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    ZnMyzattakata

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    ZnMyzattakata

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    🐬がいなくなる夢を見た☔️と、少し強かになった🐬の☔️🐬

    窓の隙間から夕陽が差し込んでいる。廊下は一日の学業から解放された学生達で賑わっていて、授業のことなんてすっかり忘れたように皆雑談に花を咲かせている。フィン達も例に漏れず、同室のマッシュと話しながらのんびりと食堂へ足を進めていた。
    「あぁ〜お腹すいた」
    「限界ですな」
    「今日の日替わりメニューなんだろう?」
    「なんだろうね。サラマンダーの唐揚げだといいね、フィンくんの大好きな」
    「大好きではないよ!?いや嫌いでもないけど。兄さまがやたらと食べさせてくるだけで」
    「ふぅん。フィンくん細いからねえ」
    「結構食べてるつもりなんだけどなあ……ん?」
    ふと、違和感を覚えたフィンが立ち止まった。
    お腹の辺りが震えている気がする。
    「フィンくん何か鳴ってない?」
    「なんだろう、伝言ウサギかな?」
    内ポケットから取り出してみると、やはり原因は伝言ウサギだった。フィンを呼び出し続ける画面には兄の名前が表示されている。
    −−この時間に連絡が来るなんて随分珍しいな。
    フィンは一言マッシュに断ってからすぐに通話ボタンを押した。
    「もしもし」
    「オレだ、レインだ。授業終わりにすまない」
    電話口のレインのトーンは普段と変わらない。どうやら急な用事や差し迫った出来事がある訳ではなさそうだった。
    少しだけ肩の力が抜いて返事をする。
    「ううん、兄さまもお仕事終わり?」
    「まあ後少しだな」
    「そっか、お疲れ様。それでどうしたの?急に連絡なんて」

    「……今晩会えるか?」

    フィンは聞き逃さなかった。
    常に率直に言葉を伝えるレインがほんの少し間を置いてから話し出したのを。
    −−これはきっと、兄さまの中で何かあったに違いない。
    そう直感したフィンはレインの申し出を二つ返事で了承した。そうでなくたって兄が会いたいと望んでくれること自体とても嬉しいのだ。
    レインには申し訳ないが、こうやって求めてくれるのならもっと困ってくれてもいいのに、なんて良くない考えまで浮かんでくる。
    「……いつから僕はこんなに悪い子になっちゃったんだろう」
    「フィンくん何か言った?」
    「ううん!なんでもない」

    ***
    夕食を済ませた後、すぐにレインの家へ向かった。
    「兄さま来たよ」
    「ああ、入れ」
    ドアを開ければいつもの光景が広がる。
    イーストン卒業後も変わらず多忙な日々を送るレインの部屋は必要最低限の家具だけが揃っていて、殺風景といえば殺風景だった。
    しかし、よくよく見れば所々にウサギ柄のクッションやコップが置かれており心が和む。

    「お邪魔します」

    肝心のウサギ達はきっとウサギ専用の部屋にいるのだろう。今日は一羽も姿が見えない。
    「ウサギ達はお部屋で休憩中?」
    「そうだな。さっき餌をやったばかりだ」
    なるほど、とフィンは納得した。お腹いっぱいのウサギ達は今頃快適な室内で寛いでいることだろう。
    レインに促されるまま、今日は空っぽになっているリビングのソファに腰掛けた。

    −−二人きりかぁ。
    意識して、心臓の鼓動が早くなる。

    神覚者ローブのままフィンを出迎えたレインの目の下にはうっすら隈が浮かんでいる。草臥れたシャツによれた首元のネクタイ。帰宅から然程時間が経っていない様子が見て取れた。
    滅多にない二人きりという特別な時間に浸りたい気持ちと、まだ疲れが色濃く残るレインに負担をかけてしまうのではないかという不安がフィンの胸の中で混ざり合った。
    「えっと、兄さま」
    −−もう少し休憩する?帰ってきたばかりでしょ、支度終わるまで待ってるよ。

    と、口を開こうとしたその時。おもむろにレインが隣に腰掛け、フィンの肩に頭を乗せてきた。
    「わわっ!?」
    突然ぐんと肩が沈み、驚いたフィンはレインの方へ顔を向ける。ふわふわとした毛先が鼻先を擽った。
    「兄さま?」
    返事の代わりなのか控えめにぐり、と丸い頭が肩に押しつけられた。
    真っ直ぐ落ちるフィンの髪と違いくるりと癖のついたレインの髪はまるで毛長の兎のようで、見ているとついつい撫で回したくなってしまう。
    少し触れてみて咎められないことを確認してから後ろへ向かって緩やかに梳くように撫でていく。
    レインはただ静かに瞼を閉じていた。
    返事がないことをいいことに、ここぞとばかりにフィンはレインの髪に、耳に、頰に指先を滑らせていく。
    こんな時でも無ければ触れることが叶わない場所。そして、フィンだけに触れることを許された場所。

    すると今度はレインの腕がにゅっ、と伸びてきた。そのまま絡め取られるように抱きつかれ、レインの体重がフィンの全身にのし掛かった。
    ソファの背もたれに身体を預けながら、レインの体温と重みを受け止める。
    「……今日はお疲れ気味?」
    声は無くとも一向に離れる気はないようだ。様子を見ながら待っていると、抱きしめる腕の力は徐々に強くなっていく。フィンもしばらくの間、分け与えられる体温に思いを馳せることにした。
    外は静寂に包まれて何も聞こえない。
    いつの間に夜が深まったのだろうか。道ゆく人の声も気配もどこかへ行ってしまった。
    音のない部屋に二人きり、世界からレインとフィンだけが切り取られてしまったようだった。

    「……すまない、しばらくこのままにさせてくれ」
    ぽつり、呟いたレインが再び肩口に頭を預けた。フィンの首筋に口元を埋めたまま息を吸う。満足のいくまで吸った後には熱く湿った吐息が敏感なところを這うように流れていき、ぴくりと身体が跳ねる。
    「兄さま!?」
    フィンは身動ぐもあまり意味を成さない。静かな室内にレインの呼吸音だけが繰り返し響く。
    「ちょっ、なにして……」
    首筋の皮膚の柔いところを唇が弄り、それからまた深く息を吸われる。何度も、何度も。
    「フィンの匂いがするな」
    レインは目を細め、より一層フィンをきつく抱き寄せた。
    既に耳も首も真っ赤に染められたフィンはお返しとばかりにレインの真似をして、ぎゅっと抱きつきレインの香りを胸いっぱいに吸いこんだ。
    愛おしいレインの匂いに僅かに混ざる慣れない匂い。少し埃っぽい魔法局の匂いと、刈ったばかりの芝生のような匂い。
    「……兄さまは今日もお仕事が沢山あったんだね」
    「ああ」
    「餌あげる時、またウサギ達に埋もれてたでしょ」
    「わかるのか」
    「うん、わかるよ」
    「……そうか」
    吸って、吐いて。身体だけじゃなくて心までもがじんわりと満たされていく。
    「兄さまが一日頑張った匂い、僕好きだな」
    「オレもフィンの匂いが好きだ」
    首筋に鼻先を寄せられ、そのまま強く吸うように口付けられる。
    「あっ!?」
    驚いてレインの両肩を押し戻そうとしたがびくともしない。普段だったら「悪い」と言って止まるはずなのに、やはり今日は様子が違う。
    「ん、そこだと見えちゃうよ……っ」
    言葉を聞いているのか聞いていないのか、口付けは止むことなく欲の痕が次々に咲いていく。

    数分前のフィンの戯れよりもずっと激しく、執拗に。
    額に、鼻に、頰に、鎖骨に、指先に。
    待ちきれず僅かに開いた唇に。
    レインは何も答えない。けれど、フィンを捉えて離さない琥珀色の瞳は抑えきれないほどに強く、お前が欲しいと物語っていた。
    二人を繋ぐ銀糸がぷつりと途切れる。
    これで終わるのは、嫌だ。
    同じようにフィンも、その先を望んでいた。

    「……フィン」
    「いいよ、兄さまの好きにして」


    ***
    「すまない、無理をさせた」
    「……兄さま、何かあったんだよね?」
    「フィンにはお見通しか」
    「そりゃそうだよ。何年家族と恋人やってると思ってるの?いや、まぁ恋人は最近のことだけどぉ……」
    自分で言っておきながら顔を真っ赤にするフィンにレインの瞳が笑う。どれだけ時を過ごしても、肌を重ねても素直なまま変わらないフィンをレインは心底愛おしく思っていた。

    「夢を見た」

    一転、レインから表情が消える。
    「夢?」
    「お前が居なくなる夢だ」
    「僕が……」
    自分がレインの前から居なくなるだなんて想像も付かないが、もしもレインが目の前から消え去ってしまったら……一瞬過った思考に背筋が凍った。
    「お前が存在ごと消えていた」
    は、と息を呑む。
    「見えねえ何かがオレを奈落へ突き落とす、そんな夢だ。お前の居ない世界は……恐ろしかった」
    恐ろしい。
    そんな言葉今までレインの口から聞いたことがあっただろうか。フィンは驚きに目を見開く。
    「だから確かめたかった。お前が……フィンが傍に居ることを」
    何かに縋るように、幼子のように彷徨う瞳がフィンの方を向く。絶対に他人に見せることのないレインの心の柔いところに触れて、フィンは胸が詰まる思いがした。
    そっとレインの手を取り、自分の左胸に当てる。

    「ほら、僕は此処にいるでしょ?」

    だから大丈夫だと一杯の笑みを浮かべて見せるフィン。レインの手に伝わるそれは確かに温かく、命を育む音がした。
    「そうだな。オレが馬鹿だったな」
    くたりと全身から力が抜けたレインは自嘲気味に口角を上げた。
    「そんなことないよ。誰だって不安になる時はあると思うんだ」
    とん、とん。
    抱きしめてあやすように、レインの背中を撫ぜる。
    「そういうものか」
    「そういうものだよ。だからこうやって兄さまが気持ちを曝け出してくれたこと、僕すごく嬉しいな」
    「重くねえか」
    「重い?重い、のかな……全然そんなこと思わなかったよ」
    フィンにはよく分からなかった。
    重い女を自称する同級生の姿を思い浮かべるが、あまりしっくりとはこない。
    むしろレインが許してくれるのなら、その心の奥底まで触れられたらいいのにと思った。
    自分の心全てをレインに明け渡す覚悟はとうにできている。そうやって深いところまで寄り添って……いや、そんな生易しいものじゃきっと足りない。心の一番深くにお互いを刻み込むことができるのなら、怖いものなんてなくなるんじゃないかと思えてしまった。
    「やっぱり僕、悪い子になっちゃったかなぁ」
    「何を気にしてるのか知らねえが、そんなものどうだっていいだろう」
    「えぇ……?」
    「何であれオレがお前を愛することに変わりはない。むしろ良い子のお前も悪い子のお前も、全てオレに寄越せ」
    「ふふ、そっか」
    フィンは愉快そうに笑った。

    「それで、兄さまは良い子の僕も悪い子の僕も……ちゃんと全部確かめられた?」
    「まだ足りねえと言ったらどうする」
    「あはは、兄さま今すごく悪い顔してるよ」
    「お前が言うのか」

    軽口を叩きながらベッドに沈んでゆく。

    明日が二人を呼ぶまでずっと、終わることのない存在証明。
    幸せで満たされた"悪い子"二人を、穏やかな月明かりが照らしていた。

    −fin−

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