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    2022年6月4日開催の「ひかる星々の名前を教えて」展示作品です。
    もう一つの展示作品のファウスト視点になります。
    現パロ、所帯じみたファウスト、晶くんがかわいくて仕方がないファウストが出てきます。

     おやすみの挨拶とキスを交わせば、晶はほっと緩んだ表情を見せ、ベッドに潜っていく。早くもうとうととする彼の髪を撫で、僕も目を閉じた。何よりも愛する恋人との夜。心安らぐ時間は過ぎていく。
     朝は僕の方が早く起きる。朝食を作りながら、晶が起きてくるのを待つ。味噌汁の匂いで起きてくる彼は、食欲に素直で大変可愛らしい。目を擦りながら起きてくる彼を見るために朝食を作っている、というのは少々過言か。
     晶が食事を残すことはない。僕が食事を作ればいつもおいしいおいしいと言いながら頬張り、時にはおかわりまでして完食する。作り手冥利に尽きるような笑顔を見せてごちそうさまをする彼は本当にかわいらしく、ついつい世話を焼きたくなってしまう。彼自身はそれを申し訳なく思っているらしく、休日には朝食や弁当用にと作り置きのおかずを作ってくれたり、気がつけば家事をやってくれたりしている。僕は一人暮らしが長いから慣れていると言っているのに。世話をさせてくれない健気なところも、晶のいじらしい長所だ。
     弁当を持たせて晶を送り出せば、長い一人の時間が始まる。家事をしたり仕事を片付けたりして、昼のタイムセールの時間が来たら買い物に出掛ける。今日は晶の大好きな肉じゃがでも作ろうか。スーパーのセールも活用して今日明日の夕食の材料を吟味し、カゴに入れていく。夕食のメニューは基本的に栄養バランスを考慮したものにしているが、時々ネロに助言をもらうことがある。彼はプロの料理人であり、時々「お熱いことで」なんて冗談を飛ばすようなところもある、僕の数少ない友人の一人だ。
     自転車を漕いで買い物に行き、ネギが飛び出したエコバッグを持って帰ってくる。一昔前の僕が目指していた「クールでダーティ」な小説家像とは相反した現在だが、それに不満は全くない。ひとりで暮らしていた僕が今の僕を見たら、どう思うだろうか。どう思われようと、前より今の方が幸せだと自信を持って言える。それは、すべて晶のおかげだ。あの子の笑顔を守るためなら、僕は何だって出来てしまうかもしれない。それくらい、僕はあの子に惹かれている。
     いつも晶は夕食が覚めない時間に帰ってくる。遅くなる時は律義にいつも連絡をくれるから、僕に対して気を遣っているのだろう。玄関のドアを開けた晶は、にこにこと笑っていた。
    「今日は肉じゃがですか?」
    「あたりだ」
     やったあ、なんて喜びながら、彼は着替えを済ませ、いそいそと夕食のテーブルにつく。しかし、いつもなら箸を持つタイミングで彼は唐突に神妙な顔をした。
    「やっぱり、俺も夕飯を作ります」
     晶は、僕が小説家の仕事をしながら家事をしていることを気にしていて、前にも同じようなことを言われたことがあった。よほど、僕に負担をかけたくないのだろう。
    「きみは外で仕事をしているだろう。家にいる僕が作った方がいい」
     前にも言った言葉を繰り返すが、今日の晶は引き下がらなかった。
    「それはそうなんですけど……」
     歯切れが悪い返事だ。もしや、会社で何か言われたのだろうか。誰かに悪し様に言われようと、きみがそいつに心を傾ける必要なんてないというのに。晶は誠実だから、きっとそうすることはできない。
    「以前にもきみは同じことを言っていたな。何か気にしているのか?」
    「実は……」
     晶が語ったのは、会社の同僚の、なんてことない雑談だった。母に弁当をつくってもらっている同僚がからかわれているのを聞き、いたたまれない心地になったらしい。そして、彼の話の締めくくりは僕が想像したものだった。
    「俺、ファウストの負担を減らしたいんです」
     人のふり見て我がふり直せ、を実行するような純粋さと、真面目さ。そして僕へのいたわり。その全てが愛おしくて、思わず表情が緩む。可愛い晶をちょっとからかってやりたくなって、僕は口を開いた。
    「気にしなくていい。君の世話をするのは嫌いじゃないよ」
     すると、晶はむむっと眉根を寄せる。そんなしかめつらしたって可愛いだけなのに。
    「世話って……俺は子猫じゃありませんよ」
     そうやって気分で表情がころころ変わったりするところがそっくりだよ。そんなことを言うとへそを曲げてしまうかもしれないので、何も言わずに頭を撫でるだけにとどめておく。こうするとちょっとおとなしくなるところも、子猫そっくりだ。
    「本当に、僕が好きでやっているんだ。でなければ、料理を毎日作ったりしないよ。ネロにレシピまで聞いて」
     僕の言葉に、晶がはっと目を上げた。心を打たれた、というようなきらきらとした視線がつい眩しくて顔を背けてしまう。こんな彼の一面を見られるのも、真面目で誠実な彼を甘やかすことができるのも恋人の特権だ。今更手放す気はない。
    「それに、その山田さんという人は母親に作ってもらってるんだろう。でも、僕はきみの恋人だ。きみを甘やかす権利がある。だから、きみも気を遣わなくていい」
     それに同僚の家族のことを聞いて僕のことを思ってくれたのは、晶が僕を家族だと思ってくれているようで。晶は、いつだって僕に幸せや安らぎをくれる。
    「食事が冷めてしまうよ」
     晶が納得したら、箸を手に持つはずだ。見守る僕の前で、彼は大きく頷いた。
    「……はい、いただきます!」
     そして箸を手に取り、おいしそうに食事を口に運ぶ。それを見ながら、僕もいただきますをした。
    共に食卓を囲める幸せに、感謝を。
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