「あ。プロセラ」
涙とダンスレッスンから帰る途中で呼び止められる。声の主の方を向けば見覚えのある顔だった。赤みの強い茶色の髪に目尻の上がった元気な瞳。確か……
「VAZZYの……」
「大山直助」
涙が名前を呼ぶと少年は嬉しそうな表情をした後にすぐそれを不満そうなものに変える。
「ナオです、ナオ」
そういえば本名で呼ばれるのが好きじゃないらしいと誰かから聞いた気がする。そして、実際にナオと呼んでくれている人が少ないという事も聞いた気がする。
「ごめんごめん。えーと、君もレッスンに来たの?」
「そうです!俺たちはこれからで!」
「へえ、頑張ってね」
「はい!」
元気な返事に郁は自分たちの頃を思い出して懐かしさを感じた。
「いくつなんだっけ?」
「18!」
「学生かー!わー懐かしい感じするなあ。学校通いながら行ってるんだよね、この辺?」
「えっと……」
「いっくん、それはナンパ」
「ええ!?」
つい色々聞き出してしまうと隣で見ていた涙がストップをかけてくれた。のだがその言い方はちょっと傷付く。
そうこうしていると後からもう一人やってきて「ナオ」と声を掛けて来る。金髪の彼も確か同じユニットの子だ。こっちに気付いて丁寧にお辞儀をしてくれる。
「優馬。俺ナンパされた」
「初対面で!?いや、初対面だから……?」
「わー誤解が!もう涙が変な事言うから!」
「メールアドレス聞いてれば完璧だったと思うよ、いっくん」
そうじゃなくて……と続けているとスタジオが空いたらしくて二人が呼ばれる。お辞儀をする二人に手を振って見送った後に涙が楽しそうにしていた。
「後輩、増えたね」
「うん。俺たちも頑張らないとだ!」
オレンジの瞳がキラキラ輝いていたのを思い出す。宝石のような、夜空に光る一等星のような強い輝き。よかった、と思う。
ありがとう。これからもよろしくね。