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    zen_mitsuno

    宿伏の民です。

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    zen_mitsuno

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    謎時空、御形×ショタな宿伏。健全。
    玉犬黒白と裏梅さんも出てくるよ!
    (時代のことは考えてはいけない、いいね?)
    ※作者の知識不足によりwiki頼りな描写があります。

    #宿伏
    sleepVolt
    #伏黒恵誕生祭2021

    一陽来復 寒さは昔から苦手だ。かつて村で冷遇されていた頃を思い出す。
    “お前に似合いの役割だ。行ってくれるな?”
    “これまでこの村で散々世話してやっただろう、その恩を返す時がきたのだ”
     重い思考を振り払いたくて軽く頭を振った。火鉢に手を翳し、左右に玉犬達を侍らせて暖をとる。
    「ワフッ」
     玉犬が耳をぴくりと動かし、恵に何かを伝えるように鳴いた。
     雪見障子から恵が外を見やると、今にも雪の降り出しそうな曇り空を背負ってゆっくりと歩いてくる人がいる。白と赤の髪、白の着物、今の季節にぴったりだと恵が思うその人は裏梅という。生贄の恵を山奥で拾ってくれた神様の部下、らしい。
     どうしようかな、お出迎えしたいけどこの暖かい場所から動くのは少しだけ億劫だ。
     行かないのと問いかけるように四つの黒い瞳が恵を見つめている。いつもならすぐに立ち上がれるのに、足に力が入らない。昔のことを思い出してしまってからどうも調子が変だった。
     悩んでいる内に障子で切り取った風景から裏梅の姿は消えてしまった。勝手口へ向かったのだろう。
    「裏梅さん、今日はどんな用事かなぁ」
     玉犬・白の背に顔を寄せた。すぐに黒の方も身を寄せてきて一人と二匹はギュウギュウとひとかたまりになる。
     ふわふわの毛の感触と暖かさに心が解れていく。くすりと笑いを零すと、主人の気持ちを察したのかブンブンと尻尾を振る。交互に頭を撫ででやり火鉢の前から動かないでいると、部屋の外から声が掛けられた。
    「恵様、入ってよろしいでしょうか」
     きちんと座り直してからどうぞと返すと、音もなく障子が開けられる。部屋へ足を踏み入れた裏梅は籠を抱えていた。
    「こんにちは、裏梅さん。お出迎えしなくてごめんなさい」
    「お気遣いなく。宿儺様はご不在のようですね」
    「そうなんです、昼時までには戻ると言ってました」
     寂しげに言う恵の頬を玉犬が舐める。心なしか耳も伏せ気味だ。
     その様子を常と変わらぬ冷静さで見ていた裏梅が手の中の籠を差し出す。
    「本日はこちらをお持ちしました」
     被せられていた手拭いを持ち上げると、黄や緑、赤といった鮮やかな色が目に飛び込んでくる。
    「食べ物ですか?」
    「こちらが南瓜。それから小豆と柚子でございます」
     丁寧に指差しながら説明されるが、どのように食すのかまで思い付かない。それと、南瓜と小豆の組み合わせは“甘いおかず”になりそうで不安が過ぎる。
    「えっと……」
     子供っぽいところを自ら告げたくなくてもごもごしていると、性別不詳のその人は口元に薄らと笑みを浮かべた。
    「お好みではない食材がございますか?ご安心ください、宿儺様が美味しく調理して下さりますよ」
     どうやら無駄な足掻きだったようだ。恵が観念して口を開いた時、玉犬達が恵の脇腹を鼻先でつつく。
    「帰ってきた!」
     火鉢の前から動けなかったのが嘘のように恵は廊下へ飛び出し、玄関を目指した。玉犬達が後に続き、その後ろを静かに裏梅が歩く。玄関に到着した頃には、屋敷の主であり山の神様と呼ばれる男は既に履き物を脱ぎ終えていた。
     振り返った男の只人からかけ離れた大きな体躯に躊躇いなく抱きつく。
    「宿儺っお帰りなさい!」
     返事とともに抱えられて、副腕で跳ねた髪を撫でられる。
    「常時式神を連れていても安定するようになったな」
     宿儺に褒められるのはとても嬉しい。きっと今優しい顔をしているに違いないと、首を上げたらもう一方の腕に抱えられた荷物が目に入った。綺麗な布に包まれているが随分と平たい…何だろうか。見ていることを隠そうとしない素直な視線。気になるかと問いかけられるも、その声色は答えるつもりがなさそうだったので首を横に振った。
    「裏梅さんが食材を持ってきてくれた」
     後ろで静かに控えるその人が籠を差し出す。
    「確かに揃っている」
    「は、ありがとうございます」
    「伏黒恵」
     宿儺の胸元に懐いて暖をとっていた恵が、ぴんと背筋を伸ばす。
    「咎めたわけではない。これらの食材はどのように使われると思う?」
     ほっと息をつき宿儺の顔を見上げて、恵は答えた。
    「んん、体を温める何か?……できれば甘くないといいなと思う」
     後半にぼそぼそと付け加えた言葉が宿儺の壺を刺激したようで、呵呵とばかり笑った。恵が頬を膨らませながら耳飾りのついた耳朶を引っ張ったところでようやく宿儺は息を整え、荷と恵を抱えたまま歩き始める。その後を玉犬達が追い、さらに後ろを裏梅が続いた。
    「なぁ宿儺、答えは?」
    「昼餉が用意できたら、だ」
     どうやらお預けらしい。恵は昼餉が甘いおかずになるかもしれない不安を胸に運ばれるしかなかった。

    ▲▲△△

    「宿儺様がお呼びです。恵様、此方へ。」
     調理中の宿儺の邪魔しないように待機していた恵は、勢いよく立ち上がり裏梅の後を着いていく。立ち止まった裏梅に促されて室内へ入ると、宿儺はその手に着物を広げていた。
     千歳緑の地色に、大小の亀甲文様がちりばめられており、中には宝尽くしや菊が描かれ非常に華やかだ。
     その美しさに恵がほぅと息をついていると、寄るように言われておずおずと近づく。
    「伏黒恵、着替えるぞ」
    「えっ俺が?」
    「これはオマエのものだ」
     言われて、再び着物に目を向ける。こんな高級そうな織物はかつて村にいた頃見たことも触れたこともない。この屋敷にきてから上等なものに触れる機会は増えたが、それでもここまでの品は初めてだ。
    「でも俺、祝われるようなことは何も…」
    「ほう、これを一目見てそのように感じたなら上々だ」
     宿儺は機嫌良さそうに続ける。
    「俺の気が向いただけだ、気にするな」
     きっと宿儺が言うならその通りなんだろうし、嬉しく思うけれども躊躇わないわけではない。恵が手を弄ってまごついていると、突然質問が飛んできた。
    「冬至を知っているか、伏黒恵」
     意図は掴めないながら質問の答えは分かる。
    「この間書物で読んだ。一年で最も日の出から日没までの時間が短い日だろ」
     恵が傍に寄らないせいか、彼から歩み寄り頭を撫でられた。宿儺の場合一歩で恵の目の前だ。
    「『日南の限りを行て、日の短きの至りなれば也』。古くから中国ではこの冬至を含む月を子月と呼び――」
     宿儺の声が惜し気もなく知識を披露する。耳に心地よいそれを聞き逃さないように必死になった。
    「――よって、旧から新へと切り替わることを意味する」
    「新しい年ってことだな」
     そうだと返し、宿儺の副腕が幼子の細い腰を引き寄せる。そのまま掬い上げられ、深緋と翡翠が交錯した。
    「己がいつ産まれ落ちたか詳しく知らぬだろう」
     恵はこくりと頷く。寒い時期に生まれたと言われた遠い記憶はあれど、言ってくれた両親はもういない。
    「ならば、今日だ。旧命が滅し、新種が宿るこの時をオマエの産まれ落ちた日としよう」
     額に落ちてくる唇。その柔らかな感触に恵は言葉もなく、涙が溢れそうになった。
    「伏黒恵がこの世に現れたことは祝われるべき吉祥。この衣を着てくれるな?」
     恵が否定しかけたことを気にしていたのか。目の縁で留まっていた水分が顔を歪めた瞬間にぽろりと落ちる。
    「……うん」
     鼻声で格好悪い。俺だって宿儺みたいに格好良くなりたいのに。
     恵の葛藤も知らず、宿儺は目元の水分を拭ってから今度は頬に口付けた。
    「自分で着替える、から降ろして」
     宿儺は恵の言葉に応えてくれたが、少々不満そうだ。着替えは結局手伝ってもらった。

     少々緩めに着付けられた着物を纏い、食事の用意された部屋へと向かう。
     中では配膳を終えた裏梅が襷掛け姿で控えていた。
    「伏黒恵、此処へ座るといい」
     指差された席は、普段宿儺が腰を下ろす上座だ。当然発言主から撤回されるわけがないので裏梅を見るが、なんと主第一の人からも促されてしまった。恐るおそる正座したところ、恵の定位置に宿儺が座り込んだ。
    「さて何から口にする?作法など気にするなよ」
     目の前には食べきれるか不安になるくらいの料理の数々。目についたのは籠にあったあの野菜だ。
    「南瓜とクワイの肉巻きだ。オマエの舌に合わせて薄く芥子をつけてある」
    「こっちは焼き南瓜のおろしがけ」
    「南瓜のいとこ煮。安心しろ、甘くならぬよう調節した」
    「小豆粥だ。本来は朝に食すものだな」
     裏梅の持ってきたいくつかの食材でこんなに色々作れてしまうのだから驚きだ。気にするなとは言われたが、迷い箸にならぬよう気を付けて小皿にとり口に運ぶ。どれも口にあったのか、含んだ瞬間目を輝かせるさまは幼子らしく、可愛らしいものだ。
     他にも恵の好む生姜に合う料理が用意されており、飽きさせない。宿儺があれもこれもと世話を焼くものだからいつもより箸が進み、恵の薄い腹はぽっこりと膨れてしまった。
     箸を置き、手を合わせた後でふと宿儺を出迎えた時の会話を思い返した。
    「そうか、全部冬至のためなんだな」
    「正しくはオマエの為だ」
     口の端を親指で拭われ、そのまま口に運ばれる。
     恵の白い肌は耳の端まで真っ赤になっていた。祝福に満ちた声によるのものか、壊れ物に触れるような優しい手の動きによるものか。あるいは両方かもしれないが、小さな胸いっぱいに感情を抱えた恵に正確にはかることはできそうにない。
    「そ、そういえば柚子は?料理に使われてなかったぞ」
     誤魔化されてくれたわけではないだろうが、返答はあった。
    「それは湯浴みの時だ」
     ああ、夜も宿儺と過ごせるんだなぁ。もう日常のはずなのにじんわりと胸が暖かくなった。
     寒いのは苦手だけど今はこんなにも満たされてぽかぽかだ。
     生きる理由は此処にある。拾われたあの日生まれ変わった俺は、これからも宿儺と生きていく。
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