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    やなか

    武士とか忍者モチーフに弱い。Twitter(@3menken152)などで夢小説を書いてます。

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    やなか

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    【IL夢】【オリ主】アイアンリーガーの夢小説です。時系列は36話直後くらい。「マグナム、極、夢主(名前固定)、GZ辺りが何らかのチームを相手に酒飲み比べ対決をするコンプラ意識が欠如した話」をコンセプトに書きました。地味に登場人物が多いです(20人くらい)

    ##アイアンリーガー
    ##IL夢
    ##スチームエキセント
    ##十スチ

    限りなき飲み比べ対決(♪BGM:あのファンファーレ)
    (♪ナレーション:あの声)ボーシップ号ではぐれリーガーを巡る旅を続けるシルバーキャッスルは、西部の町でアイアンボウラーのワットとアンプの姉妹と出会い、彼女たちの再出発に一役買う事に成功した。そしてその夜、シルバーキャッスルは二人から礼を兼ねた祝勝会に招かれたが、少年サポーターの面々がガラの悪いリーガー達に目を付けられ「店のクリスタルグラスを割った」と理不尽な言いがかりを受けてしまう。マグナムが交渉をしようと試みるも珍しく効果を発揮せず、事態は悪化の一途を辿り、挙句の果てには「酒飲み比べ対決」をする事になってしまったのであった!
    (♪BGM:あのタイトルコール)


    「ちょっとお前たち、この人たちに卑怯な事をするなら、私が許さないよ!」
     膠着状態にあるシルバーの面々を庇うようにワットが立ち上がった。どうやら彼らとは顔見知りの関係のようだ。その中の一人、まとめ役であるらしい男は、そんな彼女の言葉をまるで意に介さぬ様子で、意地の悪い笑みを浮かべた。
    「ワット、てめえ、まだオレ達の大将気取りか? 今の自分の立場を分かっているのか?」
     どうやら彼らは彼女がはぐれていた頃の仲間であるようだ。途端にワットは先ほどまでの勢いを失い黙りこくった。彼の台詞に思うところがあるのだ。悔しそうな表情を浮かべて口を噤む彼女の肩に、妹のアンプがそっと手を置いた。
    「姉さん、この人たちの言う事を真に受けちゃダメよ。……あなた達、恥ずかしくないの。こんな小さな子たちに言いがかりをつけて」
    「言いがかりじゃねえよ。こいつらが机にぶつかったせいで俺たちのグラスが割れちまったんだ。どうしてくれるんだよ」
     まとめ役の男は、スチームエキセントとGZの背後に隠れているヒロシ達に視線を走らせて声を荒げる。足元にしがみついていたマリコが涙をこらえている事に気が付いたエキセントは小声で「大丈夫だからね」と声を掛けながら頭を撫でた。
    「……その件については、保護者である俺たちが責任を持ってできる範囲の事はしよう。だから、この子たちを責めるのは止めてくれないか」
     マグナムエースが静かに提案を述べると、まとめ役は目を輝かせた。
    「ほう。……ならば、お前たちには今から提案するゲームをしてもらおうか」
    「ダメよ!」
    アンプが大きな声を上げる。
    「マグナムエース、彼らとまともに取り合ってはいけない! それが奴らの手口なのよ」
    「手口? それ、どういう意味ネ?」
    「人聞きの悪いことを言うなよアンプ。オレ達はいつだって“チャンス”を与えてやっているだろう。こいつらがそれを掴めればいいだけの話だ」
    「良いように言わないで、そんな事少しも考えていない癖に!」
    「おいアンプ、どういう事だよ。俺たちにも分かるように説明してくれ」
     マッハウインディの言葉に頷くと、アンプはシルバーキャッスルの面々に向き直り、青ざめた顔で説明を始めた。
    「この人たちはいつだってそうなのよ。……こうして言いがかりをつけて、相手をいたぶった挙句金品を巻き上げるという手口なの」
    「ええ? なんだってそんな真似を──」
    「おい、そいつらに妙な事を吹き込むなよ。俺から説明してやろう」
     まとめ役は周囲の取り巻き達を見回し、片手を振って合図を送った。取り巻き達は嫌な笑いを浮かべると店の方々に散り、何かを用意し始める。
    「何か、悪い予感がしてきたなあ」
     ブルアーマーがぼそりと呟き、キアイリュウケンが小首を傾げる。エキセントも相槌こそ打たなかったものの、胸騒ぎを感じていた。そうこうしている間に、取り巻き達は準備を進めている。長机が運び込まれたかと思うと、その上には大量の酒瓶が並べられてゆく。シルバーの面々が困惑している中、マグナムは何が始まろうとしているのか察しがついたらしく、まとめ役の方に向き直った。
    「……なるほど、君が言っていたゲームとは、飲み比べ対決か」
    「その通りだ。話が早くて助かるぜ、マグナムさんとやら」
     まとめ役の説明は以下の通りであった。互いのチームから五人の代表者を出す。五対五でひたすら酒を飲み続け、潰れた者が多かったチームが負ける。シルバーが勝ったらグラスの件は免除される。
    「そして負けた場合は、素直に弁償すればいい訳だな。……しかし生憎、今の我々には持ち合わせがない。何か代替えになる方法はないだろうか」
    「知らねえよ。質屋にでも行って何としてでも金を稼ぐんだな。売るもんがなけりゃ、身売りでもして変態どもの相手をするとか、方法は幾らでもある。……そこの一番小せえ白いのなんか、そっちの需要がありそうじゃねえか?」
    「え、私ですか?」
     急に話を振られてエキセントは素っ頓狂な声を上げる。下卑た笑みを浮かべながら、まとめ役は話を続ける。
    「色白な奴はそういう需要があるんだよ。何でも汚し甲斐があるかららしいぜ」
    「ええー……そんな、そんな理由だけで? 理解できないなあ……」
     退き気味に呟くと、エキセントは隣にいるGZに視線を走らせた。
    「……むしろ、おじさんの方が需要ありそうだから、危ないんじゃない?」
    「お前は何を言っているんだ」
     こんな時に妙な事を言い出すなと言わんばかりに、GZの怒りえくぼがヒクリと動く。
    「だって、マッチョって割と人気あるんだよ。私が自活してた時も、求人誌で兄貴系パブの記事が──」
    「真面目に解説している場合か! 今はお前と俺の需要よりも、勝負に勝つ事を考えるべきだろう!」
    「いった……」
     GZに頭を小突かれて、エキセントは小さく呻いた。
    「──ひとまず、代表者を決めよう」
    「おいマグナム! こんな無茶苦茶な条件をまともに聞いてやるのかよ!? 」
     眉間に皺を寄せて激昂するウインディを制するように片手を軽く上げてから、マグナムエースはシルバーキャッスルに語り掛けた。
    「ああ。そうでもしないと彼らは納得しないだろう。いつも通り正々堂々と受けて立てばいいさ」
    「でも、酒の飲み比べだぞ? スポーツとは訳が違う……」
    「みんな、ごめんよ。おれ達の所為で、こんな目に合わせて……」
     エキセントの背後に立っていたヒロシがぽろぽろと涙をこぼす。すっかりしょげているリーダー格の彼に釣られて、他の子ども達も今にも泣きだしそうだ。マグナムは子ども達と目線を合わせるためにしゃがみ込むと「大丈夫だ」と力強い声で言った。
    「ヒロシくんたちは何も気にしなくていい。君たちが悪くない事は、俺たち全員が知っているさ」
    「あいつらがワザと足を引っ掛けて転ばせたんでしょ? 私、信じるよ」
    「その通りネ! 悪いのはアイツらよ!」
    「ああ。それに、お主たちをよく見てやれていなかった某たちにも責任はある」
     口々に慰めの言葉を掛けられ、ヒロシはしゃくり上げつつもなんとか涙を止める事が出来た。マグナムはヒロシの頭をぽんぽんと叩いてから、ワットとアンプの顔を見上げた。
    「二人とも、子ども達を俺たちのオーナーの元へ連れて行ってくれないか。『バッファロー・ビル』というホテルで部屋を取っている。悪いがそこまで送ってやってくれ」
    「何を言ってるんだい、マグナム。私たちにも手伝わせてくれよ」
    「ありがとうワット。でも、気持ちだけ受け取っておこう。恐らく彼らは君たちが関わる事を拒否するだろう。これ以上刺激を与える事は避けたいんだ」
     ワットはまだなにか言いたそうな顔をしていたが、アンプに声を掛けられると「わかったよ」と素直に頷き、子ども達を連れ出していった。ヒロシ、ゲルス、ポットが彼女に守られるように酒場を脱出してゆく。
    「さあ、マリコちゃんもアンプに付いて行って」
    「エキセント、本当に大丈夫なの? あんなに沢山のお酒を飲むなんて……」
    「マリコちゃんは優しいなあ、私の体の心配をしてくれるだなんて」
     マリコの頭をもう一度撫でてやり、エキセントは笑顔を浮かべる。
    「私、お酒飲むの好きだからさ、平気だよ!」
    「でも……」
    「マリコ殿、エキセントの事なら心配はいらぬ。こやつは根っからのウワバミだからな」
     極十郎太の言葉に、マリコはきょとんとした。
    「十郎太、ウワバミってなあに?」
    「ウワバミとは大酒飲みの事を指す俗語だ。ヤマタノオロチという大蛇を倒すために、荒ぶる神であるスサノオノミコトがヤシオリの酒を用いたという、極東の国の神話を元に生まれた呼称で──」
    「ちょっと、小さな子に変な言葉教えないでよ!さっ、マリコちゃん、行っていいよ」
     マリコをアンプに託したエキセントは、ベズベズの姿を探した。彼はGZの背中にしがみついていた。
    「ほらベズベズ、行かないと」
    「オイラやだぞ、GZの傍にいるもん。心配なんだもん」
    「ベズベズ……」
     なんて優しい子なのだろう、とその場にいた誰もが心を温めた矢先、ベズベズは心底懸念していると言いたげな神妙な表情で言った。
    「だってGZ、“じゅよー”があるから危ないんだろう? エキセントが言ってたもん」
    「──あ、痛い!! ちょっと、いきなりなにすんのおじさん」
     頭部に無言の拳骨を食らい、エキセントは抗議の声を上げる。対するGZは眦を釣り上げてエキセントを𠮟りつけた。
    「お前の所為でベズベズが妙な事を覚えてしまったではないか!」
    「あーもー、その件は謝るからさ! 早くベズベズをアンプに渡さないと!」
    「オイラやだぞ。行かないぞ」
    「……ベズベズ、気持ちは嬉しいが心配はいらない。俺は大丈夫だ」
     エキセントに抱かれたベズベズの方に向き直ると、GZは先ほどエキセントに向けていたものとは一転した穏やかな表情になって彼に語り掛けた。
    「そうなのかぁ?」
    「ああ、だからホテルに戻れ。言う事を聞けたら、明日鬼ごっこに付き合ってやろう」
    「やったあ! 約束だぞ、GZ!!」
     GZの言葉にようやく納得したらしいベズベズは、素直にエキセントの腕からアンプの腕へと手渡された。アンプが二人を連れて酒場を出ていく姿を見送ると、マグナムは改めてメンバー一同へと向き直った。
    「皆にはすまないが、誰を出すかはもう決めている。十郎太、GZ、エキセント、そして俺だ」
    「……ちょっと待って、それじゃあ四人だよ」
    「リュウケンの言う通りヨ! ナンでミー達は入っていないの!?」
    「俺を入れてくれマグナム、あんな卑怯な奴ら、許しちゃおけねえぜ!」
    「なんでもなにも、ウインディとトップジョイ、お前たちはまだ未成年だろう。リュウケンもまだ酒が飲めないんだろう?」
    「マグナム、あの……何で私は入っていないんだ? 確かに私は、そんなにお酒が得意ではないけど……でも、少しくらいなら……」
     ブルに向かって首を横に振り、マグナムは言葉を続けた。
    「その気持ちだけありがたく受け取っておこう、ブル。得意でない者は無理をして飲むべきではない。ここは俺たち四人で何とかする」
    「Oh、No……! いくらなんでもそんなの無茶ネ!」
    「そうかもしれないな。でも、恐らく大丈夫だと思う」
    「なんでそんなに落ち着いてられるんだよ! 相手は五人だ、しかも自分たちからこんな勝負を仕掛けてくるって事は、奴らも相当自信があるって事だぞ」
    「ああ、だが俺たちにも勝算はある……」
    「うんうん、多分大丈夫だよウインディ」
     マグナムが深く頷き、エキセントがその後を継ぐように言った。
    「なんてったって私たち、近所の飲みホやってる店から大体出禁食らってるから」
    「ちょっと待ってくれ、理解が追い付かない」
    「いや、そのまんまの意味だよ? 全員三杯以上は飲みたいから飲み放題にするんだけど、毎回元を取るどころか軽々と“その上”を行ってしまうから、店の人に勘弁してくれって泣かれるんだ……」
    「ほとんどお前と十郎太の所為だろうが。お前は高そうなカクテルをガブ飲みするし、十郎太は日本酒ばかり選ぶからな」
    「それを言うならおじさんだってさ、注ぎに来るの面倒くさくなった店員さんに毎回一升瓶渡されて、セルフで焼酎飲まされてるじゃない!……まあ、一番ヤバいのはマグナムだけどね。何杯飲んでも顔色全く変わんないんだもの」
     やいやい言い合う大人たちを前に、うら若きリーガー達は唖然とした。彼らがたまに酒を飲みに出かけている事は知っていたが、流石に飲み方までは知る由もなかった。何はともあれ、「実績」があるのならばひとまず即負けはないだろうと、ウインディは少しだけ胸を撫でおろした。
    「それなら良いけどよ……でも、油断するなよ。相手はハナッから卑怯な手段を使ってくるような奴らだぜ」
    「ああ、そのつもりだ」
    「マグナム達、ミー達に内緒でそんな楽しそうな事してたのネ……」
     見学に回らされた者たちで唯一、羨ましそうな顔をしていたトップジョイはそう呟いた。
    「ああ、ミーも早くお酒が飲めるようになりたいヨ」
    「お酒は良いよ。大人だけに与えられた特権だもの。二十歳を越えたらおじさんの奢りで飲みに行こうね」
    「おい、人の財布を当てにして勝手な約束を付けるんじゃない」
    「……酒を讃える『天之美禄』という古の言葉もある。天、すなわち神が与えた贈り物と称されるほど、昔から重宝されてきたという事だ。同様に『百薬の長』という言葉もある。どちらも『漢書』という古代の書物に記されたものだ」
    「ふうん、そうなんだね」
     十郎太の語るうんちくに、リュウケンは感じ入ったように相槌を打った。
    「そんなに良いものなんだね、お酒って……」
    「良い、と手放しで言って良いかと問われると、悩ましいところだが……『徒然草』という書物には、『漢書』の言葉を受けてこう綴られている。『百薬の長とはいへど、 万の病は酒よりこそ起れ』……」
    「えっ、病って……病気の事だよね?」
    「左様」
     先ほどとは意味が全く異なる言葉を聞かされ、リュウケンは鳶色の目を瞬かせる。しばらくそうした後、彼の口から出た疑問は、至極もっともな内容であった。
    「……それじゃあやっぱり、飲まない方が良いんじゃないの?」
    「それも悩ましい質問だな」
     どこか遠い目をしながら、十郎太は苦笑いを浮かべた。
    「まあ──その辺りの機微は、いずれお主にも分かる時がこよう。飲まずには居られん夜というものが、誰しも人生に一度はあるものだ」


    ******


     さて、この飲み比べ対決が始まるやいなや、「これは女房を質に入れてでも是非とも拝まねばなるまい」とわらわらと駆け付けた野次馬たちによって、西部の町の場末の酒場は創業以来かつてないほどの来客でごった返していった。
     そうなってしまうのも無理はなかった。なんといっても今回の挑戦者は、昼間ボウリングの試合であのワットと戦っていたシルバーキャッスルという中央リーグのスポーツチームなのだ。しかも彼らは五対五の戦いに敢えて四人で挑んでおり、その上四人が四人とも「イケる口」で、机の上に並べられていた大量のビール瓶を、ミネラルウォーターでも飲むかのように次々と飲み干していくような恐るべき酒豪であった為に、先の展開が全く読めなくなったのである。
     かくして、常ならば毒牙に掛けられた哀れな者たちを、憐れみの眼差しでもって遠巻きに眺めるに留めているロクデナシの面々は、一人また一人と今宵の勝負に熱狂していたのであった。
    「あのマグナムって奴を見なよ、ペースが全く落ちてねえ」
    「いやあっちのオッサンもなかなかのもんだよ、量ならアイツが一番だ」
    「やるじゃねえか白いの! 良い飲みっぷりだ!」
    「いけサムライ野郎!! 今夜はお前に賭けてるんだ!!」
    などと昼間の試合顔負けの声援の中、四人は自分たちに割り当てられた瓶を順調に消化していった。
    「──よし、これも空けたぞ」
    「流石マグナム! これで二十五本……んん、二十六本だっけ……? ま、どっちでもいいか!」
    「ちゃんと数えろ、二十八本だ。お前、大丈夫なのか」
    「だいーじょーぶっ、まだまだイケるって! ……そういうおじさんこそ大丈夫なわけ? 炭酸のお酒、いつも飲めないじゃん」
    「飲めないのではない、飲まないだけだ」
    「そうだった! ごめんね~」
     ケラケラと笑うスチームエキセントの顔はやや赤みを帯びている。しかし本人が言う通り余裕があるのだろう。心地よく酔いに身を任せているといった面持ちで、その濃紺の瞳は目の前の輩どもをまっすぐに見つめている。彼らに酒飲み勝負を仕掛けてきた五人の男たちのうち、既に二人は床に転がっていた。
    「ふふふ、口ほどにもなかったって訳だ……さてさて、私ももう一本片しちゃおうかな。十郎太、その瓶ちょうだい」
    「遅かったな。これはもう某が空けている」
    「えー、じゃあこっち……なんだ、これも空か。これも空、こっちも空っぽ、あれれ……」
     エキセントは手直にある瓶を確認しながら残念そうな声を上げる。
    「なぁんだ、みんな飲んじゃったの。……ねえちょっとアンタ、私たちもう飲むものなくなっちゃったんだけど、これって勝ちって事で良いの? そっちはリタイアも出ているし」
    「うるせえ! そ、その程度でいい気になってるんじゃねえぞ」
    「うわあ、悪役のテンプレって感じのセリフだ……」
    「意地の悪いことを言ってやるなエキセント。あやつも言い出した手前、引っ込みがつかんのだろう」
     酔いと怒りで顔を真っ赤にしたまとめ役の男は「勝負はこれからだぞ!」とこれまた悪役にありがちな台詞を口角泡を飛ばす勢いでがなりたてた。──これだけ記すと情けなく聞こえるが、彼も自分たちに割り当てられた分の酒瓶は干したらしい。
    「酒はまだまだあるぜ。こうなったらお前たちにはトコトン付き合ってもらうからな!」
     空き瓶が転がる卓上は、まとめ役の取り巻き達によって手早く清められていった。そうして次に各々の前に置かれたのは、大ジョッキも裸足で逃げ出しそうな巨大さを誇るリッタージョッキであった。
    「──わあ、凄い。これ、メガジョッキって奴だよね……」
    「なんて下品な飲み方だ。勝負でなければやってられんな」
    「しかしこれはチャンスかもしれない。相手もなりふり構っていられなくなったという証だろう」
     マグナムは冷静に状況を分析し始めた。ちなみに、彼は四人の中で唯一顔色が変わっていない。
    「相手の一人も飲むペースが落ちている……この調子でいけば勝てる可能性は高いだろう」
    「だが油断は禁物だ。ここに至るまで某たちもそれなりの酒量は摂取している。……エキセント、調子に乗って酒に飲まれぬようにな」
    「え~? その言葉、そっくりそのまま返していい? 十郎太もお顔がいつもより赤いよ~」
     まあそれはさておき、とりあえずシルバーキャッスルに乾杯、と音頭を取ったエキセントに釣られて、四人分のジョッキがカチンと小気味よく音を立てる。試合続行の合図に野次馬は歓声と口笛で盛り上がり、見学に徹していたブルと若人たちは感嘆とも呆れともつかない吐息をそれぞれ吐き出していた。
    「あんなに飲んで大丈夫かなあ。……ああぁ、私は見ているだけで悪酔いしてしまいそうだよ」
    「いや、大丈夫だから飲んでんだろ。こりゃあ出禁になるのも納得だな」
    「やっぱり美味しいのかな、お酒って」
    「そんなの当然ね! ハッピーになれる味に決まってるヨ! みんな、頑張ってネー!」
     トップジョイの無邪気な声援を背に受けて、四人は黙々とお化けのようなサイズのジョッキと格闘を続ける。最初にGZが飲み干し、エキセントがその後に続いた。
    「うーん、延々ビールってのもつまらないなあと思ってたけど、問題なかったね。ここに枝豆と唐揚げがあれば最高なんだろうなあ……」
    「問題がないどころか好都合だ。あれこれ飲まされて悪酔いをせずに済むからな」
    「確かにそうかも。ビールってのも良かったよね。お酒の中じゃ度数は低い方だから──あれ?」
     エキセントはGZとは反対側の隣に座っている十郎太に視線を向けた。彼もジョッキは空けたようだが、何やら様子がおかしいのだ。いつものような覇気がなく、目も据わっている。
    「じゅ、十郎太、どうしたの……?」
    「……う」
     短い呻き声を上げると、十郎太の頭はぐらりと前のめりにかしいで、そのまま机に突っ伏してしまった。エキセントはしばしの間唖然としていたが、シルバー初のリタイアに盛り上がる周囲の声で我に返ると、慌てて十郎太の背を揺さぶり始めた。
    「ち、ちょっと嘘でしょ十郎太!? そんな、いつも飲んでる日本酒の方が全然強いじゃない!」
    「──待て、エキセント。これはただのビールではないかもしれん」
     GZは二杯目の匂いを嗅ぐと、眉間に皺を寄せた。
    「俺とした事が、こんな混ぜ物に気が付けなかったとは……」
    「え、混ぜ物?」
    「──なるほどな」
     最後にジョッキを空けたマグナムは、確信を得たと言わんばかりに頷いた。
    「二人とも気を付けろ。このビールにはウイスキーが混ざっている」
    「え……それってつまり、ボイラー・メーカーじゃん!?」
     エキセントは自身の前に置かれた二杯目を前に震え上がった。いくらカクテルが好きとはいえ、既にしこたま飲んだ後に出される一杯としては、これはあまりにも不適切だ。
    「酷いっ、十郎太はちゃんぽんに慣れていないのに!」
    「慣れていたとしても、こんな爆弾酒を延々と飲まされていたら流石に分が悪いぞ」
     怯むエキセントとGZには何も答えず、マグナムエースは二杯目に口を付けつつ、目の前の相手チームの様子を冷静に観察し始めた。まとめ役の右に座っている、飲むペースが落ちてきていた男が、顔をゆでだこの様にしてそろそろ限界に達しようとしている。もう一人の男も、ジョッキを口に運ぶ頻度が下がっている。彼もそろそろだろう。
     分析を終えたマグナムは二杯目を干し、三杯目を持ってくるよう、配膳役となっている相手の取り巻き達に告げた。混入されたウイスキーの影響で、体中が燃えるように熱くなってゆく。まさしく「俺のオイルが沸騰するぜ」である。グラウンドで強敵を迎え打つ時に酷似している心の高ぶりを感じながら、マグナムエースはGZ達に語り掛けた。
    「落ち着け二人とも、勝機はまだある。冷静に、正々堂々と目の前の酒と向き合うんだ」
    「せ、正々堂々とねえ……まあ、ラフプレーを受けていると思えばいつもと同じか」
    「ふん、この感じ、ソルジャー時代を思い出すな……」
     鶴の一声ならぬマグナムの一声に二人は頷き合うと、改めて二杯目と戦い始めた。
    「──なんかいい雰囲気になっているけどよ、酒飲み対決だって思った瞬間かっこよさが半減するよな」
    「ウインディ、それを言っちゃあおしまいだよ……」
     冷静に評するウインディを窘めつつも、内心同じ事を思っていたブルアーマーは深い溜め息を付いた。ああ、この惨状をオーナーや監督たちにどう説明すればいいのだろうか。メッケル工場長には間違いなくお叱りを受けてしまうだろう。素面の大人が自分だけになった今、彼の懸念事項は膨れ上がっていくばかりである。
     一方、未だ酒に対する憧れが捨てられないトップジョイは引き続きマグナム達を熱心に応援していた。
    「みんなー! ミー達の分まで頑張るネー!」
    「……ねえ、トップジョイ」
    「何ねィ リュウケン、ミーは今、マグナム達にエールを送っているから忙しいのヨ?」
    「ごめん……でも、少し気になる事があって」
    「気になる事?」
     リュウケンは頷くと、マグナム達の向かい側に座っているまとめ役の男の方を見つめる。
    「あの人、ジョッキになってから、飲むペースが速くなったような気がするんだ」
    「ええ?」
     トップジョイは目を丸くしてリュウケンの方へ向き直った。
    「ウーン……好きなお酒なんじゃないの? ミーも大好物のものなら、どんなにお腹がいっぱいでもペロリといけちゃうヨ」
     リュウケンはううんと唸ると、片手を口元に持ってゆく。どうやらトップジョイの見解にいまいち納得していないらしい。
    「本当にそれだけかなあ……」
    「もう、あっちばっかり見てないでリュウケンも応援するネ!」
    「うーん……」
     リュウケンの鳶色の目は、依然としてまとめ役の方を向いている。やがて何かを決心したらしく、彼はもう一度トップジョイに声を掛けた──


    ******


    「……どうしたエキセント ペースが落ちているじゃないか。この程度でくたばる様では戦場では到底生き残れんぞ。いいか俺が貴様ぐらいの年の頃にはな──」
    「ヒック、うるさいなあ。そういうのパワハラって言うんだよおじさんヒック、ヒックヒック」
    「わははシャックリか! そのザマじゃあいくら生意気な口を効いても可愛らしくて様にならんなあ」
    「う、うざ~……ヒック、GZって酔っぱらうと絡み酒になるんだねヒック、うう、どうしよう、止まらないや……ヒック、ヒック」
    「エキセント、堪えてくれ」
    「が、がんばります、ヒック」
    「おいおいどうしたシルバーキャッスル!」
     まとめ役は空にした五杯目のジョッキを、見せつけるように音を立てて卓上へと置いた。
    「オレはまだまだイケるぜ、そろそろ降参した方が良いんじゃないか?」
    「ヒック……お、おかしいよ~、瓶ビールの時よりスピードが上がってるもん……ぎゃんっ」
     GZの腕が勢いよく肩に置かれ、エキセントは悲鳴を上げた。見た目の割に頑丈というのが自分の売りとはいえ、元ソルジャーの体を支えるのは大仕事だ。
    「お前酒が足りてないんじゃないか。どれどれ俺が注いでやろう」
    「わ、わー!! ちょっとGZ待って、それピッチャーじゃなくてアンタのジョッキ! 飲みさしを傾けてこないで!!」
    「なんだと俺の酒が飲めないのか!?」
    「だ、だめだこのおじさん、早く何とかしないと……ヒック」
    「GZ、落ち着くまで休んだ方が良いんじゃないか」
    「何を言っているんだマグナム俺はまだイケる」
    「──某もまだイケるぞ」
    「えっ」
     GZの腕から脱出したエキセントは、声のした背後を振り返った。なんと先ほどまで机に突っ伏して爆睡していた筈の十郎太が起き上がっていたのである。いつの間にやら覚醒したようだ。顔色も元に戻っている。
     マグナムと二人で戦い続ける事に不安を抱いていたエキセントは、心底ホッとしながらGZの方へ向き直ると、彼の手からさり気なくジョッキを抜き取った。
    「よ、よかったー! ほらGZ、十郎太が起きてくれたならヒック何とかなるよ、だからちょっと休んでてよ──」
    「エキセント」
    「ヒック、どうしたの十郎太?」
    「……閨で他の男の名を出すのは野暮というものだぞ」
    「ちょっとまって今なんつった──う、わっ!?」
     もう一度十郎太の方を向いたその刹那、エキセントは体をぐいと引き寄せられたかと思うと、そのまま机の上に押し倒されていた。突然の事に己の身に何が起こったかも把握しきれず、エキセントが硬直しているのを良い事に、十郎太は自らものしのしと卓上へ乗り上げるとその身体の上へと覆い被さってゆく。
    「あ、シャックリ止まった……じゃなくて、じゅ、十郎太さん? これは、一体何をするつもりなんですかね……」
    「何って、ナニに決まっているだろう、同衾、情交、まぐわい、ご休憩、交尾、エッチ、セッ──」
    「待て待て待てそれ以上はマズいってば!!」
     十郎太の顔をよく見ると、顔色こそいつもの通りではあったが目が据わったままである。復活どころか悪酔いの様相を呈している彼を前に焦っていると、エキセントは自身の体に違和感を覚えた。
    「──ってちょっと、どこ触ってるの!?」
     あろうことか、十郎太の片手がエキセントの下腹部を撫で回している。瞬間的に酔いが吹き飛んだエキセントは、慌てて彼の手首を掴んで押しのけようとしたが、恐ろしい事にビクともしない。流石毎日素振りと鍛錬を欠かさないだけあるといったところだろうか。それにしても、剣道リーガーの腕力をこんな形で体感する事になろうとは露ほども思わなかった。
     かくしてエキセントのささやかな抵抗は徒労に終わった。更に運の悪い事に、抵抗するなとでも言うように、逆に十郎太に自分の手首をひとまとめに掴まれるとバンザイの格好にされて、ますます逃げ出しにくい状況になってゆく。酔いが醒めたを通り越して青ざめてきたエキセントは、これ以上十郎太を刺激しないようにと恐る恐る言葉を選んで語り掛ける。
    「あのさ十郎太」
    「なんだ」
    「えっと、こんなに人がいっぱいなところでやるのは、マナー的にいかがなものかと──」
    「なあに……見せつけてやればいい」
     あ、こりゃ全然ダメだ、とエキセントがうなだれると同時に、周囲の野次馬たちからはピンク色の雄たけびが上がる。
    「おっ何だ、次は白黒生板ショーか?」
    「やっちまえサムライ、伝家の宝刀を見せてやれ!」
    「ファイト一発!!」
    「このむっつり助兵衛!!」
     最後の声はもはや罵倒ではないのかというツッコミはさておき、これに参ったのは仲間たちを見守っていたシルバーキャッスルの面々である。すわスチームエキセントの貞操の危機、と駆け付けようとしたブルとウインディは興奮している人混みを掻き分けるのに精いっぱいになっている。トップジョイとリュウケンに至っては姿が見えない。
     ブル達の助けが望めない事を悟ったエキセントは、マグナムに助けの視線を送った。ところがこちらでもトラブルが発生していた。すっかり酔っぱらってしまったGZに絡まれたらしく、行く手を阻まれているのである。
     あああどうしよう、どうしよう、と焦るエキセントの頬に十郎太の手が添えられる。不幸中の幸いで、それが存外優しい手つきだったお陰で我に返る事ができたエキセントは、十郎太の顔が自身のそれの間近に迫っている事に気が付いた。まさかとは思うが、彼は私の唇を奪おうとしているのではなかろうか。いやそんな馬鹿な、と否定しようとする間もなく、十郎太の顔面は徐々にこちらに近付いてくる。どうやら彼は“その気”らしい。悔しいかな、悪酔いをしていてもなお、彼の容貌は端正であった。
     白状すると、エキセントは密かに彼に思いを寄せている。それ故にこのシチュエーション自体は、常ならば願ってもない展開である。十郎太が酒に酔って理性をぶっ飛ばしている状態でさえなければどれほど良かった事だろう、と顔を背けようとすると、許さぬと言わんばかりに彼のもう片方の手が、頬に添えられて再び顔をこちらへ向けようとする。腕は自由になったものの、今度は両の頬を熱の籠った掌で包まれるように固定されてしまい、いよいよエキセントの視線は逃げ場を失った。
    「エキセント。聞け」
    「は、はい」
    「某は、お主の事が──」
     周囲のガヤが喧しい所為で、十郎太の声は最後まで聞こえなかった。しかし、彼が何だか重要な事を彼が言ったような気がして、エキセントは自身が置かれている危機的状況も忘れて彼に問いかけた。
    「ち、ちょっと待って聞こえなかった。もう一回言ってよ」
    「……」
     答えはなかった。代わりに、流れるような切れ長の目がじいと此方を見つめながらどんどん近付いてくる。この目に見つめられたら弱いのは、初めて出会った時から変わらない。あの月夜の晩に「力を貸してほしい」と言った時の顔、家事手伝いをするつもりでシルバーキャッスルを訪ねてきた自分に「お前ならできる」と半ば強引にサッカーのボールを蹴らせた時と同じ顔だ。
     ああ、今回もなすすべなく彼のペースに振り回されてしまうのか。この場末の酒場で、惚れた男と酒臭い初キッスを、三百六十度に渡ってロクデナシ達に見守られながら行わなくてはならないのか──。



     ──待て、それは嫌だ。惚れているとはいえ、いくらなんでも最悪すぎる。
    瞬間、エキセントは拳にありったけの力を篭め──元々、身の丈ほどの盾を自在に振り回せるだけの腕力はあるのだ──迫りくる十郎太の顔に、まるでバレーのサーブをするかのように渾身の“一発”を叩きこんだのである。


    ******


    「ひっく、ひっく」
    「よしよしエキセント、もう大丈夫だ」
     しゃくり上げるエキセントの頭を撫でてから、ブルアーマーは昏倒した十郎太を脇に抱えて退場していった。ウインディは溜め息を付きながら、あの騒ぎの間に潰れてしまったGZの介抱をしている。
     ぼろぼろと涙をこぼすエキセントに、流石のマグナムエースも掛ける言葉が見つからなかった。とりあえず先のブルに倣って頭を撫でてやると、エキセントは彼に向って詫び始めた。
    「ご、ごめんなさいマグナム……」
    「お前が謝る事はない。俺の方こそ助けてやれずすまなかった。怖い思いをさせて──」
    「どうしよう……うちの四番バッターを殺しちゃった……」
    「いやそっちかよ」
     思わずウインディがツッコミの声を上げる。同様の事を思ったかどうかは不明だが、マグナムは「もうすぐワールドツアーなのに」とすっかりしょげかえっているエキセントの頭をもう一度撫でてやりながら、引き続き慰めの言葉を掛けてやった。
    「大丈夫だ、気にするな」
    「ううう……」
    「そんな事より目の前の勝負に集中だ」
    「そ、そういえばこの話って飲み比べ対決だったよね……」
     涙を拭き終えたエキセントは、自分の前に置かれたリッタージョッキを見下ろした。並々と注がれた酒を見つめていると、十郎太の所為で醒めたと思っていた酔いが次第に戻ってきた。容量的な問題も迫っている。この一杯が限界かもしれない。
    「そろそろリタイアか、白いの」
     エキセントの表情で察したらしいまとめ役がニヤニヤと薄笑いを浮かべて挑発をしてくる。
    「サムライとの濡れ場、なかなか悪くなかったぜ。いっそすっぱり諦めて、二人してそっちの道で稼いだ方が良いんじゃねえか」
     その下品な言いぐさにムッと顔をしかめると、エキセントはジョッキを口に運んだ。ウイスキーの量を増やされたらしく、飲み下した瞬間に体中が火のように熱くなった。
    「ま、負けられない……十郎太の花の操が掛かってる……あとついでにGZおじさんの純潔も……うぐぐ」
    「エキセント、奴の口車に乗ってはいけない。無理をするな」
     そう窘めるマグナムの顔も遂に赤くなっている。根性で半分ほど飲んだところで、エキセントは大きく息を付いた。
    「マグナムだって無理してるじゃん。ここで私まで折れたら、ほんとにまずいことになっちゃうよ」
     まだ何か言いたそうなマグナムを遮るように、エキセントが残りの酒を空けようと口を付けようとした、その時であった。背後からニュッと伸びてきた“第三者”の腕が、エキセントの手からジョッキをかすめ取ったのである。
    「──交代だよ、エキセント。後は僕に任せて」
    「えっ……」
     ジョッキを取り上げた相手を見るなり、エキセントは驚きの声を上げた。
    「リュ、リュウケン……!?」
     名前を呼ばれたリーガーは力強く頷くと、エキセントとマグナムの間に座り、真っ直ぐに相手チーム(ちなみに、先ほどの騒動の中でさり気なく一人が脱落したので、残っているのはリーダー格のまとめ役を含めて二名である)の方を見つめた。予期せぬ展開に、マグナム達は元より、まとめ役の男も驚きを隠せない。
    「お、おい、そんなの反則だぞ」
    「でも、この勝負は元々五人でやるものなんでしょ。僕が五人目なら問題ないよね」
    「そういう事を言ってるんじゃ──」
     まとめ役が反論しようとする前に、酒場中が今宵一番の声援に包まれた。いいぞいいぞ、試合続行だ、と沸き立つオーディエンスの勢いに男が押されてしまっている内に、リュウケンは手にしたジョッキに口を付けた。みるみるうちに飲み干されてゆくボイラー・メーカーを見て焦ったのはエキセントであった。
    「リュウケン、ダメだよ! これが初めてのお酒なんでしょ? いきなりそんなの飲んだら悪酔いしちゃうよ!」
    「……平気だよ。ちょっと苦いけど、まだ大丈夫」
    「え、ええ……マジで……?」
     もしかしてこの子、意外とイケる口なのでは、とエキセントが狼狽えている間に、リュウケンの目の前にはリッタージョッキが置かれてゆく。ところが今回は、件の取り巻き達の手によってではなく、トップジョイが運んできたという点がいつもと違っていた。
    「ファイトね、リュウケン! ミーはリュウケンが勝つと信じてるヨ」
    「ありがとうトップジョイ」
    「おい、何でそいつが持ってきてるんだ。俺の部下たちはどうしたんだ?」
    「えー? ミーに言われてもそんな事ワカリマセンよ。でも安心してクダサイ、ユー達の分も持ってきたよ」
     へらへらと笑うと、トップジョイはまとめ役の前にもリッタージョッキを置いた。もう一人の男の前にも置いてやったが、彼は既にテーブルに突っ伏していびきをかいている。
    「さあ、勝負スタートね!」
     トップジョイの一声に、野次馬たちが声を上げる。まずリュウケンが先にジョッキを傾け始めた。エキセントが止める声も聞かず、リュウケンはするすると黄金色の液体を飲み進めていく。
     まとめ役の男の方はというと、未だ杯に口を付けようとしなかった。そわそわとしていてどこか落ち着きがない。目敏く異変に気が付いたトップジョイは、優しく彼の肩を叩いた。
    「Oh、どうしました?」
     しかし反応がない。だんだん顔が青くなってゆく彼を見下ろし、トップジョイはにっこりと微笑んだ。
    「もしかして降参デスか? ミー達が勝ちって事で良いのネ?」
    「……チクショウッ」
     ようやく意を決したらしく、男はジョッキの取手を掴むと、おそるおそると言った様子で口元へ持ってゆく。ところが一口、二口、と嚥下してからすぐに震え始め、
    「ウ……ウゥッ」
     呻き声を上げて男は真後ろへ倒れていった。男が地面へ転がる鈍い音、リッタージョッキが割れる音が二重奏になって酒場に響き渡る。「あらら、勿体ないねィ」と苦笑しながらトップジョイがマグナム達の元へ戻るのとは入れ違いに、取り巻き達が冷や汗をかきながら男の元へ駆け寄っていった。
     先ほどまで余裕綽々だったまとめ役の突然のリタイアに、マグナム達はおろか、オーディエンス達もポカンとしている。様子が違ったのはリュウケンとトップジョイの二人であった。
    「リュウケンの言う通り、キッチンの様子を見に行って正解だったヨ」
    「キッチンだって? ……一体どういうことだ?」
    「ミー達、さっきの大騒ぎの中、お店のキッチンをスパイしてきたのですよ。リュウケンがどうしても気になるって言うから……」
     マグナムの問いかけにトップジョイが説明をし始める。一方リュウケンは、リッタージョッキを飲み干そうとしていた。ぷはあと吐息を付いた彼に、エキセントは観客から奪い取ってきた水を差しだした。
    「もう、何でそんな無茶をするの」
    「平気だよ。エキセントの方こそ、お水飲んだ方が良いよ」
    「何言ってるの、一気飲みさせたなんてルリーオーナーに知られたら……」
    「違うんだ。ほんとに平気なんだよ」
     水の入ったグラスごとエキセントの手を握りながら、リュウケンはにっこりと笑った。
    「だってこれ、ジュースだもの」
    「……はああ!?」
     エキセントはリュウケンの干したジョッキに残っていた雫をひと舐めしてみた。確かにアルコール特有の苦みが感じられず、代わりにほんのりと林檎の味がする。
    「ジョッキになってから、あの人はずっとジュースを飲んでいたんだよ。トップジョイとキッチンを覗いて気が付いたんだ。お酒を運んでいたあの人の子分はグルだったんだよ」
    「な、なるほど……だからあんなにペースが速かったんだ」
    「子分の人を捕まえて、皆に教えてあげようとしたんだけど、失敗して逃げられちゃったんだ。そうしたらトップジョイが、『いい方法がある』って言って……」
    「ジョッキを入れ替えてみたのネ! なかなかグッドアイデアでしょう?」
     得意満面なトップジョイとは正反対に、リュウケンはほんの少し申し訳なさそうな顔だ。
    「……あの人には、悪い事しちゃったかな」
    「そんな事ないネ! マグナム達はちゃんと勝負したのに、あっちはズルをしていたのだから……これは自業自得っていうやつヨ」
     珍しく神妙な顔をして四字熟語を口にするトップジョイに、マグナムとエキセントは思わず苦笑する。そして彼らのやり取りを見て事態を把握した観客の面々も、トップジョイへの同意とマグナム達への称賛の言葉を次々と送り始めた。
    「良いぞー、シルバーキャッスル!」
    「飲み比べでも正々堂々を貫くとは、やるじゃねえか!!」
    「今夜は楽しかったぜ」
     どこからともなく手を叩く音が聞こえ始める。拍手は次第に大きくなり、場末の酒場はまるでスタジアムのような歓声に包まれていった──。


    ******


    「──って事がありましたね~。こんな感じで良いのかな、すべらない話って。どう、アーム?」
    「いや百点満点だぜ」
    「それならよかった……あ、スピリッツさん、そろそろグラス空くんじゃないですか。次何飲みます?」
    「気にするなエキセント、今夜は無礼講だとギロチが言っていたではないか」
    「あははは、そうでしたねえ」
     ありとあらゆる意味で波瀾万丈だったワールドツアーから約一か月後の事。ダークスポーツ財団へ戻ったゴールドアームとゴールドマスクはキングスへ、ゴールドフットもプリンスへの再起復活が正式に決まり、更にはファイターアローも古巣のホッケーチームであるダークエンペラーへの復帰が決定する運びとなった。今宵はギロチの好意により、祝いも兼ねた内輪のパーティーが開かれていた。
     来賓として招かれたシルバーキャッスルの面々は、口々に祝いの言葉を述べた後、やれ「タダ酒だ」「突撃!隣のダーク飯」「待てよ、無礼講ならギロチにちょっかいをだしてもいいんじゃね?」などと言いながらそれぞれの用事を果たすべく速やかに散っていった。
     そしてスチームエキセントはというと、ニコニコしながらのんびりと酒と料理を楽しみ、会場で顔見知り達と出会っては談笑を楽しんでいたのだが、途中でゴールドアームに掴まってしまい、会場に設置されていたバーカウンターへと引き摺られていった。欲を言えばもう少し会場を散策したかったが、今宵の主役の一人は彼であるからして、やれやれ仕方がない、奴とは元々腐れ縁なのだから付き合ってやるかと諦めて席に着く事にし、そうして二人で飲んでいるところに「なんだゴールドアームこんな所で飲んでいたのか」「ああスチームエキセントもいたのか いつも弟が世話になっているな」となど言いながらファイター兄弟が登場したので、結果四人で飲む事となったのである。
     「おめでとうございます」を言い終えれば後はもう雑談となってしまうのが酒宴の定め、ほろ酔いのアームが「よし、すべらない話でもしようぜ」とお前この面子でよくそんな事言えたなと指摘したくなるような事を言い出した上に「じゃあトップバッターはエキセントな」などとほざくので、いくら今宵の主役と言えどもやっていい事と悪い事があるぞと憤慨したが、ファイタースピリッツもファイターアローも「面白そうだな」などと乗り気になっている。そこでようやくエキセントは腹を括った。こうなったら自分史上最高のすべらない話、あの西部の町の夜に遭遇した珍事件を披露してやろうじゃあないか。
     自分で振り返っても未だにこのエピソードを越えるヘンテコな体験はそうそうないので大丈夫だろうと思いながら語ってみると、予想以上に反応は良かった。特に十郎太が悪酔いする辺りでは、彼をライバルと認めているスピリッツに大ウケだった。本人の及ばぬところで痴態を暴露されてしまった十郎太には申し訳ないが、あのスピリッツから笑いを取れた事にエキセントは達成感を覚える。
    「そういえば、お前は昔っから酒にはめっぽう強かったよなあ」
    「そりゃあ、その節はアームに随分と鍛えてもらいましたから……」
    「ほう、それはどういう意味なんだ?」
     興味をそそられたらしく、ファイターアローがグラスを傾けようとしていた手を止める。これはスピリッツにも言える事ではあるが、弟のマグナムと同様にアローもまた、酒を飲み進めても顔色がなかなか変わらないタイプであるようだ。
    「それはですねえアローさん、その時のアームったら酷かったんですよ。バーに連れて行ってくれたと思ったらレディキラーカクテルばかり私に飲まそうとして」
    「おいおい、俺を悪者扱いするのはよせよ」
     ゴールドアームは両手を上げ、苦笑しつつ抗議する。
    「そのカクテルを全部飲み干してもケロッとしていたのはどこのどいつだよ。しかもコイツ、何て言ったと思う? 『どれも飲みやすくて美味しいね。もっかいおかわり!』だとよ」
    「なーに被害者面してるの、バー初心者にいきなりロングアイランドアイスティーを飲ませようとする悪い男の癖に~。ねっ、どう思いますスピリッツさん?」
    「それは……ゴールドアームが悪いな。下心が丸見えだ」
     スピリッツはまたしても可笑しくて堪らないといった風に口元を抑えている。一方アローの方は、聞き慣れぬ酒の名の方に興味を持ったらしく「ロングアイランドアイスティーとはなんだ」とエキセントに聞いている。
    「滅茶苦茶度数が高いカクテルなんですけど凄いんですよ~、お酒しか入ってないのに何故か紅茶の味がするんです。美味しいですよ」
    「ふうん、興味深いな。──すまん、ロングアイランドアイスティーを頼む。お前もどうだエキセント」
    「あ、是非是非。お付き合いさせてください」
     嬉々としてアローに便乗しようとするエキセントの姿に、ゴールドアームは肩を竦め、スピリッツは口角を上げた。そんな二人に、気の利くバーテンダーは「お二人も何か召し上がりますか?」と問いかける。断る理由は特に見つからなかった。どうやら愉快な酒宴はまだまだ続きそうだ。


    ******


     ──と、ここで終えれば良い話だったかもしれない。
     しかし、この話の語り部こと筆者はそれを良しとはしない。実はスチームエキセントがスピリッツ達に語っていなかった後日談があるのだ。それを読者諸君には明かそうと思う。

     西部の町での飲み比べの翌朝、勝利を収めたシルバーキャッスルの前に立ちはだかったのは、メッケル工場長の怒声と天地がひっくり返りそうな程に酷い二日酔いであった。(ちなみに監督からは「ま、そういう夜もあるな」という苦笑を頂いた。)
    最早立つ事ができず、各々のベッドの中で唸っている四人に容赦なく「バカモン!!」と雷を落とすと、メッケルは説教を始めた。
    「そりゃあワシだって酒は好きだが、一晩でこんな飲み方をするとは呆れて言葉もでないわい! はぐれリーガーの問題は片付いておらんし、ワールドツアーも控えているというのにお前たちときたら……」
    「だ、だってアイツらがヒロシくん達に酷い事を言うから……それに、これ以上シルバーに借金を増やすわけにはいかないと思ったんですよう、あ、イテテテテテ……」
     反論は許さぬと言わんばかりの頭痛に襲われて、エキセントは再び毛布を被る。ちなみに、隣のベッドに寝ている十郎太とは、朝から一言も口を利いていない。
    「余計な気を回してる暇があったらワシらに連絡をよこさんかい。第三者が入れば案外丸く収まったかもしれんぞ」
    「すみません工場長、それに関しては俺の判断ミスです」
     部屋の一番隅にある布団の山からマグナムの声が聞こえてくる。マグナムも二日酔いになる時があるんだなあ、と少しだけ感心しながら、エキセントは向かいのベッドに目をやり、ぐったりしているGZの上に馬乗りになっているベズベズに声を掛けた。
    「ねえベズベズ、もうそれくらいにしてあげたら……?」
    「GZ、オイラと約束したじゃないかあ、鬼ごっこするんだろう?」
     エキセントを意に介さず、ベズベズは容赦なくGZを揺さ振っている。週末のお寝坊なお父さんと構ってほしい子どもを思わせる光景は、普段ならば心和むものであるのだが、今のGZの体調を知った上で見ていると「ご愁傷様」と手を合わせたくなってしまう。
    「ベ、ベズベズ……」
     猛攻に耐え切れなくなったらしいGZは、ベズベズを捕まえるとそっとベッドの下へと降ろした。
    「すまん、今日は勘弁してくれ……」
    「そんなあ~! オイラ、ちゃんと約束守って言う事聞いたじゃないかあ」
    「うう……返す言葉もない……」
     元ソルジャー部隊の小隊長とは思えない情けない声に、エキセントは溜め息を付き、自分の吐息に混ざるアルコールの匂いに思わず顔をしかめた。もう当分酒は匂いも嗅ぎたくない。口をゆすいでこようかと思い切って体を起こすと、メッケルが「ほれ」と器を差し出してきた。なにやらどろりとした緑色の液体で満たされている。
    「なんですか、これ」
    「二日酔いに聞く薬じゃ。多少はマシになるぞ」
    「ありがとうございます……でも、すっごい苦そうですね」
    「それくらい我慢せい。良薬は口に苦しというだろう」
    「シジミ汁とかないんですか」
    「贅沢言うなバカチンが。西部の町にシジミなんぞあるわけなかろう」
    「ははは、ですよねぇ~……」
     諦めて啜り始めると、抽出し過ぎて渋くなった緑茶のような苦みが、エキセントの口いっぱいに広がった。怯みながらも少しずつ飲み下していると、隣のベッドから身じろぎする気配がする。視線をやると、十郎太がメッケルが枕元に置いていった器を手に取り、口を付けているところだった。
    「ねえ、なんか私に言う事ないわけ?」
    「……」
     たっぷり十秒ほど黙った後、十郎太は小さな声で「すまん」と詫びの言葉を述べた。昨晩の気まずさが残っているのか、こちらに顔を向けようとしない。
    「酔って前後不覚になっていたとはいえ、某のしでかした事は間違いなくやっていい事ではなかった」
    「……うん、まあ、そうだけど」
     内心、しらを切られると思っていたので、素直に謝られてしまっては何も言い返せない。
     それ以前にエキセントが気になっていたのは、ガヤの所為で聞こえなくなってしまった十郎太の台詞の続きであった。
     はたして彼は何と言っていたのだろう。……自惚れる事を許されるのであるならば、あの後入る言葉は一つしかない、とエキセントは考えていた。そもそも十郎太は、酔っぱらっていたとはいえ自分の名前を呼んで押し倒し、“一線”を越えようとしてきたのだ。
     お互い素面になった今、改めて問い直してみてもいいだろうか──。
    「……」
    「……」
     暫くの間、二人は黙って薬を飲んでいた。十郎太の方もどことなく居心地が悪そうである。
    「……あのさあ」
    「……なんだ」
     エキセントは意を決して十郎太の方を見た。二日酔いの所為だろうか、いつもの凛とした気迫が一切感じられない疲れ切った横顔に親近感が沸いた。
    「あのさぁ」
    「……」
    「……あの時私に、キ、キスしようとする前にさ……何か、言ってたじゃない」
    「……」
    「あれ、聞こえなかったんだけどさ……その……何て言ってたのか、もう一回教えてよ」
    「……」
     十郎太は沈黙を続けていた。十秒、二十秒と黙りこくり、空になった器を枕元に置いて、
    「……忘れた」
    「……は、はああ!?」
     そう、手短に言って布団の中に潜ろうとした十郎太に飛び付き、エキセントは詰め寄った。
    「嘘でしょ!? ねえ、絶対覚えてるよね!?」
    「ええい喧しい、忘れたといっておろうが」
    「だったらせめて、こっちを見て話してくれればいいじゃない! 本当は覚えているから後ろめたいんじゃないの?」
    「そ、そういう訳では……」
    「こらこらお前たち、何をやってるんだ!」
     GZとマグナムに薬の配膳を終えたらしいメッケルが再び雷を落とした。
    「今日はオーナーの好意で休ませてもらっているのを忘れたのか! 騒ぐ元気があるならベッドから追ん出してやるぞ」
    「ご、ごめんなさい……」
    「エキセント、十郎太と仲良くしなきゃダメだぞー」
    「はい……」
     問い詰め続けたいのは山々だが、幼いベズベズにまで窘められたら何も言えない。エキセントはしょんぼりしながら自分のベッドに戻った。おとなしく横になったエキセントを見降ろして、メッケルはやれやれと大きく息を吐くと、今度は十郎太の方を向いた。
    「どれ、十郎太。顔の調子はどうだ。そろそろ張り替えてやらんとな」
    「かたじけない、工場長殿」
     頭を下げてから、メッケルの方へと傾けた十郎太の顔を毛布の中で見て──エキセントははっと息を呑んだ。自分が今まで見ていた彼の顔とは反対側の頬には、大判のサロンパスがべったりと貼られていたのである。ゆっくりと剥がされていく最中に顔をしかめている様は、見ていて痛々しいが、ダメ押しとばかりに、その下には真っ赤な手の形がしっかりと付いていた。流石のベズベズも、GZ以上の興味を抱いたらしい。十郎太の傍に寄ると赤くなった頬を小さな手で撫でさすり、労わりの言葉を掛けた。
    「うひゃあ、痛そうだな~。十郎太、だいじょぶかあ?」
     対して、メッケルはどことなく愉快そうな様子である。一瞬だけエキセントの方に視線をやったという事は、こうなった原因を知っているという事であろう。一体誰が教えたのだろう。ブルだろうか、いや、ウインディだろうか──。
    「おお、何度見ても立派な紅葉だなあ。え、色男さんよ?」
     メッケルのおどけた語り口を聞きながら、エキセントは氷水をぶっかけられでもしたかのように布団の中でぶるぶると震えていた。十郎太が頑なにこちらに顔を向けようとしなかった理由はこれだったのだ。手を上げた事への後悔がエキセントの身の内に洪水の如くどっと押し寄せて、「正当防衛」という大義名分をあっという間に飲み込んでいく。
    「……ごめんなさい……」
     すっかりしおれてしまったエキセントが謝罪すると、十郎太はようやく視線をこちらへと向けた。聞こえないふりをしてくれているのか、メッケルは黙ったまま新しいサロンパスを貼ってやっている。ベズベズは再びGZの元へ行ってしまったようだ。
    「気にするな。これは某の、自業自得なのだから」
     そう言うと、十郎太はいつになくバツが悪そうな顔で笑ったのであった。


    (おしまい)
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