「きっちゃん」
呼ばれれば振り向いて、どした?と声をかけるのもいつも通り。
ただそんな他愛のない言葉に、目の前の少女はまるで花が咲いたかのように表情を綻ばせ駆け寄ってくる。そんな風に見えるようになってしまったのは自分の錯覚が見せているものなのか現実なのかはいまだにわからない。それを本人に確かめる勇気も自分には持ち合わせていない。ただそんな彼女に愛おしさを感じているのは確かだった。
自分に懐いて駆け寄る愛犬のような愛しさの類なのか、はたまた違った感情からくるものなのかは答えが出せない。
もはやそんな感情を人間の女の子に抱いている時点でそういった感情なのだと振り分けてしまえば簡単な話なのではあるが、そんな行動をするのは自分だけではないのも知っているからこの感情に名前が付けれずにいる。
1084