そして彼女は「彼女」がいなくなってからどれくらいの年月が経ったのだろう。
僕はこのメトロシティが一望できる高台に登り、持ち込んだりんごを齧りながら木陰で物思いに耽っていた。
僕は以前の記憶があやふやである。
唯一覚えているのは、大きい試合に出場したことと、おそらくその時に握手したのだろう、誰かの手の温もりだけだ。
しかもそれが誰の手であったのかは分からない。
何の試合だったのかも覚えていないし、勝ったのか負けたのか、それも覚えていない。
自分の名前も、自分が何者であったのかも、何も分からない。
何故か僕は大怪我をしていて、目が覚めてすぐに医者に記憶を無くしたのでは、と言われたがどこか他人の事のように感じている。
「………」
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