通りゃんせ通りゃんせ(仮)それは木枯らしが吹き始めた秋も半ば頃...。
いつもなにか企んでるようなにやけ顔で訪れるねずみ男が、血相を変えてゲゲゲの森にやってきた。
ーまぁたこやつは厄介事にでも巻き込まれたんじゃろうなぁ。
懲りない奴め、とひっそりため息をついていると、話を聞いていた倅の顔がみるみる変わっていくのが見えた。
そして、至極嬉しそうな顔でわしにこう言うてきおった。
曰く、
「父さん!お義父さんに会えるかもしれません!」
と.........。
通りゃんせ通りゃんせ
「してねずみ男、その話真なんじゃな?」
「こんなことで嘘ついて俺になんのメリットがあるってんですかぃ。俺も今でもにわかに信じがたいんすが...」
通りゃんせって童謡ご存じです?ありゃ実際にあった神サマへの道すがらを歌ってんですが、最近妙な噂が尾ヒレをつけてまして...。
何でもその道をかの唄を歌いながら歩くと知らない一本道に飛ばされて恐ろしい目に遭うとか。まぁこれは昔から言われてることなんで誰も気にも止めてないんですが、こっからが重要でしてね?その道を真っ直ぐ進んでくと真っ白い鳥居と小さな社が現れるんですって。そこに辿り着ければお面を被った神サマが無事にコッチの世界に戻してくれるって言う話でーー。
その神サマという輩がねずみ男がやってきた理由だと言う。何でもその者の左耳が欠けているのだとか。耳が欠けている者など長く生きていれば、それなりにおると言うのに、何故かわしは胸騒ぎを起こしていた。いやだがあやつは確か地獄へ行きこちらに戻ってこれなくなったはず。結局は他人の空似か全くの別人だろうと、騒がしく掻き立てる慕情を抑えるのに必死にだった。
そう、岩子のようにあの男を水木を愛しておったと気づいた時には、もう目の前からも、この世からも居なくなってしもうてたのじゃから。
「まぁ、このご時世そんな噂もすぐに消え失せるじゃろ。何せこの世の人間たちは忙しないんじゃから。」
「でも父さん...」
「何か問題があるわけでもなし、今すぐどうこうせねばならんことでもないじゃろうて。」
気にせんでええ、とそう自分に言い聞かせるように倅に言うた。
内心では、己が真っ先に行きたいんじゃろうがという囁きを無視しながら...。