焼肉地獄変 四角く切り取られた空は鈍色に塗りこめられている。アナログ時計の指す二時という時間を見ても決して昼には見えない。伊作の健やかな皮膚は血色もよく、ぬくいシーツの海と混じり、白桃のように柔らかなマットレスに沈んでいる。不意に犬が唸るようなぐう、という音がどこからか聞こえて、雑渡はゆっくりと身体を起こした。包帯の隙間の赤銅色が、蛍光灯の光を鈍く反射する。
「おなか鳴いたね」
可愛らしい言葉選びとは正反対の、静寂に溶けてしまいそうな掠れた低い声だった。伊作はゆるゆると目を開けて空っぽの胃を体の上から押さえた。
「カップラーメンでも作ろうかな」
「いや、焼き肉に行こう」
「こんな時間に?」
「こんな時間だから、おいしいんだよ」
1947