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    展示作品②です。(2022年4月29日開催のちびまほ!)
    ・晶くんがショタ化しております。
    ・パラロイのパロディで、パラロイイベント参加キャラが出ます。
    ・カップリング要素ありませんが、晶くん受けと同じ生産ラインの作品です。

    なんでもない一日 フォルモーントラボ、受付。電子パネルが並ぶ無機質な空間に、いつからか異質な存在が居座るようになった。男の子の姿をした迷子のアシストロイド、晶。とある一件から彼はフォルモーントラボに保護されていた。登録されていたオーナーは何十年も前に亡くなった、フォルモーントシティとも何のつながりもない人間で、藁にも縋る思いでその子孫とも連絡を取ったものの、晶の存在に心当たりはなく、引き取るつもりもないとにべもなく断られてしまった。行き場を失った彼はフォルモーントラボに引き取られ、暇なときは受付に座っている。マスコットキャラクター的扱いかというとそうでもなく、テイクアウトのおつかいや来訪者の案内といった電子通信ではできないことを主に担当していた。
     今日も晶は受付にいる。傍らには彼の生活を補佐するための特別製ペットロイド、Mu-Muが寄り添っていた。このMu-Muは通信やネット検索などの端末としての機能の他、変形して電動バイクのように晶を乗せて移動することもできる優れモノだ。晶のピンチには電撃放出機能もあるらしいが、幸いなことに現在までその出番は来ていない。
    「よう、ちっちゃいの」
    「ブラッドリー!」
     晶がぴょこんと椅子から降り、来訪者へと駆け寄る。フォルモーント警察署長、ブラッドリーだ。彼は時々所長であるフィガロに用があるらしく、こうして一人でやってくる。
    「フィガロならいつものへやです」
    「おう、ご苦労さん」
     ブラッドリーは晶の頭を撫で、それからキャンディを一つ握らせた。晶は食物からエネルギーを生成できる個体のため、キャンディなどの嗜好品も立派なエネルギー源だ。
    「またこっちにも顔出せよ。うちの奴らがお前を気に入って、今度はいつ来るかってうるせえんだ」
    「はい。またごはんたべにいきますね!」
     ブラッドリーを見送ってしばらくしたのち、Mu-Muがフィガロからのメッセージを告げた。
    『ヒウカーオでアイスコーヒーを1杯、テイクアウトしてきてほしいな』
     ヒウカーオとはフォルモーントシティでも評判のコーヒーショップだ。フィガロもその店のコーヒーは愛飲していて、人と会った後によくテイクアウトを頼まれる。人間との交流はまだ彼にとってストレスらしい。
    『分かりました。今から行ってきます。』
     返信をした晶は、さっそくラボを後にした。自動運転モードのMu-Muに乗って、昼でも電子の光が揺らめく街を進んで行く。幸いヒウカーオはそれほど混んでおらず、晶のおつかいはものの十分ほどで終わった。
    「ご苦労じゃったの」
     ラボの受付で待っていたスノウにコーヒーを渡すと、お駄賃としてチョコレートを渡される。実はこのチョコレート、かなりの高級品なのだが生まれたばかりの晶にそんなことは分からない。しかし、彼は他からもらったものを無下に扱うような子どもではないからこそ、フィガロたちも晶を何かにつけてかわいがっていた。
    「えへへ、ありがとうございます」
     大切そうにチョコレートを羊を象ったポシェットにしまい、晶はにっこりと笑う。
    「今日は何も予定はないのか?」
    「このあとラスティカのところへあそびにいきます」
     晶がフォルモーントラボに引き取られたのちも、ラスティカたちとの交流は続いている。内にこもりやすいラスティカの気質のためこちらに来ることはほとんどないが、晶はよく彼らのラボへと足を向けていた。
    「うむ。気を付けて行ってくるのじゃよ。そなたに何かあれば、フィガロもスノウも、もちろん我も心配するからの」
    「はい」
     晶の返事に微笑んでうなずき、スノウはフィガロの部屋へと戻っていった。
     もともと、直接ここを訪れる人間はワーキングクラスなどのアシストロイドを持たない者がほとんどで、そういった来客は一日に一人来るか来ないかだ。今日も約束の時間になるまで、結局受付を訪れる者はだれ一人いなかった。この後のアポも一件もない。
     晶は早めに受付を店じまいし、ラスティカのところへ行くことにした。時間にルーズというべきか合理的というべきか、晶はアポもなく来客もない時は好きに出歩いてもいいということになっている。
     片づけをしてラボを出たところで、一台のバイクが停まっているのに気づく。運転手の赤い髪の警官は、晶に気が付くと大きく手を振る。晶も手を振り返し、バイクへと駆け寄っていった。
    「カイン!」
    「ラスティカのラボに行くんだろ?俺も用があるから送っていくよ」
     カインが指さした先には、すでにサイドカーが準備されている。晶はぴょこんと頭を下げてから、サイドカーに乗り込んだ。
    「ありがとうございます、よろしくおねがいします」
    「ああ、任せてくれ」
     バイクが発進し、ラボが遠のいていく。晶は上機嫌で、カインに近況を話していた。アシストロイドの性質上、大人びたところが多い晶だが、こういうところはまだ子どもらしいとカインは微笑えましくなる。
     警官の乗ったバイクを見上げ、道行く子どもが敬礼をする。カインと晶はそれに敬礼を返してから、顔を見合わせてにっと笑った。
    「そうだ、オーエンがそろそろかえってくるんです」
    「お、久しぶりのご帰還か」
     オーエンは今、フォルモーントシティにはいない。気になるところがあればふらっと出て行き、飽きたら帰ってくる。心のままに過ごしている彼は、久しぶりにフォルモーントシティが恋しくなったらしい。ルームメイトでもある晶に先日、オーエンから連絡が入ったのだ。
    「かえるからへやのそうじしておいてっていわれました」
    「あいつも相変わらずだなあ」
     カインは苦笑しながらも、今はここにいない友人に思いを馳せる。
    「ちゃんとへやはきれいにつかってるのに……」
    「ははは」
     ラスティカのラボには「本日休業」の電光掲示板が光っていたが、構わずに二人は中へと入る。
    「こんにちは」
    「よう、ラスティカ」
     来客を告げるベルの音が聞こえたのだろう、奥から出てきたのはクロエだった。
    「ふたりとも、いらっしゃい!」
    「こんにちは、クロエ」
     クロエはカインと晶を見るとぱあっと笑顔になり、いそいそと奥へ通した。普段来客の応対に使われる部屋にはラボの主であるラスティカ、その手伝いに来ていたヒースクリフがそれぞれの作業に没頭していたが、クロエと共に二人が部屋に入ると、手を止めて顔を上げた。
    「よう、久しぶり」
    「久しぶりだね、カイン」
     ヒースクリフが挨拶を返すと、その足元にいた犬型のアシストロイド、シノも一声吠える。それに手を振って応えてから、カインはひとつの包みを鞄から取り出した。
    「ラスティカ。早速だがこれの鑑定を頼みたい」
     クロエがそれを受け取り、ラスティカに渡す。それを開けて中身を確かめ、ラスティカはひとつうなずいた。
    「これなら少し待ってくれればすぐに鑑定できるよ」
     その視線はカインではなく壁に向けられ、笑顔もぎこちない。しかしカインは気分を害した様子はなかった。
    「ああ、頼む。休みなのに悪いな」
    「いや、気にしないで」
     ラスティカは作業を始め、クロエはお茶の準備をするためにキッチンに引っ込む。カインと晶とヒースはソファに座って近況や最近流行りのものについて話をしていると、クロエがティーセットをお盆の上に乗せて現れた。
    「あ、このまえニュースで、クロエがすきなスパイえいがのつづきがでるってやってました」
    「そうなんだ!」
     晶の言葉に、その話がしたくてうずうずしていた、というようにクロエが身を乗り出す。ティーセットをテーブルに置くと、わくわくした面持ちで口を開いた。
    「今からすっごく楽しみなんだ!あの終わり方から、どう続きを広げていくんだろう……そうだ、またコスプレの衣装を作っちゃおうかな!」
    「クロエのいしょう、たのしみです」
     晶の趣味にコスプレは入っていないが、クロエが手掛けた見事な衣装や、作っている最中のクロエの楽しそうな様子を見るのは好きだ。
    「俺も楽しみだよ」
     ヒースクリフも笑ってうなずく。しばらく和やかな談笑が続き、ラスティカが作業を終えてからはそれに加わってさらに話に花が咲いた。自分を子ども扱いしすぎることなく、友人として大事にしてくれる彼らが、晶は大好きだ。クロエの衣装を着た時はみんな遠慮なくもみくちゃにしてくるけれど。
    何杯目かのお茶を飲み干したところで、カインがふと時計に目をやり、慌てたように立ち上がった。
    「おっと、長居しちまったな。俺はそろそろ帰るよ」
    「おれも、そろそろかえらないと」
     ラスティカのラボを出て、カインにラボまで送ってもらう。お礼を言ってサイドカーを降りた晶は、ラボの前でたたずむ人影を見つけた。
    「あっ!」
     晶の声に、カインもその視線の先に目をやる。そこにいたのは、オーエンだった。
    「オーエンじゃないか」
     駆け寄ってきた二人に、オーエンは軽く手を上げる。
    「晶。部屋の掃除は終わってる?」
    「もう。へやはいつもきれいにしてますってば」
     頬を膨らませた晶の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、オーエンはカインに目を移した。
    「ち、ちぢんじゃう……」
    「やあ、晶と遊んでくれたんだ」
    「ラスティカのラボに行っていたんだ。……そうだ」
     カインは笑って、背後のバイクを指さした。
    「これから用事を済ませたら、どこかで一緒に話さないか?久しぶりに、三人で」
    「へえ」
     オーエンはそれにはっきりと答えず、ただ晶を抱き上げた。
    「わっ」
     そして、そのままカインのバイクのサイドカーに乗り込む。奔放なオーエンの言動にカインは苦笑し、その後を追った。
    「さっさとその用事とかいうの終わらせなよ」
    「ああ、そうするよ」
    「あはは、ふたりといっしょなんてひさしぶりです」
    三人を乗せたバイクは、勢いよく走り出す。これがまだ見ぬ事件の幕開けであることは、この三人は知る由もない。

    おわり
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