6月JBのプロポーズ短編に入れる予定の書きおろし 太宰は悩んでいた。千頁を超えるフルカラーの雑誌をテーブルに広げて、睨めっこをする。社員寮の自室は沈黙に満ちていた。この状況になって、かれこれ一時間が経過した。簡素に済ませた夕飯の蟹缶とパックの白米の空箱が、追いやられるようにテーブルの隅に置かれている。窓の外に浮かぶ月が、今夜の空気がいっそう透き通っていることを報せていた。しかし、太宰の視線は外ではなく下に向けられている。
眉根を寄せて真剣な表情を浮かべる横顔は、滅多にお目に掛かれないものだ。超人的だと云われる頭脳、精神年齢二千歳の仙人。人間の領域から大きく離れた太宰を表現する言葉はいくつもある。
そんな太宰を悩ませられるものがこの世に存在するのか? ――存在するのだ。
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