、私の姿に注意をしてきた。「かかった!」と思って思わず、気分が乗ってしまい、言ってはいけない言葉を言い放って。もう時すでに遅し。
    『お前なんか居なくても問題ない』
    なんて。……こんなことが言いたいんじゃない。月島に構ってほしくて、放っておいたらどこかに行ってしまうようで焦ってほしくて。でも、天邪鬼なことをして、自分から墓穴を掘った。
    『…そうですね、出過ぎた真似をしました。教育係の件は明日にでも鶴見社長に掛け合っておきます。』
    と暗い瞳を伏せてつぶやく月島を見て、サッと血の気が引いて。後悔先に立たずとはこのことだ……と思った瞬間に涙が溢れて止まらなくなった。月島はどんな気持ちでいるだろう。きっと呆れているに違いない。折角、家に呼んでくれるほど仲良くなったのに……。
    数日経って、前山という男の声がドアの向こうからするようになって、その現実が確かなものになり、また涙をこぼした。
    きっと、もうそろそろこの現実と向き合わなければならない。
    「音之進くん、今日も来たよ」
    今日も前山の声が聞こえて、お母さまの心配そうな顔が脳裏に浮かび、ゆっくりとベッドから起き上がり、ゆっくりとドアノブを回してドアを開けた。すると、月島と同じかやや背の高い、小太りの男が姿を現し、なんともほっとした顔をして、少し間抜けだった。奥にお母さまがいて、嬉しそうに驚いた後、涙を流して喜んでいた。
    「音之進っ!心配したんじゃ…よかった……」
    「あぁ、本当に良かった。やっと出てきてくれたんだね。」
    「……お母さま、ご迷惑をおかけしました、ごめんなさい。前山さんも、すみませんでした。」
    「いや、謝らなくていいよぉ、こんなおじさんと2人きりは嫌だよねぇ」
    前山はそう言って笑った後、部屋に入るのを躊躇ったが私が促すと少し申し訳なさげに部屋に入ってきた。私の部屋の中に適当に座るように促して、私はお母さまが淹れたコーヒーを前山に渡した。いつも月島がやってくれていたことを初めて自分でしていることに気づき、不思議な気持ちになった。
    窓の外を見ると、窓に叩きつけるほどの大きな雨が降っており、止みそうにない。地面と空が灰色に境界線をなくして、とめどない水の流れが道を歪めていた。
    「教えることないくらい完璧だね」と褒められながら課題指導の時間が終わり、優しく笑う前山はもうすでにお母さまと親しげに話していた。その様子をみて、もっと月島が恋くなった。
    謝らないと。ちゃんと目を見て謝って…それで。今日は金曜日、もう決めた。
    ──────────────
    ピンポーン、ピンポンピンポーン。
    風呂から上がり、テレビを視界に入れながらぼんやり見ていると、インターホンなんて鳴らす人がいない、俺の部屋のけたたましくインターホンが鳴る。こんなことする人、鯉登さんしかいなかったが、そんなはずないのだ。鯉登さんじゃなかった場合、宅配だから、後がめんどくさいので、とにかくドアを開けてみると、この雨の中傘もささずにここまで来たのか、大きな荷物を持って、びしょびしょのまま俯いている鯉登さんがいた。
    「……ッど、どうしたんですか…とりあえず中に入って。」
    このまま追い返すような大人げなさは、さすがに持ち合わせていない。それに、もう9時を回っている。金はあっても、行く当てがないし、第一、補導の対象だ。そんな事させるわけにはいかない。
    仕方なく家の中に招き入れ、来客用のバスタオルを渡すと、鯉登さんはそれを黙って受け取り、軽く水気を取ってから髪の毛を拭き始めた。
    「ああ…まずは、お家の方に連絡を入れないと」
    頭の水滴をとっている鯉登さんを横目に、お母様に電話をし、「今日はひとまず俺が預かって、返します」と連絡を付けておいた。少し驚いてぃらっしゃったが、「月島さんの家なら安心しました」と。
    「で、何の用ですか?」
    「……謝りに、来た。」
    「謝りにって……もういいですって。」
    「……よくない。酷いことを言ってしまったと思ってる。」
    「最初に出過ぎた真似をしたのは俺ですから…」
    「違うッ!もしそうだとしても、今まで面倒を見てくれた人に対してあんな言い草は無かったと思う!」
    唇を嚙みしめながら怒り出す。相当気にしているようだ。
    「風邪引きますから、さっさと風呂入ってください。今ちょうど湧いてるんで。」
    「おい、月島。話はまだ終わってない」
    「だから、終わりましたって。気にしないでください」
    ぶっきらぼうに言い放って、グイグイと風呂場に押し込んだ。風呂に入れば少しは冷静になるだろう。
    虫の居所が悪い。モヤモヤする。イライラもするし、この怒りの感情をどこにぶつけていいのか分からず、鯉登さん風呂に入ってる間にソファのクッションを数回殴った。
    ───────────
    「月島……」
    風呂から上がった鯉登さんがリビングに戻ってきた。ドライヤーで乾かしたのもあって、髪の毛は多少湿り気を帯びているものの、しっとりと落ち着いていて…鯉登さんの何もしていない髪の毛を見るのは久しぶりだった。
    「……洗面所のドライヤー、勝手に使ったけど………あれ、誰のだ?月島は坊主だろ?」
    「はぁ?忘れ物ですよ。取りに来ないんで置いてるだけです。」
    「か、彼女…か?」
    「元ね。……ここ何年もいませんよ。」
    俺がそう言うと、キュッと口を搾ったまま俯き、隣に腰かける。
    というか、やっぱり部屋着が派手で露出も多い。そもそも泊まる気で持ってきた部屋着なんだろう。こういう勝手で後先考えず、ワガママな。それと……なんだそれは。袖に二本のラインが付いたテロテロの光る黒いパーカーを胸元まで開けていて、中には黒いタンクトップ。下はパーカーと同じように横に二本のラインが付いたホットパンツ丈のショートパンツ。おまけに足は生足。寒くないのか、それ。チラチラと覗くお風呂上がりの褐色肌や艶やかな太もも、鎖骨、豊満な胸筋。それに、揺れ動く甘い香りが相まって、妙にソワソワした。
    「……い、家でもその部屋着なんですか?」
    「…うん」
    あ、耳にもピアスか?これ。
    「最近、そういう服が好きになったんですか?」
    「……うん、ちょっと……気に入ったし……」
    「いや、似合ってはいるんですけど……せめて、露出は少なくした方が良いですよ」
    俺がそう言うと、鯉登さんは少しムッとした顔をしてこちらを見た。なんで不機嫌になるのか分からなかったが、とりあえず謝ることにした。
    「……これも出過ぎた真似ですね、すいませんでした。」
    すると鯉登さんは下唇を噛むようにして俯いてしまった。どうしたらいいのか…
    「まあ、勉強の方は優秀ですし、お友達が増えることはいい事ですから。」
    自分に言い聞かせるように。
    「………友達……?…うん。」
    俺がそういうと、鯉登さんは視線を逸らして、しばらく黙っていた。
    そうだ、そうだぞ。たとえ少しチャラついた友達であったとしても、俺ばかりと遊んでいるよりはよっぽど健康的だろう、こんな一回り離れたおじさんと比べれば。
    「夕飯は食べましたか?」
    「…………うん」
    元気はないが、仕方ない。当分この調子だろう。
    「俺のベッドなんて嫌でしょう。布団出しますね……心配なんで俺もここでソファに寝ますけど。」
    鯉登さんは『うん』しか言わない人形になってしまったのでは、と心配になる程に静かに頷くだけだった。昔、元カノが泊まる時に使っていた敷布団が残っていたはず。長らく使ってないが、俺が使い古したベッドに部屋で一人寝るよりはマシだろう。
    「あー……嫌なら、少し遅くなりますけど、近くのコインランドリーに行きます……まあ、気持ち悪いか。行ってきますね、勉強して待っててくださいね。」
    「……うん」
    遠目で部屋を眺めると、鯉登さんだけCGのように浮いていて、服装も相まって、なんだか黒ギャルもののAVみたいだった。目のやり場に困るが、目を離せなかった。じっと何か言いたげに俺の顔をみる顔は長い睫毛に切れ長の瞳、高い鼻、キメ細やかな肌と潤った唇。何もかも整っていて、思わずたじろいだ。
    「……あ?行ってきますよ」
    もう一度強く言う。
    「…………待ってる」
    「はいはい」
    「……早くな」
    「はいはい。」
    異様にむず痒くて、逃げるようにしてコインランドリーに向かった。
    ────────────
    元カノ……確かに洗面所にあったドライヤーも付け合せのものじゃなくて、いいものだった。
    『いや、似合ってはいるんですけど……せめて、露出は少なくした方が良いですよ。』
    もっと…言うことは無いんだろうか。魅力的には見えないのだろうか?やっぱり……女が好きなんだろうか。私にドキドキしないのだろうか。
    黒いパンツから伸びる手入れをされた自分の光る足を少しつねる。やっぱり女のようにはいかず、きっと硬い。
    「……一応、下着も気合を入れてきたのに。」
    女なら、少しは動揺しただろうか。……いや、所詮、私は月島にとって『男の子』なのだ。どれだけ頑張っても女ではないのだ。だからきっと月島は私が好きにならないし、恋もしないのだ。
    「……謝りに来たというのに、性的に見ろなんて……馬鹿な話だ。」
    月島のいない部屋を眺めて、小さく呟く。自分に対してでも、月島に対してでもなく、ただ1人呟いただけ。
    「帰りましたよ」
    ガチャと扉が開く音と共に月島の声が聞こえて、月島に「帰りましたよ」なんて言われる未来を羨ましく思った。
    「…………うん」
    こうやって元カノと頻繁にお泊まりしていたのだろうか?結婚したら、奥さんにそういうんだろうか。
    「…………」
    「あ、布団、敷きましたよ。どうぞ。」
    まるで、他人のように。月島は、優しいようで、冷たい男だ。そうさせたのは自分の間抜けな物言いだが……
    そう思いながらも、ソファの前に敷かれた布団にペタンと座る。
    「ありがとう」
    「どういたしまして」
    「………もう一度、言うが……本当にごめんなさい。……もう言わないから、また私の勉強を、見てくれないか……お願いだ。」
    頭を下げる。もう涙が零れてしまいそうだった。
    「……もう、この話は終わりでいいですよ。それに、教育係も、もともと大学受験までの間でしたから、続けたってあと少しの間ですよ。」
    「……え、え」
    大学受験が終わったら、終わり?続けたってあと少しの間?
    「……つ、月島は、月島は…大学に合格したら会ってくれなくなるのか?」
    「まあ……そうですね。」
    「そ、そんなの嫌だ!大学に合格したって、月島に会いたい!」
    ソファに座ってぼぅっとテレビを見る月島に精いっぱい声を張り上げた。
    「鯉登さん、大声出さないでくださいよ……近所迷惑です。」
    「……う、ごめん。」
    月島は少し困ったように頭を掻いて、テレビを消した。確かに、さっきの声は大きな声だったかもしれない……だけど!
    「会えなくなるなんて嫌だ……何度だって謝るから……」
    「いや、謝るのはもう本当にいいですって。」
    呆れた顔。やっぱり、大人な女の人じゃなきゃ…
    「……じゃあ、どうしたらいいんだ……」
    「どうしたらって……どうもこうもないですよ。もともと他人の会社の他人なんですから。」
    冷たい言い方だ。
    そもそも、月島は最初からずっとそうだ。いつも他人行儀で、敬語で……少し壁を感じる。少しは心を開いてくれているかと思っていたけど、そうではないようだ。
    「……う~~~……わたしは!月島が好きだ!」
    ずるんとショートパンツを脱いで、月島の目の前に仁王立ちした。黒いレースがあしらわれた紐パン。月島は目を大きく見開いたが、すぐに元からざらついた暗い瞳をもっと暗くして、力強く布団に体を押し倒してきた。
    「……アンタねえ、こんなのどこで習ってきたんだ?あ?」
    今まで聞いたことがない、怒りに満ちた低い声。腹の奥までビリビリと痺れるような感覚がした。
    「最近、なんだか着飾って夜遅くに帰ってくるようになって、どこで遊んでたのやら…」
    月島の手が私の足を優しく撫でる。優しいといってもいつものような感じではなく。皮膚を逆なでするような…
    「あ…あ…」
    今度は、腕がうっ血するほど強く握られ、逆光で月島の顔が黒く染まっていた。声が出ない。
    「なあ、どこでこんなの習った?」
    「……っ」
    「おい」
    「ひ」
    足を強くつねられ、思わず声を上げてしまう。今までとは全然違う乱暴な言動と行動に、心臓がドキンと飛び跳ねる。こんな月島見たことがない。直視しているようでしていない。顔が上手く見えない。
    「悪いお友達がいるみたいだ…いや、本当に友達か?服装も、この下着も、そいつに教えてもらったんだろ?」
    「ち、違うッ!そ……そんなのいない!」
    「……チッ。」
    大きく舌打ちをした月島が、私の腕を掴む。強い力だった。そりゃそうだ。背は低いが、月島は岩のような大きな体をしていて、男子高校生の平均よりは体を鍛えいる私であっても…いや、男子高校生を数人相手にしたって敵いっこないのだ。
    「こんなに……可愛い子がこんな格好してて、お友達が寄り付かないはずがないんだ……そのお友達は何人いるんだ?男か?女か?」
    「っ!」
    獲物を狙うような……食われるような鋭い瞳。
    「なあ……おい!」
    「ひぐッ!や……やめ……」
    ドスンと畳に押し付けられる。その度に肺から空気が押し出されるようだった。月島は、本気で怒っているのだ。目が血走っているのが分かるくらい顔が近い。あまりの怖さに身をよじったがビクともしなかった。
    「どれだけ心配して、どれだけ……くそっ!!」
    「っ、ごめ……ごめんなさ……」
    涙をぼろぼろと零しながら、謝罪をする。腕も足も……全身がミシミシと音を立てているような気がした。きっと痣になるくらい強く握られているんだ。痛くて、怖くて、呼吸が上手くできなくて……
    片腕が解放されて、平手が飛んでくると思って歯を食いしばった瞬間、バチンッと音がしたが痛みがなくて、恐る恐る瞳を開くと、月島の片側の頬が腫れていた。あの平手は月島自身の頬を打ったようだ。それと同時に、すっと身体の重みがなくなり、解放された。
    「あ……」
    「……服着てきてください。もう寝ましょう。教育係の件は鯉登さんの判断に任せます。」
    月島は、布団から起き上がると、さっさと洗面所に向かってしまった。電気が付いたしんとした空気、握られて跡が着いた腕を見つめてから、起き上がって洗面所の方へ行く。
    月島は洗面台で顔を洗い、頭と腫れた頬を冷やしていたようだった。私の姿を見つけるとハッとした顔をした後、
    「……つきし……」
    「ごめんなさい」
    私が名前を言い終わる前に、頭を下げてきた月島に「えっ」と声が出た。だって怒られるようなことをした私が悪いのに、まさか謝ってくると思わなかったから。
    「え……えと……」
    「……怖がらせてすみませんでした。ちょっと、カッとなってしまいまして」
    「い、いや……私の方こそ……すまなかった」
    月島が頭を下げるのをやめさせ、二人で部屋に戻った。
    「……寝ましょう」
    「……うん」
    とうとう電気を消されて、真っ暗な部屋で布団に入る。モゾモゾと月島が動く音がして、
    「……全部話すから、月島」
    暗闇に向けて喋った。
    「私は結構前から月島を好いていて、それはそれはかっこよくて優しい男だと思っていた。でも、私は月島から見たら誰よりも青くて、誰よりも色気が無くて……だったら経験があるような、遊んでるような振りをすれば少しは気にしてくれると思って……お母様には心配をかけたくなかったし、月島が一生懸命教えてくれた勉強を無下にしたくなかったから、図書館でみっちり勉強した後に、パウダールームに寄って、髪の毛を整えて、制服を着崩し、家に帰っていた。これが真実だ。おかしいだろう?笑ってもいいぞ。私には相変わらず友達なんていないし、色恋なんてもってのほかだ。だから、月島の言うお友達なんて本当にいないんだ。」
    「……」
    「幻滅したか?それとも呆れて言葉も出ないか?」
    暗闇の中で目を凝らすと、月島がソファから上半身を起こしたのが分かった。 恥ずかしくて、逃げるように布団に潜る。
    「この耳のだってイヤリングだし、カバンに付いてるキーホルダーも一生懸命集めていくうちに好きになってしまって」
    布団にくるまったまま、そう言う。なんだか、笑えてきてしまった。
    「月島が私の事を好きになるわけなんてないから、好きになってもらえるように必死だったんだ。勉強だって……なんだってやった。」
    「鯉登さん」
    「…おしまいっ…もう寝よう。たくさん心配かけて悪かった、ごめんなさい。」
    声が震える。涙が止まらない。だって月島があんなに怒ったんだもの、私の計画は全て裏目に出た。タネ明かしとはこんなにも勇気がいるものなのか…。自分のした事が恥ずかしくて恥ずかしくて。
    「鯉登さん」
    月島の手が布団に触れる。
    「……いやだ」
    布団に深く潜りながら拒否をした。今はとてもじゃないが見せられる顔がない。
    「こっち向いてくださいよ」
    「いやだ、月島が怒ってた」
    「怒りませんよ。もう怒ってません。」
    ポンポンと布団を叩く手が優しくて、ゆっくりと布団から顔を出せば、薄暗い中で月島が優しそうに少し微笑んでいるのが見えた。
    「……どうして笑ってるんだ?」
    「……鯉登さんが可愛くて仕方がないもんで。全部俺のために芝居を打ってたんですか?こんなもの付けて?」
    「う……あっ……」
    ぐい、と腕を引っ張られて、身体を起こされる。そして耳の飾りを触られた。少しくすぐったくて身体が震える。
    「月島のために頑張ったんだ……おかしいだろ?」
    そう言うと月島は笑った。今度は声をあげて笑っていた。そんなに変なのか?私の必死の努力は笑われてしまうくらいのものだったのか?私は不服そうな顔をして月島を見上げた。
    「この服も、わざわざ買ったんですか?あの下着も。」
    「……下着は前から……」
    「え?」
    「し、下着は……いつかの、ために、買ってた」
    そういうと、また「あーはっはっは」と聞いたことないような大きな声で月島が笑った。思わず肩がビクッと震える。首を逸らして、喉仏が動いてた。
    「いつかのためにねぇ、いつ?」
    「へ……」
    「いつ着るんですか?そのいつかは」
    「え……えと……月島が、私と、その……せ、セックス……するとき」
    「ふうん。そうですか。」
    食い気味に。
    顔が熱い。暗闇でよかった。だって、こんな恥ずかしい事を言うのなんて生まれて初めてだ!もう、月島の顔を見る余裕もなくて布団に潜ろうとしたら、また腕を引っ張られた。
    「まだ終わってない」
    「も、もういいっ!もう終わりで……!」
    「…その服は?ネットで調べて買ったんですね?鯉登さんの趣味じゃないですよね」
    「う、うぅ……調べながら買った……」
    「くくく……あはは、はは」
    また、笑われた。なんなんだろう?馬鹿にしているのか?惨めだ……
    「なあ、月島、もういいだろう……恥ずかしくなってきたぞ……」
    そう小声で言うと、
    「…さんざん心配して、傷ついたのが馬鹿みてえだ。全部俺とセックスするためのお膳立てだったなんて……はは」
    「つ、つきしま……?」
    「ふは……ははは!」
    月島は、また大きな声で笑い出した。そんなに面白い事か?私の渾身の計画だったのに、大人の人間からしたら面白いのか…
    「好きになっちゃダメだと思ってたのはこっちだったのに。」
    「え?」
    「教育係で、ましてや未成年。好きになるには制約が多いのはこっちなんですよ。「月島、月島」とくっついて甘えられて…体はどんどん逞しくなっていって、可愛げも品もあって聡明で、素直で!どんどん魅力的になる……こっちの気持ちも知らないで、無邪気について回って、挙句の果てにはコレだ。も……ほんと、腹立つなぁ……」
    掠れた低い声で捲し立てる。月島どころか、初めて見る人間の一部だった。
    「……え、えっと…月島は、私のこと好きなのか?」
    「ええ、好きです。」
    はっきりと即答され、身体が固まる。多分私は今目が飛び出るほど驚いているだろう。そんな私を見て、また月島が自嘲気味に笑った。
    「気持ち悪いでしょう?」
    「そんなことない」
    「嘘でしょう?こんなことされても?」
    「あ……っ」
    月島が、こちら側に来て、もう一度押し倒される。もう暗闇に目が慣れて、窓から差し込む街灯の明かりで何が何だか全部見えていた。
    「……ふっ、貴方、セックスがどんなものか知ってるんですか?潔癖な貴方がセックスなんて…笑えるな。」
    「セックスくらい……知ってる!調べたし…し……その…」
    呼吸が荒くなる。身体が熱くて、恥ずかしくて、このまま溶けてしまいそうだ。
    「なんですか?」
    「う……だから、その……」
    「……鯉登さん、したことあるの?」
    「あるわけッ……な……い……けど!!!」
    知ってる、知ってるもん!だって、だって……
    「けど?」
    「オナニーしてたもん……」
    「……はッ……オナニーとセックスは違いますよ…アンタ、手でシコッてただけでしょう」
    「ち、違う……」
    「違う?」
    はす……はす……と自分の呼吸の音だけが聞こえる。
    「…だって、月島とセックスする想像をして……それで」
    「それで?」
    こんな状況でありながらも、月島が私の言葉を遮らず、すべて聞いてから話し始めてくれていることに気づいて、腹の奥がキュウ…と音を立てる。
    「お尻の穴で、してた…んだ…」
    「は……は、は、ははは」
    「お、おかしいか?」
    「……おかしくはないけど……はー……」
    月島が深いため息を吐いた。呆れているのか?嫌いになってしまっただろうか?
    私はなんだか悲しくなってしまって、ぼろぼろと涙が溢れて止まらなかった。
    「へぇ……そうですか?じゃあ、調べたとこにどう書いてあったか、教えてください。ちゃんセックスするみたいにオナニーできてるか。」
    「え……」
    「ほら、教えて」
    耳元で囁かれる。ぞくっと震えて、息が漏れた。
    「今の俺は貴方の教育係じゃない、だって貴方がそうしたんですから。今は俺と鯉登さんとして。」
    言い聞かせるように、耳に吹き込まれる。
    「そ……そんなの、無理だ。」
    「ダメ。ほら、言って?」
    耳にキスをしながら。イヤリングが揺れて、いつもより甘く低い声で催促されればひとたまりもなかった。出来るだけ小声で勉強したことを口にする。
    「は……ハグして……」
    「ん?」
    「キスをして……」
    「キスって、こんなのじゃないでしょ?」
    ちゅと頬にキスされて、そこから体が熱くなる。
    「唇」
    「うん?」
    「く、唇を重ねて」
    「重ねるだけ?」
    いつも勉強してる時と同じ復習の仕方だ。全部思い出せるように、間違えないように、問いただして反復させてくれる。それが尚更、ぞくぞくと体を震えさせるが、恥ずかしいことを言うのを止めさせてはくれなくて必死に声にする。
    「舌を……」
    「舌を?どうするの?」
    首筋を舐められる。身体が強張って、息が漏れてしまう。ああ、恥ずかしい……涙が出る……でももう言うしかないんだ……。
    「絡めて」
    「……それで?」
    月島は、薄いパーカー越しにお腹を撫でながら聞いてくる。いやらしい手つきが腰に響いて、ジンジン痛くなった。こんな服選ぶんじゃなかった。
    「……む、胸を……揉んで……そしたら男の人が……」
    「こう?……こうやって揉むの?」
    ぎゅうと胸を掴まれる。ぐにゃりと形が変わるほど揉みしだかれれば、下着の中で乳首がツンと主張したのが分かった。お、男同士なのに、女のように胸を揉まれて、その先端を指で潰され、グリグリとされる。むずむずして、足をすり合わせる。
    「ン……んん、それから、いろんなところを舐めて。キスして。」
    「いろんなところってどこ?」
    「あ……」
    月島が、私の腰を撫でながらそう言う。ああ、もう頭がぼーっとしてくる……熱い息が漏れて、自分が自分でないみたいだ。恥ずかしくてたまらないけど……私は意を決して答える。
    「……むね、や、股間…」
    「ふうん。そのネットだか、本だか知りませんが、そこには股間って書いてありましたかね…」
    書いてなかった。ちんぽとかペニスとか……卑猥な言葉がいっぱい。「言えない」という意味と「違う」という意味を込めて首を振る。
    月島はそれを見て「そうですか」と言った後、太ももを擦る。じわじわと何かが溢れる。
    「何て書いてありましたか?」
    「あ、あ…お…ちんぽを……」
    「……鯉登さんの口からちんぽなんて言われるとなんだか興奮しますね」
    そう言ってまたキスをされた。今度はおでこに。
    「勃起したおちんぽを、おしりに擦り付けて、それで」
    「はい。それで?」
    「な、なかっ……」
    月島に下腹部に手を置かれて撫でられた。焦れったくて、身体がむず痒い。無意識に腰を揺らしてしまう。
    「……中まで入れて」
    「中?入れて?何を?どこに?」
    「あ、あ、……え、勃起したおちんぽ……を、お尻の穴に…の…中に入れる。」
    「入れて?それで?」
    「あ、あ、」
    もうダメだ。我慢ができない。頭がおかしくなりそうだ……。
    「……きもちよくなって……」
    「気持ちいいって?どうなる?」
    月島の手が私のパーカーの中に入ってきた。すりすりと骨ばった指で腹の上を撫でられる。肌が粟立って、ぴくんと跳ねた。はしたない……恥ずかしいのに、どうしてもその先を言ってしまう。
    「……何も考えられなくなって、好きでいっぱいになって、びくびく震えて……」
    「そうするとどうなる?」
    「……イッちゃって、それで…もう、おしまい!!!」
    「はい、よくできました。」
    月島が私の頭を撫でた。褒められたのだ……嬉しくて胸がジンとする。でも恥ずかしいのは変わらなくて、もうどうにでもなれと月島を抱きしめた。
    「上手にできてたか?…セックスの勉強」
    「ああ、よく出来てました。が、まあ、だって、実践したことないでしょう?」
    「……え?」
    そう耳元で囁かれる。ぶわわと顔が熱くなってきて、私は月島に抱き着いたまま硬直してしまった。
    「こういうこと……セックスをね、鯉登さんは知らないだけで同級生も沢山シてんですよ、もうとっくに。まあ、鯉登さんが通うようないい所のお坊ちゃん達がみんなそうか知りませんが。」
    「そ、そんなわけない!!」
    抱きしめていた腕を離して、月島の目を見る。だって、みんな、みんな、普通の顔してるから。
    「だ、だってセックスは、大人になってからするものだ……だから、今、月島と私がしてることは悪いコト。」
    「でも、俺とセックスしたくて、したくてたまらなくて、オナニーして、エロい下着つけてここに来たのは鯉登さんですよ?」
    「う、うう……」
    図星だ。全部見透かされている。
    「ほら、ね?セックスなんてみんな好きだからヤッてるんです。罪じゃないですよ。鯉登さん16でしょう?俺、もうその時にはセックスしてましたから。」
    「……え……え?」
    月島が、こんなふうに誰かとセックスしたのか?私以外の誰かと裸で触れ合って、キスして、色んなところを舐めて、それで……。そんなこと考えたくもなかった。泣き出しそうになったが、ここで泣いてしまったら、また子どもだと思われる。私は大人だから、泣かない。泣くもんか。
    「あのね、鯉登さん。」
    「ん……」
    ぎゅうと抱きしめられて、心臓の音が伝わってきた。少し早い鼓動。
    「貴方が思ってるより、大人ってずっと汚いんですよ。」
    ドク……ドク……ドク。
    月島の心臓の音なのか、私の心臓の音なのか、分からないが、その音だけ聞こえるようになってきて、もう何も考えられないくらいふわふわするのを感じた。催眠術にかかったみたいに、窓の隙間の街灯が揺れる。髭が首にあたってくすぐったい。
    月島と、セックスしたい。月島が今までセックスしてきた人よりずっと愛されたい。
    「鯉登さん、今から俺と、セックスします?」
    街灯を受けた月島の瞳が緑色にギラッと光って、今まで見たどんな宝石より魅惑されて、引き込まれた。口元が片側だけ釣り上がった悪い顔。いつもの仏頂面とは違う。怖い顔なのに、心臓がうるさくて堪らない。
    「する……っ、月島とせっくす……」
    眉間を撫でた。
    「教えて……セックス、最後まで。」
    「分かりました、2人だけの内緒ですよ。」
    ちゅ、と唇にキスをされて、胸の鼓動が一層激しくなった。
    「口開けて、べってベロ出してごらん」
    「え、んぇー」
    そう言われて、べっと舌を出す。舌と舌が絡まって、ヌルヌルした感覚に息が漏れて腰が揺れた。
    「ふ……ふぅ……」
    唇を合わせてからすぐ舌を入れられて苦しい。でも、初めての感覚が気持ちいい。頭が月島のことしか考えられなく。なんだこれ?こんなの知らない……。月島もみんなもこんなふうになって、キスしてるのか。
    息継ぎをしようと口をずらしたら月島の唾液が流れ込んできて体が震えた。上顎をなぞられるとくすぐったいような変な気分になって、思わず腰が揺れてしまう。
    「んっ……ふ……はぁ」
    どちらのものか分からない唾がどんどん喉を通って、月島の舌が口の中を勝手に這いずり回って、捕まえられなくて。気持ち悪いはずなのに…もっと欲しくなる。
    「鯉登さん、ほら。舌出して。」
    「んぇ……」
    言われるがままに舌を出すと、また唾液を流された。溜まったそれを飲み込もうと喉を動かせば喉が鳴って恥ずかしいし、何だか空気に触れる舌がジリジリと痒い。
    月島の口が離れるとツウと糸が引いて、ツーと私の唇に落ちる。またそれを吸い込んだ。
    「つきしま、もっと……」
    「ん……かわいい」
    ちゅ、とまた舌を吸われた。
    可愛い?私……おいは月島から見てかわいい?
    ざらついた舌の表面同士を擦り合わせるのが気持ちいい。もっと吸ってほしくて一生懸命舌を伸ばすけれど、どうしても届かないから喉を晒すように顎をあげると今度は上顎をなぞられた。ゾワゾワして思わず手を月島の背に回して、シャツを掴む。知らない感覚に驚いて舌を引っ込めると追いかけるようにして月島の舌が入り込んできて好き勝手に舐められる。
    「……んは……はふ……む」
    ずっと気持ちよすぎて、目を剥いてしまうほど。もっと、もっと……月島に触って欲しい。月島と早くこうなりたかった。ずっと前に月島とこうなっていた顔の知らない人たちを羨んで、妬んで、月島の背中に爪を立てた。妬み嫉みなんて、初めての感情だ。人なんて皆同じで、私の方が優れてるから妬む必要なんてなかったのに。
    鯉登家の人間というだけで、皆が私を見る。それでいて誰も私を見てない。だから気にならなかった。
    でも、月島はどこか私にも家にも興味がなくて、それでもちゃんと叱ってくれて、褒めてくれて、しっかり勉強を教えてくれて、何よりも一緒にいるのが楽しくて。
    月島には、こんなにも見て欲しくてたまらない。体の奥の心の奥まで剥いで、捲って見て欲しくて、月島の身体の奥も心の奥も全部私だけのものにしたくなる。
    「あぅ……つきしま……」
    「ん?」
    「もっと」
    月島が口を離すから寂しくて甘えるように口にキスをすると、優しく笑ってくれた。
    嬉しい……私だけに向ける顔。もっと見たい。私だけを見ていて欲しい。私がどれだけお前を愛しているか証明したい。今までの女と比べ物にならないくらい愛してやる。忘れることなく、ずっと一緒に。
    「けっこんしたい」
    そしたら唇が離れた瞬間、言葉になっていた。
    「結婚?」
    「うん、けっこんしてずっと一緒にいる」
    ずっと一緒にいたい。誰にも取られないように首輪をつけて繋いでおきたいくらいなんだ。私は自分のこの感情の名前が分からないけれど……とにかくどうしても繋ぎ止めたいんだ。お前の全てを私のものにしたいし、私も月島のものにしてほしい。
    「鯉登さんが大人になったら、しましょうね」
    「セックスしたら大人じゃないのか?じゃあキスしたから大人?セックスしたら結婚できるのか?」
    「鯉登さん、一生懸命ですね…何言ってるか分かんないですよ。」
    月島がまた頭を撫でてくれた。気持ちよくて擦り寄ると今度はほっぺたにキスをされる。身体が熱くなってきた。もっと……もっとしてほしい。
    「大人になったらっていうのは…鯉登さんがたくさん勉強して、希望の大学に行って、俺よりたくさん稼ぐようになって、それでも俺のことが好きで仕方なかったら……ね。」
    遠くの思い出を懐かしむようにそう言うと、私の目を見て寂しげに笑われた。その表情に胸がきゅうと痛くなって、今度は私が月島の頭を撫でる。
    「わかった……私、勉強頑張るぞ」
    「はい。じゃあそろそろ始めましょうか。」
    そう言うとまた頭を撫でられて、チュッとキスをされた。
    「あ……ああ、ローションとかゴムがないと…取りに行きます。」
    「……持ってるのか?」
    「………ん、え、ええ。まあ、そりゃ。」
    歯切れ悪く。誰かに使ったことがあるから、持ってるんだろう?
    「い、いやだ」
    「……え?」
    「やだぁ……」
    思わず月島の胸元を掴んでグイグイと引っ張る。嫌だ、他の人が使ったものを使われるのは……嫌だ。これは私のわがままだ。わかってるけど嫌なものは嫌で……それでもそんなこと言える立場じゃないし。でも言ってしまったらもう引っ込みがつかないんだ。涙も出てきて止まらなくなった。だから力尽くだが、月島を引き寄せた。
    「でも、鯉登さんを傷つけたくはありませんから…。突然のことだったので、すみません。」
    「……でも、でも」
    「このままだとセックスできなくなっちゃいますから」
    ぽんぽん、と頭を撫でられた。顔を上げると困った月島の顔。仕方がないからうんうんと頷いておいたが、納得はしていないからな!!そんな思いを込めて睨みつけるが、優しく微笑まれただけだった。
    「じゃあ持ってきますから、それまでいい子にしてて下さいね」
    「ん……」
    チュッとまたキスをされたあと、恐らく月島の寝室に明かりがつく気配がして、ごそごそと月島が探っている音が聞こえた。そこで月島は寝起きして、きっとそこで、その寝室で私の前に私以外の人と、今探しているローションとコンドームを使って…それで、セックスしてたんだ。そういえば、そんなに見たことがなかった月島の家の天井をぼんやり眺めて、涙が乾くのを待った。
    「鯉登さん」
    しばらくすると、帰ってきた月島が私を呼ぶ。手にボトルと箱を持っていた。初めて見るものに対してドキドキする。これがローションとゴムか……気になる……後で見せてもらいたい。
    「さっきの続き、しますね」
    ローションとゴムから目が離せなくなった私の思考を切って、こちらに向けるように月島が少し強くそう言う。
    「もっかい、キスしよ…」
    月島の首に手を伸ばすと、その手を取られて月島の太い首に回されて、ずしっと体重をかけられてキスされた。今度はさっきよりも激しく舌が口の中のいろんなところを這い回って、頭がぼやっとしてくる。私も真似して舌を動かすけれどうまくいかないし、口の中がいっぱいでうまく唾液を飲めないから口から漏れて顎を伝って落ちた。
    「はふ……う……」
    舌をちゅっと吸われて、口を離され、じっとり見つめられる。その目と見つめ合いながら、はぁ……と息を吐く。
    「つきしま、つきしま」
    「うん」
    身体中が熱くて苦しくてどうにかしてほしい。下半身もずっと疼いて、もじもじ腰が動いて仕方ない。早く触ってほしい。心臓が痛いし息ができないし、苦しいけれど幸せで死にそうだ。……セックスってこんなに気持ちいいのか?
    「触ってほしい?」
    コクンと頷く。
    「ん、分かりました。」
    なんだか恥ずかしくて目を瞑った。
    「んん……ぁ、ああ」
    もう一度、唇にキスされて、首筋に舌が這う。
    「あっ……あぁ、ふ」
    まだ肝心なところを触られてないのに、自然と声が出る。必死に口を押さえて、声が出ないようにした。
    「声、出していいんですから……」
    「で、も…はずかしいではないか…?」
    「その方が気持ちいいですよ。」
    耳元で囁かれてゾワゾワするし、服の裾から手が入ってきて腹や脇腹をさすられて鳥肌立ってゾクゾク震えるし、頭で「すき」という気持ちがぐるぐるしてくる。
    「ここ、開けていいですか」
    少し開けたファスナーをとんとんと指さされ、ふんふんと鼻息荒く頷く。自分でファスナーを下ろそうとすると、月島の手が重なってきて、ひゅっと息が止まった。手が重なったままファスナーを下ろされ、はらっと服が滑り落ちて、黒いタンクトップが露になった。
    自分から脱いでしまった、ふしだらではしたない。でも、これから全部、月島に見られながら服を脱ぐんだ。そう思うだけで胸の辺りがぎゅっと締め付けられて、下半身もひくついた。
    勢い余ってタンクトップの裾を捲り上げようとすると、月島の手がそれを止めて、タンクトップの下からでもピンと主張するそれを焦らすように、くるくると周りに縁を描いた。
    「一人でする時は、ココ、触りますか?」
    「分からない」
    オナニーする時は、月島とのセックスの妄想に一生懸命で、後ろの手を動かすので一生懸命で、何も覚えてなかった。
    「じゃあ、一緒に触ってみましょうか」
    タンクトップの上からつんと指でつつかれ、先端をすりすりと撫でられる。
    「ん……ッ、な、なんか……」
    「同じように触ってみてください」
    そう言われて恐る恐る手を伸ばし、ツンと山を作るそこをすりすりと指先で撫でてみた。
    「んッ、うぁ……」
    今まで味わったことのない快感がビリッと駆け巡る。ぞわぞわして腰が浮き上がる。すりすり、すりすり……と自分でそこを擦り続けると頭の中が真っ白になってきた。
    「次はこうして。よく見ててください。」
    「…ん、ふん」
    今度は乳首を親指と人差し指でキュッと摘まれて、くにくにと捏ねられる。すりすりしていた指を見た通りに変えて、月島と同じようにくにくに捏ねる。
    「んッ、ン、ああ……あ」
    気持ちいい。やっぱり一人でするより何倍も気持ちよか。やめられん……ずっとしてたい……でも乳首だけじゃなくて、触ってほしいところがいっぱいあるのに。
    「気持ちいい?これじゃ口も塞げないでしょう?」
    「んあ……きもちい……」
    「お上手です。もしかしたら、一人の時も無意識に弄ってたのかもしれませんね。」
    こくこくと月島の言葉に頷く。
    「次はタンクトップを捲って、直に触ります。」
    乳首から手を離すと、ベロンとタンクトップを捲られる。自分の茶色い肌に月島の白い手が乗って、月島の手の動きが良く見えた。
    「さっきと同じように。触りますね?」
    「ん……」
    乳首を直接すりすりと撫でられ、片側はくにくにと捏ねられる。たまにキュッと摘まれて、爪で弾かれながら弄ばれると、自分の指でも声が漏れ出てしまう。
    「あッ!ん……、あぁ」
    「どう?」
    「わからな……っでも、じんじんする……」
    さっきよりずっと頭がぼんやりしてきて、月島が何をしているのかよく見えない。頭の中は気持ちいいしか考えられなくて、身体が熱くなってくるし息も上がってくる。
    「…ぁあッ…ぁん、ん、ぅ」
    はふはふ、と息が上がって上手く息が吸えなくて、その度に声になって口から出て、その声がとても甘くて変な声だと自分でも思うのに抑えられない。口を開けっ放しだから、口の端から涎が溢れた気がする。それを拭う余裕もなくて、ただずっと与えられる快感に身を委ねて、声をあげるしかできない。
    「…鯉登さん」
    「あぅ……うん……」
    月島が何か言ったような気がして、返事をしてみた。目が合う。すると、月島の顔が近づいてきて、キスをされた。
    「ん……う」
    ちゅ、ちゅ。
    月島の唇が首筋、鎖骨、胸元と降りていき、はーッと息がかけられる。
    「あんっ」
    とうとう、先端にちゅと。月島の唇が触れた。ビビッと足先が跳ねて、自分の身体じゃないみたいに。
    「や、あ、だめっ……だめ、だ……」
    ちゅっと唇で包まれて、何度も啄まれて、舌先でちろちろと舐められて。
    「片方は教えたようにしてごらん」
    そう言われて、おずおずと自分の乳首に手を伸ばす。ドキドキと胸が大きく跳ねて、きっと月島にも聞こえちゃってる。
    「んっ……んっん、ぁ」
    指先ですりすり撫でて、人差し指と親指くにくにと捏ねる。
    「んはー、ぁっ、あッ、はー、ふぅ」
    長く走ったあとの上手く息が吸えない苦しさじゃなくて、重い布団に押しつぶされるような苦しさ。なのに、同時に気持ちのよで頭の中がいっぱいになる。さっきから腰の辺りがずっとゾクゾクして、クネクネ動いてる。
    「あ……ふ、ふー、つきしま……つきしまぁ……」
    「ん、なんですか」
    月島の声が優しく聞こえて、ぼんやりする頭で返事をする。
    「からだ……熱い……とけそ……」
    「うん。かわいいね。」
    「……きす……したい……」
    「キス、好きですね。」
    「ん……すき、つきしまが、すき」
    そう言うと、月島が私に覆い被さって、また口を合わせてくれる。今度は私に合わせてゆっくり舌を絡めてくれて、しっかり一緒に気持ちよくなってる気になった。
    唇が離れても舌は出しっぱなしで、ぷらぷらと舐め合った。
    「俺も好きです。」
    そう言われて頭がぽやぽやする。嬉しか……とへらと笑ったら、また胸に吸いつかれた。今度は片側も月島が弄ってくれる。
    「ぁっああ……アッあ、ぅう、は、やぁ」
    触り方が上手で、私のと全然違う。「止めて」って言いたくなるほど気持ちよくて、声が溢れて止まらなくなる。
    「気持ちいい?」
    そう聞かれて、コクコクと頷く。月島は目を細めて笑い、私を見た。あ……かっこよか……と思った瞬間、軽く歯を立てられて腰が大きく跳ね上がる。
    「んん〜ぅ、ァあッ!ぅ、は」
    胸がグッグ…と持ち上がり、体全体で大きな波を立てた。声が出るばかりで苦しいのに、声を出すほど気持ちよくなって。そう思うほど声を出して。
    「っはー、はぁう、んぅ……つきしまぁ……」
    「ああ……かわいい、才能ありますね、上手ですね。」
    「……ぁ、え?」
    褒められて、胸がじんと熱くなる。何が何だか分からんが嬉しい。もっと褒めてほしい。そう思って一生懸命月島に声を届けるが、身体がずっと熱くて上手に言葉が出せない。
    「鯉登さん、下も脱がせていいですか?」
    「……ん」
    ちゅ、ちゅとまた胸から脇腹、腹筋、腹筋の溝を通って、臍…と月島の舌と唇が道を作る。
    「ここ、分かりますか?」
    臍の少し下を指でとんと押されて、下腹がひくんと反応する。
    「あとで、ここまで俺のが全部挿入るんですよ」
    そう言いながら、またそこをトントンされる。何回も同じことをされて、どんどん頭が回らなくなってくる。腹の中で熱い何かがうごめいてぐるぐる渦巻いて。
    「うぁ…は、はやく…つきしまの……ほしぃ……」
    そういうと、月島が優しく笑い返してくれて、ちゅと頬にキスをしてくれた。
    「腰上げて」と言われて、震える脚を立たせると、するっとショートパンツが脱がされて、気合を入れて履いてきた黒のテカテカした紐パンが姿を現した。
    ちょっと前までは堂々と月島に見せつけたのに、種明かしをしてしまったし、恥ずかしくてたまらなくなって、手を伸ばして隠した。
    それに、ショーツの中がもうぐちゃぐちゃなのに気づいていたし、ビンビンと勃っているものが薄く狭いショーツを盛り上げて、飛び出てしまいそうだったから。
    「可愛いから、見せてください。綺麗な肌によく似合ってます。」
    「つ、月島は、みんなにそう言ってるのか?セックスする人みんなに。」
    大事なものを見せなきゃいけなくなり、つい今までモヤモヤしてたことを全部言い放つ。
    「ん?鯉登さんだけです。こんなに綺麗な肌をしてて真っ直ぐなのは鯉登さんだけです。きっと、これからも。」
    月島が目を細めて笑うと、またきゅんと胸が疼いて、もっとドキドキする。
    「もっと見たいです。見せてくれませんか?」
    「……」
    恥ずかしいけど、隠していた両手を離し、脚に力を入れて腰を浮かせた。これを見せなきゃ、月島の奥にいる女たちに勝てない。
    「だって、この紐、解いて欲しくて選んだんでしょう?……どう?」
    コクと小さく肯定する。
    「高かったでしょう、この下着。」
    「……うん……お小遣いだけど、ちょっと高いの選んだ……」
    「……そうですか、俺なんかためにわざわざ、ありがとうございます…」
    そう言われてぎゅうっと1番強く抱きしめられる。苦しかったけど、月島が喜んでくれてるみたいで。
    「そう、月島のために買った……月島に見て欲しくて買った。」
    「すごく可愛くて綺麗ですよ、嬉しいです、鯉登さん。」
    もう一度優しく頭を撫でられる。
    ああ、嬉しい、嬉しい、嬉しい。好きな人のために自分が勇気を出したことを好きな人に褒められるって、好きな人本人に届くってこんなにも嬉しい。家族にも沢山褒められたことはあるがそれとはまた違う高揚感。
    「もう一度キスしましょ」
    「うん!」
    初めて月島から「キスをしよう」って言われた!
    舌を入れるんじゃなくて、唇をはむはむと食べられていると、股の間がすーっとスッキリして、ショーツの紐が解かれたんだと。下半身が丸出しにされる。恥ずかしくて脚を閉じようとするけど、知らない間に足の隙間に月島の身体が入り込んでいて、閉じられなかった。
    月島が唇を離すと、勃起したおちんぽに脱がされたショーツがはらりとかかっていて、カーッと体温が上がって、じんわり汗が出た。
    ショーツを取られると、プクプクと先端から汁が溢れて竿の部分に何本もの道を作ったおちんぽが顔を出す。
    それに、一昨年…中学三年辺りから毛が生え始めたそこは、生え揃ってはいるが、元々の体毛があまり濃くないので周りより薄くて、肌との境目が際立って見えた。
    「あ……わ……」
    「……綺麗だ。」
    「あ、あんまり見るな……恥ずかしい……」
    まじまじと見られると、脚が閉じてしまいそうになるけど、月島の身体が邪魔で閉じられない。むしろ股をもっと開いた格好になってしまっている。
    「元々綺麗な人って、こんなところも綺麗なんですね」
    ピンク色をした頭が覗くそこを、人差し指でつつつとなぞられる。
    「あ……ぁ、う」
    ゾワゾワする。ただ触られているだけなのに、身体が震えてしまうほど気持ちがいい。皮を剥いたり被せたりを繰り返されて、ぞわぞわがどんどん強くなっていく。
    「あ……あ……うぁ……」
    「皮からちょっと出ちゃってますね、かわいい」
    そう言われて、両手で皮をずるんと下げられた。先っぽが全部外に出てしまって恥ずかしいのに、先っぽの穴がパクパクと開いてそこからじわっと透明な液が出てくる。その液を月島の指が掬って、それを竿全体に塗り込まれた。既に出ていた液も混ざると、もうヌルヌルで、扱かれるとちゅこちゅこと音が出るくらいだった。
    「ァあッ……ん、んふ、や、ぁ」
    腰を月島の手に押し付けてしまう。
    「さっきみたいに、教えたとおりに乳首、触ってごらん。」
    そう言われて、言われた通りにすりすり、くにくに、両手で弄る。月島は私のおちんぽを扱きながら、乳首をいじる私をじっと見つめていた。
    「んッん……はっ、ぅ、ああッ」
    股を開いて、自分で乳首を擦って、月島に大事なところに触れられてる…そう考えると、ボッとお腹の奥に火がついたみたいに熱くなって、
    「はっ、は……つきしま……つきしま、きもちい……」
    とにかく月島を呼んだ。
    「うん、上手ですね」
    そう言うと、真っ赤になっているであろう頬にキスを落とされ、月島の手が少し緩む。
    「鯉登さん、愛撫の手順の中に、他にも書いてありませんでした?」
    「ん?ん?ぁ、ふ、ほ、他にも?」
    「ほら、おちんぽを扱くだけじゃなくて、他にも」
    そう言われて、色んなとこを色んな具合に愛撫するのを思い出した。
    色んなことにいっぱいいっぱいで、他が飛んでしまっていた。
    「お、お、おちんぽ舐めて……おしりの穴を指で弄ったり……な、舐めたり……」
    「うん、よく覚えてましたね。」
    褒められて嬉しくなる。でも、お腹の下の方がキュンキュンして切ない。まだこんなにも手順が残ってるのか、早く月島のが欲しい……。
    「つきしま……」
    「うん……もうすぐですね」
    ううん、全然もうすぐじゃなか……と思っていると、月島の顔がピクピク揺れるおちんぽに近づいて、
    「えっ!あ!つきしまっ!何する!」
    先っぽの汁が溢れる穴に、ちゅとキスをされた。
    「あっあ!それ……ダメッ」
    また腰が引ける。でも、月島はがっちり私の腰を掴んで固定した。そして、厚い舌をれろりと出して先っぽをちろちろ舐める。何度も舐め回して汁が出ていたらちゅうっと吸われた。そしてそのままチロチロと上下に動かしておちんぽ全体を舐め回す。
    「つきしま、や、やだ……ぁっあぅ」
    「ほら、そのまま手を動かして」
    「むりぃ、あ……あぅうっ」
    私の言葉を聞かずに乳首を触るのを催促される。でもおちんぽへの刺激が強すぎて、どうしても手が止まってしまって。
    「仕方ないな」と月島はもう一度先っぽを咥えて舐めまわしたあと、ちゅぶちゅぶと音を立てて頭を動かしたり、裏筋をしつこく舐めたりしながら、手は私の乳首を触り続ける。
    「んぁあ……だめっ!でちゃ…でちゃっ……はふ、ぅん」
    決して大きくない私のおちんぽは月島の口にいとも簡単に飲み込まれていて、ぬるぬるした舌と上顎にちゅこちゅこと愛撫される。
    「あっあっも、いく……でるっ!んんっ、つきしまの、おくちに」
    「ひいへふお」
    「あっあっああ、いくっ、いくぅ……っ!!」
    びくびくと内腿が震えて、背中も大きく反ってしまう。そして月島の口にびゅっびゅと射精した。
    「んっ……はぁ、ん」
    何も考えられない。ぼんやりとした意識のまま、天井を眺めて息を整える。視界が白くチカチカと瞬いて、心臓がばくばくと大きく拍動して、ふわふわと宙を舞ってるような気分だった。
    「鯉登さん、上手にイけましたね」
    「う……ん……」
    褒められたのが嬉しいが、私が出した精液がどうなったのか、その行方が気になる。まさか…
    「つきしま…、ん、はぁ…お前……飲んだのか?」
    「はい、飲みました」
    あっさりと当たり前のようにそういわれて、面を食らう。だって汚いところから出た汚いものだ。好きな人にそんなことさせたくなかった。
    「ちょっと待ってね」と言いながら月島は傍にあったティッシュを何枚か抜き取って自分の口を拭いていたが、
    「うう……あ、そんな汚いの飲まなくていい……」
    「汚くないですよ」
    私は少し悲しくなってしまって、視界がゆらゆらとぼやける。それを拭うために両手で目を擦るが、涙がどんどん溢れて止まらない。
    「あ、ああ…嫌でしたか…すみません。鯉登さんがかわいらしくて、全部好きなので…つい」
    「ううう……、ちがう!いやとかじゃないが……月島にそんなことさせたくなくてっ…汚いこと…」
    「……いいえ、鯉登さんが俺を少しでも求めてくれるなら、全部飲みたいくらい。おいしいし。」
    「は?」
    「あ、あれ?間違えた」
    「そんな……っ!おいしいわけあるか!ばかたれ!」
    「え?あ、はい…すんません…」
    ……月島は冷静な顔をして、時々おかしなことを言う。そして恥ずかしいことを平気で言うし、それに私がドキドキしてしまうから悔しい。
    月島は私の上から降りてティッシュをまた抜き取り、私の顔を優しく拭った。鼻のあたりはごしごしと執拗に。子どものころ、よく家族に「お鼻が出ちょっど」と注意されたものだ。アルバムでもはなたれ小僧がたくさん写っている。
    「だって、鯉登さん勉強したんでしょ。ちんぽ舐めて、尻の穴を指で弄って、舐めてするって。」
    「飲むまで書いてなかった!」
    「でも、もっと汚くて、気持ちよくて、すごいこと…」
    優しい手つきで顔と首を拭われて、月島の顔がまた近づいてくる。瞳の奥を見つめられ、月島の緑の瞳に私が移る。また目の端に窓から覗く街灯が見えた。イヤリングを息で揺すられる。
    「これから二人でやり遂げるんですよ。最後まで。」
    熱い息が耳の奥までかかった気がして、背筋に小さな痺れが走った。さっきまでいつもの月島とのやり取りだったはずなのに、いつのまにか、また月島に甘い夢に引き込まれて、はーはーと口から息が漏れる。
    「ね」
    顔を覗き込まれて妖しい響きで。頷くしかない。
    「セックスってね…本当に好きな相手に、親にも見せたことがない自分の姿を曝け出して、やっと気持ちよくなるんですよ。お互いに全部…躊躇なく。」
    「お互いに……」
    「鯉登さんは俺のことが好きです?」
    「……す、好き……」
    「そう、俺も鯉登さんのことがずっと好きでしたよ。ずっと。ずっと前から。」
    「う……そだ……」
    「信じられない?本当ですよ。」
    そう言って、もう一度キスをされる。お互いの唇を合わせるだけ。昔に家族で見た少しだけ気まずいドラマのキスシーンみたいに甘くて、優しいキス。
    「続き、しましょう。あともう少しですよ」
    いつもと同じ低くて乾いた声なのに、欲が浮き出ていたから、よくわかって、それにどうしようもなく興奮して。
    「……わ、わかった……」
    頷くと、襲い掛かるかのように月島がスウェットを脱いで、いつもはシャツやスーツに秘められた分厚く凹凸の光る身体が露になった。
    その身体に目を奪われていると、今度は瞼にキスをされて、また視界が暗くなる。唇にもちゅっと触れるだけのキスが落ちたあと、頬をくすぐられて頭を撫でられた。そして耳元でもう一度「いいこ」と言われる。その低い悪い響きが何度も頭の中に共鳴する。
    「こっちにお尻向けて。大丈夫です、痛くは絶対にしません。初めては後ろ向きのほうが痛くないから。」
    「う……ん……」
    言われた通りにお尻を向けると、後ろでぐちぐちと粘度の高い音が聞こえて、少しだけひんやりとした感触がお尻を伝った。
    「いつもどうやってここ触ってます?」
    そう聞かれて、一段と心臓がドクンと音を立てて跳ねた。
    「……」
    「言いたくない?」
    「…………笑わないか?」
    「当たり前です」
    マーカーを使っているなんて言ったら、嫌われないか?おかしいと思われないか?でも、親にも見せたことがない自分の姿を曝け出すのがセックスなら……
    「……マーカーをお尻の穴に入れて……それで」
    「うん」
    「よくわからないけど、ひたすら動かしていた」
    「分かりました。じゃあ、鯉登さんの気持ちいところ、一緒に探しましょう。オナニーより気持ちよくさせます。」
    そういう月島に全部委ねることにして、厚く掠れた手のひらで誘導されるまま、シーツにうつ伏せになって膝を曲げて、腰を少しだけ上げたような体勢で、脚を開く。それを見て月島がゴクリと唾を飲んだのが分かった。ソファのクッションを取って、抱きしめられるように、渡してくれた。それをぎゅっと抱いて、少し心細くて、不安な気持ちを誤魔化した。
    「んん…」
    私のお尻の穴を月島の指が撫でたあと、もう一度しっかりとローションで濡らされた指が撫でてぬるぬるして、しばらく慣らすように撫でつけられて、無意識にお尻が揺れる。恥ずかしいから早く入れてほしい気持ちと、怖い気持ちがどちらも離れた場所にあって、そのちぐはぐさに自分が二人いるような気持ちになる。
    「指、入れますよ」
    そう言われて、くぷっとゆっくり挿入される。ローションのおかげか痛くはないけれど、異物が入ってくる違和感に腰が引けてしまう。それを察した月島が背中にたくさんキスを落としてくれて、「ふーふー」と自分で深呼吸して気持ちを整えてみる。
    「そうそう、上手。すごいです。」
    褒められるとやっぱり嬉しい。背中を撫でてもらいながら、ぬぷぬぷと指が出たり入ったりする。優しい指使いは気持ちいいわけではないけれど、大事にされてるのが伝わった。
    「きっとここら辺に……」
    と言いながら、指を少しだけ奥に進められる。すると突然、お腹の奥からビチビチと1匹の魚が背中を駆け上がってくる。
    「っ!?あっ!」
    思わず大きな声が出てしまって、慌ててまたクッションに顔を押し付ける。
    「ここ?」
    「あッ……はっ……」
    月島が見つけた一点を何度も指が擦っていく度に、何度も何度も私の身体に魚が登ってきてビクビクと腰が跳ねてしまうのを止められない。なんだか息が苦しくて、太ももの内側もさわさわとして落ち着かない。でも気持ちいいのだ。
    「ん、分かりました。」
    そう聞こえたあと、月島は尻たぶを揉みながら、ぐちぐちと穴を広げるように中を弄る。
    「ひ、ぁっ!つきしま、だめ……も……」
    「ダメ、傷つけてしまう。」
    気持ちいいところをすりすりと優しく撫でられ、背中がのけぞるほどの快感に「〜っ」と声にならない声で鳴きながら、クッションを抱きしめて耐える。
    「あぁ…そうだ、気持ちいい時は気持ちいいって教えてくださいね。不安ですから。」
    「あぇ?」
    「気持ちいいって、言ってください。気持ちいいって言ってくれれば、俺も嬉しいですし、鯉登さんも気持ちよくなって、きっと痛い思いもしなくて済みますから。」
    「うん……」
    素直に小さく頷くと、またお尻の中の指が動き始めて、さっき見つけた所をいつの間にか日本に増えていた指で挟んで揺らしたり、撫でたり、押し潰したりして、身体の天井を揺する。
    「あ、あぁ……そこっ!んぅぅっ……つきしまぁっ……きもち、きもちぃ」
    「うん、上手です。そう、その調子。」
    「ひっ……んぁ……あっ、すごぃ……はぁ」
    気持ちい、気持ちいい、とうわ言のように言いながら、気持ちいいところを全部触って欲しくて腰を揺らして押し付けると、ゆすゆすと揺すってくれた。
    私の身体を魚が登る。
    月島が指をくいっと曲げて、さっきの気持ちいいところを優しく擦られる。
    「はぁ、んぁあ……きもちぃ、つきしまぁ」
    「うん……痛くないですか?」
    「いたくなぃ……」
    ぬちゅぬちゅという水音と自分の女みたいな喘ぎ声が部屋に、脳に響いている。月島は入れていた二本の指を少し開いて穴を拡げながら出し入れして、ぐりぐりとイイところを押す。
    「んぁっ、んう……きもちいい……」
    「うん。痛くないの偉いですね。」
    「へふ……あ、あっあっ」
    ぬぷっぬぷという音が少しずつ激しくなっていく。枕を抱きしめて顔を埋めると月島の匂いがしてますます頭がぼうっとしてくる。下半身はぐずぐずに溶けてなくなってしまったようで、気持ちがよくて腰を揺らすのが止められないし、足の指がきゅうっと縮こまったり開いたりする。それにさっきからお腹の奥に何かが溜まっている気がする。
    気持ちいい、けど、なんだか変な感じ。
    「つきしまぁ……へん……」
    「変?」
    「おなかに、なにか……」
    それを聞いて月島は急に指を抜いてしまった。支えていたものが突然なくなってしまって、体勢が崩れて布団に顔を突っ伏す。
    「だいじょうぶ?どこか痛かったですか?」
    心配したような声で聞かれるから少し申し訳なくて、枕に埋めたまま首を横に振る。そしてゆっくりと仰向けになってまた膝を曲げる体勢に戻る。さっきまで登っていた魚がせき止められて、跳ね返って下に溜まっていく。苦しくて、切なくて、涙がじわりと目尻に溜まる。
    「つきしま……その……」
    「うん?」
    「……きもちよか……もっと、してほし……」
    きっと今の私の顔は誰にも見せられないくらい情けない顔をしてる。そう思うと涙は勢いを増して頬を流れる。月島がそれをぺろりと舐めた。思わず顔を背けようとすると逃がさないと言うように口を口で塞がれる。熱い舌が私の口の中を全部舐め上げて行く。唾液さえも逃さないように吸い取られて嚥下する。
    「んっ、ふ、はぁっ、つきしまっ」
    また指が入ってきて、今度は溜まったものを力任せに押し上げるように激しく天井を揺すられた。それに釣られて魚も暴れて登っていく。
    「ッ……っ……ん、だめっ……いっっ」
    「イっていいよ、ほら」
    そう言ってぐりっと強く押された瞬間に頭の中で何かが弾けた。びりびりと痺れるような感覚が全身を襲って、制御出来なくて勝手に背中が反り返って腰が浮いてしまう。私の意思とは関係なしに脚が痙攣していうことを聞かない。知らない間に月島の指は抜けていて、脚を閉じたいのに閉じられなくて、そのまま全身を魚が登っていく。
    「っ……ひッ……ぁ……」
    息もうまく吸えないし、涙がぼろぼろ出て前もよく見えない。頭がぼーっとする。すごく気持ちよかった。息ができなくて苦しくて死んでしまうかと思ったのに、死ぬほど気持ちがよかったのだ。身体はまだ熱いままだし、勝手に腰が揺れてしまう。
    「鯉登さん」
    耳元で優しく囁かれて身体が跳ねるように反応してしまう。焦点の合わない目で天井を見ると月島と目があった。
    「ちゃんと気持ちよくなれましたね。えらいですね。」
    そう言いながら頭を撫でられると、嬉しくてすりすりと寄ってしまう。まだ残った魚は登ったままだけれど、もっともっと気持ちよくなりたくて腰が勝手に動いてしまう。
    「うん……きもちかった……はぁ……」
    「出てないですよ。凄いです。きっと頻繁にしてたからなんでしょうね。」
    「出てない?」
    「精液です。中でイけたってことですよ、凄いことです。何回でも気持ちよくなれます。」
    「ん……へへ……」
    月島が褒めてくれるのが嬉しくて、変な笑い方をしてしまう。
    「ん」
    「もう一回したい?」
    「ん……したい」
    素直に頷く。月島は頬にキスをしてくれたから、それが嬉しくて自分からも唇を突き出すと、そこにキスしてくれた。
    そのままの体勢でいると、お尻にキスを落として、背中を宥めるように撫でて、月島の息が後ろの穴に当たる。それさえも気持ちよくて腰が揺れてしまう。
    「鯉登さん、ココも綺麗なんですね……」
    そう言われた瞬間に指じゃないものが穴に入ってきて、ぞわぞわと全身が粟立つ。そんな所を舐められたことなんてなかったから、驚いて身体が逃げようとするが月島の大きな手に脚の付け根を押さえられてしまう。
    「あっ!?ひっ」
    生温い舌の感触は違和感しかなかったけれど、ぬるりと動くそれを締め付けてしまうと形がありありと分かってしまい、内臓を全部月島に舐められているような感覚。「つきしま、やめ……きたない……」
    「言ったでしょ、鯉登さんの全部が好きって。」
    そう言ってべろりと穴全体をひと舐めして、舌をぐりぐりと中に押し込んでくる。恥ずかしくて、気持ちよくて、やめて欲しいのにもっとしてほしいような気持ちになって頭が混乱する。くちゅくちゅという水音がうるさいのにその音がさらに私を興奮させるのだ。
    「…ぅう、ふ、ぁっあ」
    「声、可愛いですね」
    そう言いながら、また舌が入ってきて今度は指よりも奥の方をぐりぐりと押してくる。
    じゅるるると音を立てて吸いつかれ、思わず腰が引けてしまう。それを咎めるように腰に手が食い込むほど強く押さえられてしまう。
    「あぅ……つきしまぁ……ひっ……」
    「ん」
    月島はまた中に舌を入れると、今度は中で動かし始める。空気が入るせいでぐぽぐぽと変な音がする。なんならずっと変な音しかしない。
    「おとっ、やめ……はずかし……」
    そう訴えても止めてくれなくて、それどころかお尻をぐにぐに揉まれて、穴を拡げられて、奥まで舐められて、中が熱い。
    「も……ぅ……やっ」
    身体がどんどん熱くなっていく。知らない間にまた魚が登っていて、1匹…2匹と私の背中で飛び跳ねる。
    「だ、ぁ、あ、め、だめっ…だ」
    ずるるると強く吸われて、ナカをぐりんと下が動いて、
    「っ〜〜〜〜〜」
    ぱちんと頭の中で弾ける。全身に電気が走るような快感に頭が真っ白になった。はぁ、はぁと息をする度にお腹の筋肉がひくついて魚がひっきりなしに跳ねる。背中も太ももの内側もビクビク痙攣している。もう頭の中は魚でいっぱいだった。
    ナカにいる月島の舌をぎゅうぎゅうと締め付けてしまうので、形がよく分かる。これが…今度は月島の指でも舌でもなく、もっと大きなおちんぽに変わるんだろう。
    そう思ったら、引き抜かれる前にまたキュンとナカが締まった。
    「気持ちよかったですか?」
    「ん……っふ」
    まだ身体がびくびくしていて、鼻から息がふうぅ…ふぅぅ…と懸命に漏れる。身体の熱が全然引かない。
    クッションに顔を埋めたまま、瞳の端っこで月島の動きを見る。
    私の脚の間から立ち上がった月島は横に避けてあるテーブルの上の水を飲んでから、口を拭いて戻ってきた。その唇に釘付けになってしまう。あの舌がさっきまで私の中に入っていたんだと思うと心臓がドキドキして、お腹の下の方が熱くなる。
    「お水、飲みましょうか。」
    口移しで水を流し込まれて、少しずつ飲み込んでいく。冷たくて美味しい。声を出しっぱなしで乾いた喉がキリッと立ち直る。そのまま何回か口移しで水を飲まされて、その間も私の身体はびくびくと余韻に浸っていた。
    「つらくないですか?」
    「……うん」
    「続き、しても?」
    「うん」
    月島は私の髪を撫でてから、ゴムの箱を手にとって封を開け始めた。起き上がってその様子をよく見る。月島のスウェットの股間は大きく盛りあがっていて、窮屈そうにしていた。
    「おっきくなってるな」
    「そりゃあ、ね。」
    照れくさそうに苦笑い。
    「私がこうした?」
    「ええ、あなたのせいです。」
    お互いに見つめあって、また少しだけキスをする。
    月島がスウェットとパンツを脱ぐと、ぶるん!という音が聞こえてきそうなほど勢いよくそれが顔を出す。私のとは色も形も全然違う大人のそれ。赤黒くてとても太くて大きくて。血管が浮き出て、テカテカ光ってる。
    そして、やっぱりびくびく動いていて、怖いけど凶悪だけど、なんか……可愛い。
    「そんな見ないでください」
    「月島こそ、たくさん見た!」
    「そうですよね…じゃ」
    月島の手が少しだけ退いて、全部見える。
    「触ってみます?」
    「いいのか…」
    声が裏返ってしまって、慌てて咳払いをする。月島は可笑しそうに笑うと、少し身体を動かしてこちらに向き直った。
    「はい」
    私は恐る恐るそこに手を伸ばす。熱くて、硬い。そっと触れてみるとどくんどくんと脈打っているのがよく分かった。さっき月島が私の出したものを舐めてくれたことを思い出して身体が熱くなってくる。そのまま握って上下に動かすとさらにそれは硬くなって先っぽから透明な液が垂れてきて私の指を濡らす。
    「初めて触りました?」
    「うん、おっきいな」
    「普通ですよ。鯉登さんもそのうちこうなります。」
    私の手の中で、ピクピク動くそれをずっと見ていたい気持ちと、はやくこれをお腹の中に入れてしまいたい気持ちがぐちゃぐちゃになる。そのままちゅこちゅこと上下に動かして、月島の顔を見ると目を瞑って何かを堪えているような顔をしている。その顔を見ると心臓がきゅうっと痛くなって、胸が苦しくなる。
    「つきしま」
    「はい?」
    「かわいい」
    そう言うと月島は恥ずかしそうに目を伏せてしまった。さっきまであんなに大きく凶暴に見えていたのに今は可愛く見えるのだ。なんでだろう?と思うけれど、どうしてかもっとそんな顔を見たいと思ってしまうから。
    先っぽから出てくるぬるぬるを指で掬って竿に塗りつけるように動かすと滑りが良くなって気持ちいいのかまた大きくなってくる。
    「はぁ……上手です。」
    そう言われると嬉しくてもっと気持ちよくなって欲しくて、人差し指で先っぽの穴をぐりぐりと撫でる。そうするとまたさらに硬くなってぬるぬるしてきた。それがなんだか面白くて繰り返していると月島に手首を掴まれる。
    「挿れますよ」
    強く言われて、
    「は…はひ…」
    と間抜けな返事をしてしまう。
    「後ろ向いて、痛かったら言ってください」
    さっきのように月島にお尻を向けて四つん這いになった。背中にキスが降ってくる。
    「力抜いて、息吐いてください」
    その言葉と一緒に熱いものが私のそこに押し付けられる。
    「ぅ、うう」
    やっぱりこわい。今から自分の中に入って来ようとしているのが月島の指や舌じゃなくて、それよりも大きくて太いものなのだから怖いに決まっている。
    「鯉登さん」
    ゆっくりと背中を撫でられる。そうだ、でも月島がいる。それにさっきだって、すごく気持ちよくなれた。だから大丈夫なはずだ。
    少しずつ入ってくるその質量に思わず身体が逃げそうになるが必死に耐える。痛くは無いが、気持ちよくもない。でも、月島も必死なのが背中に落ちてくる汗で分かる。
    「んっふ、…ふー…ふぅ…」
    「ゆっくりしますから」
    そう言いながらずっ……ずっ……と少しずつ入ってきているのが分かる。でも、すごく苦しい。さっき指で解して貰った時とは違って、内臓が直接圧迫されているような感覚になる。
    「ふーっ、ふぅぅ……っ」
    「ん、痛いですか?」
    必死に首を振る。すると、首筋や耳元を舐められ、違う刺激が加えられて、そっちに気を取られ始めた。後ろから乳首をこすこすとさすられ、くにくにといじられる。そうすると、さっきみたいに気持ち良くなって力が抜けてきた。
    「はふ、はふ……つきしま」
    「大丈夫?」
    「うん……ぁっ」
    ずぷぷっとさらに入ってくる。それでもさっきまでのような苦しい圧迫感はない。ただ、奥に来るたびにじんじんと気持ちいいのが広がってくるのだ。
    「痛くないですか?」
    「いたくな、い」
    「よかった。ゆっくりしますから安心してください」
    また後ろから抱きしめられてまた耳や首、背中を丁寧に、優しく舐められる。乳首を私を気持ちよくさせようと、負担を少なくさせようと、月島は必死に私を攻めている。そう思うと愛おしくて胸がぎゅうっと苦しくなる。
    「つきしまぁ……すき、すきだぞぉ……」
    「俺も好きですよ」
    身体をぴったりくっつけた状態でグッグ…と深まって、どんどん一緒になっていく。はぁと大きく息を吐いて月島のおでこが背中にくっついてくる。汗でしっとりした身体が熱い。その温度が気持ちよくて、月島が私の中に入っていることが嬉しくてたまらない気持ちになる。しばらくそのままでいると少しずつ落ち着いてきた気がする。
    「おとのしんさん、大丈夫ですか?」
    「おとのしん、さん?」
    耳元で響く声に心臓がバクバクする。初めて名前で呼ばれた。胸がキュンと疼く。
    「音乃進さん」
    また、ずっ…と奥に進んでくる。
    声が弾んでしまう。
    「つきしまぁ、もっと、もっとよんで、名前で呼んで。」
    「音乃進さん、音之進さん、もう少しで全部入りそうですよ…」
    「んッ、ふぅ……」
    「音之進さん」
    私の腰を掴む手に力が入り、声が近づく。
    「音之進さん」
    いつもと違う呼び方をされるたびに中がうねるのが分かる。恥ずかしいのに奥が切なく疼いてまたお腹がきゅうっとする。それをもっと味わいたくて月島にお尻を押し付けてしまう。
    「ん、つきしまぁ……」
    月島が腰をぐっと近づけてきて、お尻にちくちくした下生えの感触が当たる。それと同時にさらに奥に進んで来て、もう入らないと思っていた所まで到達したのが分かる。身体中の血液がそこに全部全部集まってしまったんじゃないかってくらいドクドクと脈打ってる気がする。そしてずっぽりと埋まったその先からじわじわと快感が広がっていく。お腹が、内臓が押し上げられているみたいで苦しいけれど気持ちいい。思わず背中を反らすと月島が私の背中に舌を這わせた。
    波打っていた滝つぼがざわつき始めて、魚が1匹登り切る。
    「音之進さん、大丈夫ですか?」
    「あ、あ……」
    「全部入りましたよ、よく頑張りましたね。」
    そう聞こえて、お腹の辺りを摩ってみる。何か印がある訳でもないが、摩って、撫でて、ここに月島がいるんだと。
    「すきだ……」
    そう呟いて首を回すと、月島の優しい顔がすぐ近くにあって、自然と顔が近づいて唇が合わさる。本当に軽く唇が当たるだけのキスだ。
    「つきしま…つきしまぁ……」
    また名前を呼べて嬉しい。嬉しくってもっともっと呼んでしまう。そうしているうちにどんどん奥の感覚がはっきりとしてくる。
    「つらくない?」
    「ん、大丈夫……」
    「本当に?動いてもいいですか?痛かったり、苦しかったら、「くるしい」って遠慮なく言ってください。辞めますから。」
    「うん……」
    そういうと、ゆっくりと月島のが引き抜かれていく。排泄感に少し似ているけれど、それよりはもっと気持ちのいい感覚だ。ぞくぞくした感覚が背中を駆け上がって、爪先に力が入る。抜けてしまうギリギリのところでまたぐっと腰を押しつけられて内臓が押される感覚にぶわっと全身の毛穴から汗が噴き出るのを感じた。
    「ふ…っうう…ぁ」
    「は…………ッ」
    ずろぉと抜ける寸前まで引き抜かれて、またずぷぷっと入ってくる。ゆっくり、その繰り返しだけなのに全身が熱い。
    「はっ、ぅあ……は」
    肌が泡立って、汗が止まらない。じゅっぽじゅっぽといういやらしい音にも興奮するし、自分の息遣いも恥ずかしくてたまらない。
    「はぁ……はぁん……っ」
    「苦しくない?」
    ゆっくりと首をふって返事をする。いっぱいいっぱいだ。でもそれを知られてしまうのは少し恥ずかしいから下唇を噛んで声を我慢する。
    「大丈夫…ですか?」
    もう一度聞かれて、また首をふって返事をする。痛くも苦しくもないけれど、お腹の奥がじんじんして涙が出そうになるし、声が出そうなのに上手く出せない。
    すると、月島はまたゆっくりと腰をひくと浅いところをこちゅこちゅと小刻みに動かした。
    「あぁっ!やぁッ!んぅっ!」
    すごく気持ちのいい場所を擦られて大きな声がでてしまう。咄嗟に口を抑えるが、腰を引いて突かれる度に声が漏れてしまう。
    「は、はぁ……あっ、あッ…そ、そこ、だめ…」
    さっき指でされた時よりももっとずっと強い快感が身体中を駆け巡って目の前がチカチカして上手く息も出来なくなる。思わずやだやだと腰を捩ると月島は逃すまいと私の腰を掴み直した。そしてそのまま容赦なくそこばかり狙ってずこずこと突いてくる。
    「気持ちいいときは、教えてください。やくそく。」
    そう言われて、キュッと手が重なって握り締められた。
    「音之進さん。」
    「あぁっ、あんッ!ぅん……きもち、い……」
    「いい子ですね」
    そう言って頭を撫でて褒めてくれる。それが嬉しくてまた下がきゅんとなってしまうのだ。
    「ここは?」
    今度は奥まで入って、壁をコツコツ叩かれる。耳を咥えられて、息が、言葉が、熱気が耳を伝って身体中を駆け巡る。
    「あ、あ……やぁ……きもちぃ……」
    叩かれる度、勝手に声が出る。もっと、もっとして欲しい。
    「つき、しま……ぁ、ふ、も、もっと」
    キスしてほしいと思って首をひねるとすぐに唇が降ってきた。優しく唇を噛まれてそのまま舌が入ってくると口の中もいっぱいになってさらに気持ちよくなってしまう。下は激しく動き続けていて、頭の中までぐちゃぐちゃにされるみたいな感覚で頭が真っ白になる。ただ与えられる刺激を受け止めるので精一杯だ。
    「あッ…んあ、はぁ、ぅッう」
    月島は、月島は、こんなに気持ちいいことを他の人にもしてたのか?他の人にもこうやって気持ちよくさせていたのか…?そんなの、嫌に決まっている。嫌だ。私だけがいい、私以外にして欲しくない。そんな子どものような独占欲がどろどろと頭の中を埋め尽くす。
    「つきしまぁ……わたし以外と……っんぅ」
    「は?何ですか?」
    腰の動きが止まって、顎を掴まれてまたキスされる。上も下も月島でいっぱいで頭がおかしくなりそうだ。
    「……他の人とも、こういうことをしていたのか?」
    そう聞くと月島は一瞬目を見開いて驚いた後、困ったような顔をして笑った。
    「まさか…音之進さんだけですよ」
    嘘つき、もう分かるんだぞ。他の人にもそう言って…セックスしてるんだろう。
    「これからはね、もうしません。」
    そう言いながら、またゆっくりと動き出す。え?え?なんて言った?もう1回言ってもう1回言ってもう1回言って。
    ビチビチビチビチッ
    滝つぼが一斉に泡立って、パクパク魚が口を開けて登ろうとする。
    「これからはもう、他の人と、こういうことはしません」
    「は、ぁっ……え?…ぅあ、あ」
    月島の体重が背中にかけられて、奥がちゅとキスして密着する。月島がそのまま大きく揺さぶるように腰を動かして。もっと、もっとと中がうねって月島にしがみつく。
    「これからは、音之進さんだけです」
    「あッ!あッ!あぁッ……はっ」
    そう聞こえた途端、もう声が我慢出来なくてひっきりなしに出てしまう。こんなに気持ちいいことをするのは、これからもずっとずっと私だけがいい。
    「んあッ!ふ、んぅっ」
    「…音之進さん、声、かわいい…です」
    「ぁッん!あ…ひっぁぅ……」
    大きく揺さぶられるまま声も抑えられず、何度も奥の扉を叩かれる。真っ白な頭の中でザーッと水の音がしてびちゃびちゃと大きな魚が何匹も私の背中を登っていく。
    「や、や…あっ、つきしまッ、はっひ、す、すき、すきすき」
    「俺も好きです、音之進さんのこと。」
    「うッ、う、ひぐひ…ひ、い、いッ…」
    もう自分が何を叫んでいるのかも分からなくて頭を振ると首すじにじゅっと吸い付かれたり耳を舐められているうちに、滝がガラガラと大きな音を立てて崩れて、小さな魚が大きな黒い竜に成る。白く広い空に墨で描かれた大きな竜が。竜は逆光で黒い影になって、大きな口を開けて、私の身体を飲み込む。
    「んひッ!あぁっ〜〜ッ!」
    身体が跳ねて、足が勝手に開いていく。腕で身体を支えられなくなって、クッションに倒れこんだ。もう、力が入らない。
    「はぁッ……は、ぁ……あッ」
    月島がぎゅうっと抱きついてくる。肌の熱や重さに安心して目を瞑る。息が整わないから身体も動かせないけれどこのままずっとこうしていたいくらいに心地よい倦怠感だ。
    「……イッぢゃった…つきしま…イっちゃった…」
    「気持ちよかったですか?」
    「よかった……」
    「そう、よかった」
    少しホッとした色。
    幸せで胸がいっぱいになって、もうこのまま眠ってしまいそうになる。ずっとこうしていたいのに、身体の奥の熱が引いていくのを感じて寂しくなる。なんだか悲しい気持ちになって無意識にきゅっきゅとお尻に力を入れてしまう。するとそれに答えるかのように月島のが中でビクビク動いた。
    「一旦抜きますね。」
    そう言って身体を離そうとするから、嫌だと腰を押し付けると、優しく頭を撫でられた。
    「つきしまは?つきしまイけた?」
    「まだ……ですね。すいません、遅いもんで。」
    「つきしま、私の中でイってほしい」
    月島に向き直り、眉間にシワが寄った月島の顔を見つめて、そう言う。ずるんと月島のモノが私のナカから出た。
    「や、やっぱり、私もイッてない!イッてないからいいだろう?」
    「はは…ははは、は……」
    「ん?ふふ、つきしまぁ?」
    頭を押さえて笑ってる。覗き込んで、私も合わせて笑ってみたが、どうしよう…間違えた?
    「つきしま?」
    「音之進さん……あなたね……あー……もう……」
    そう言うと、ギュッと抱きしめられてキスをされた。何度も何も。嬉しそうに顔をゆがめて。ゴツゴツとした筋肉に包まれて、大人の男の身体を感じた。
    嬉しい。嬉しいけど……
    「つきしま?怒った?」
    そう聞くと、少し困ったような顔をして私を見つめた。
    「はは……そんな顔しないで。怒ってませんよ。」
    「じゃあ、あの、また、してくれるか?」
    「それはもう、もちろん」
    そう言って額にキスをされた。
    「次は顔を見てしましょうか」
    そう言われて、うんうん、と頷く。すると、またローションを足されて、仰向けになっている私の右足に股がって、もう一方の足を抱き抱えられた。な、何をするんだ?
    「挿入れますよ。」
    不安そうな表情が出ていたのか、汗で張り付いた髪を直してくれながら「大丈夫、大丈夫、ゆっくりします」とまたキスをされた。
    「ぅ……あ……」
    さっきよりも更に熱いものが押し当てられて、ゆっくりと入ってくる。形を覚えさせるようにゆっくりと進んでくるそれは、圧迫感があるけれどもうすっかりナカはとろとろになっているからスムーズに奥まで一気に入ってきた。
    「顔が良く見える、かわいい」
    「ぅ、ん…つきしまの顔、見える」
    「痛くないですか?」
    「平気だ、さっきより……きもちぃ……」
    ずろろとゆっくりギリギリまで引き抜かれて、またゆっくりと奥まで入ってくる。奥で止まると、グリグリと左右に腰を揺すられる。それがたまらなく気持ちいい。たまに奥を小刻みに刺激されるとぞわぞわとした感覚が込み上げてきて止まらない。
    「きもちい、きもちい」
    少しだけ余裕が出てきて、顔を見られるのが恥ずかしいことに気づき、腕をクロスさせて顔を隠す。
    「どうしてですか?」
    「や、いやだ……はずかしい」
    どうしてもなにもそんなの恥ずかしいからだ。でも少し間を置いて小さな声で答える。
    「……へんっ……だから……」
    二人でセックスをすると、分かったことがある。気持ちよくてどうにかなってしまうと本当に頭がばかになるということだ。高い声で啼いて、色んなとこから水を吹き出して、顔や身体中に力を入れて。絶対に他人に見せられない顔をしている。
    「言ったでしょう。本当に好きな相手に、全部曝け出して、やっと気持ちよくなれるって。俺は、鯉登さんのその顔を俺にだけ見せてくれると思ったら、嬉しいですし。」
    グッと奥に進んで、ナカを優しく潰される。
    「勝手ですけど、誰にも見せて欲しくないんです。」
    「う…はっあ、あッァ、あ!」
    「俺にだけ、全部見せてください。」
    そう言って私の手を取って、私の瞳を燃えたぎって紅葉した目で見つめたまま、抱えた足に舌を沿わす。ちゅっと足にキスをされると、小さな刺激が頭までビリビリとした。
    「音之進さん……」
    「んッふ…あ、あぁ…ぅん」
    「いや?」
    「んぅッ……いや、じゃなぃ」
    そう言って、腕を退けると、ちゅ、ちゅと足首やふくらはぎにキスされた。そのまま、ゴツゴツと強く揺さぶられる。
    「ぁ、んッ!ふ、あぅ、んッ!」
    「気持ちいいですか?」
    「ぅんッ、きもちい……きもちぃ」
    もう何を聞かれても嘘がつけない。奥をズンズンと体重をかけて叩かれて、その度に喉から声が漏れてしまう。
    そういえば、月島の腰の動きや、腹の上で私のだらしないモノが液を垂らしながら跳ねているのがよく見えるのに気づいて、キュキュと奥で月島のモノを掴んでしまった。
    「んッ……締まった。ほら、教えたように、乳首触れる?」
    「……んっは、ぁ」
    脱がされてないパーカーとタンクトップが月島の挿送に合わせて擦れて、乳首がこすれる。邪魔くさくなって、はしたないとは思いつつも、タンクトップをたくしあげて口で加えて、こすこすと乳首を両手で撫でる。
    「ふ、ん、んッ」
    「はは……」
    口を歪ませて月島が笑った。そしてまた激しく腰を打ち付けられて、その勢いを真似て、乳首をくにくにと摘む。
    「はッ……かわいい……っ」
    もう片側の足も担がれて、さらに大きく足を開かせられた。月島のモノがぐっと奥まで入ってきて、目の前に白くが発光した。
    「んあッ!あ〜ッ!」
    月島の手が口に咥えていたタンクトップの裾を首にかけてくれて、全部露わになって、月島の唇が胸へ降りてくる。
    「はぁッ、あッ、やぁ!あぁ……」
    じゅるじゅると乳首ごと胸を吸われて目の前がチカチカする。月島の体が近づくから、月島のものも奥に刺さって、近づいた月島の背中に爪を立てる。
    「つき、しまぁ……きもひ……」
    「あぁ…かわいい……んッ」
    月島の頬を汗が伝って、私の体に落ちる。
    「つき、しま、ぁあ…きもちいぃ……?」
    「はぁッ……気持ちいいです……」
    眉間にシワを寄せて口を歪ませていて、いつもと全然違う顔をしている。その顔がたまらなく色っぽくて、すごく好きだと思った。その顔をもっと近くで見たくなって乗り上げるように上半身を起こすとそのまま抱きしめられて一緒に倒れこむ。肌と肌が直接ぶつかって心地いい。そのまま何度もキスをして舌を絡めた。
    「はふ、ん、んッ!んぅ〜!」
    私に押し倒された月島が、怯まず下からズンズンと突き上げてくる。
    「おとのし、さんも、ほら、腰動かしてごらん…」
    「んぅッ!あッ……は!」
    言われた通りに腰を浮かして上下に振ってみると、自分のモノがべちべちと腹に当たるのが分かって恥ずかしい。
    「あっ!ぅん……あぁ」
    それでも気持ちよくて、月島を抱きしめたまま、不恰好に腰だけヘコヘコと動かし続ける。それに合わせて月島が下から突き上げてくれる。一緒に気持ちよくなってる感じがして嬉しい。
    「つきしまぁ……きもちぃ?」
    「……気持ちいいよ……音之進さん」
    そう言うと、ゴツリと下から突かれて身体が揺れる。
    「んッ…ん、や」
    大きな刺激に押されて、一瞬変な声が出て。その一瞬の隙を着いて、月島がゴッ、とイイところを思い切り突く。尻を掴まれ、拡げられて、そのまま小刻みに出し入れされると、頭が真っ白になって、腰が痙攣し始める。
    「あぇ…んぉ、おっ、ッ!」
    月島はどこか怒っているような感じだった。掠れて白くなる意識の中でそう感じた。だって、耳で揺れていたイヤリングを捻りとって、向こうに投げ捨てていた。
    「ッ……」と唸り声のような低い声を出して、月島が歯を食いしばっている。ナカで月島のモノが一段と大きく膨らんだと思ったら、ころんとひっくり返されて、大きく一突きされると、身体が地鳴りするように揺れて、腹の上で何かが漏れ出ていた。ずるんと月島が出ていったかと思うと、私の衣服にかかるようにわざと白い欲を掛けられた。
    ────────────────
    「服、汚れちゃいましたね…すいません」
    「ううん…」
    「少し大きいし、俺の匂いがしちゃいますけど、俺の貸しますね。親御さんにはコーヒーをこぼしたって言っておいてください。」
    「ん……」
    月島から渡されたコップで水を飲みながら答える。あの後、月島が濡れタオルで色々綺麗にしてくれて、甲斐甲斐しくお世話してくれている。結局、最後は怒っていたのかどうかは、なんだか聞けなかった。
    「またしてくれる?セックス」
    「んー…」
    これからは私だけと言ったのに。
    「次は、あなたの成人式が終わった夜ですかね。」
    「えー、だいぶ先だぞ!」
    なんだ!良かった!
    「その時まで、貴方が俺の事を好きだったら、しましょうね、セックス。」
    そう言って、また寂しく笑う。
    なんでそんな顔するんだ?あんなに気持ちよかったのに、幸せだったのに。
    「そんな顔せんで、私のせいか?」
    「そうですね、鯉登さんのせいです。」
    「おい…わ、わたしは、月島とセックス出来て嬉しかったのに…」
    「だからですよ。」
    それからは、私がどれだけ見つめても、「音之進」とは呼んでくれたなかったし、キスはもちろん、抱きしめてもくれなかった。
    「どうしてだ?わ、私が悪かったのか?」
    「違いますよ…、大好きだからです。」
    裸んぼで、頬杖ついた月島の腕の筋肉の山や、じんわり残っている汗、伏せた瞳が焼き付いた。だから、うつむいて黙ったままにした。
    結局、そのままぼんやり眠りについて、ぼんやり起き上がって、ぼんやりと月島が作ってくれた朝ごはんを食べて、ぼんやり家に送り届けられて。
    私の部屋の窓から夕日を見て、今日は晴れていたことにやっと気づいた。
    そして、その日から私の教育係は前山に変わった。
    1年くらい経って、高校の性教育の時間で、どれだけ愛し合っていても成人と未成年が性行為を行うことはあまり良くないことだと。サッ…と血の気が引いて、その日の授業はあまり頭に入らなかった。
    慌てて帰って、前山に月島の所在を聞いたが、普通に働いてるし、証拠にSNSのやり取りや社報の写真を見せてくれて、胸を撫で下ろす。月島が異動を申し出たらしい。
    「月島は元気か?」
    「うん、欠勤なし。きっと、鯉登くんのこと、応援してるよ。」
    『大人になったらっていうのは…鯉登さんがたくさん勉強して、希望の大学に行って、俺よりたくさん稼ぐようになって、それでも俺のことが好きで仕方なかったら……ね。』
    「わかった……私、勉強頑張るぞ」
    けっこんしよう。寂しく笑う月島を思い出して、机に向かう。
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