おでこを付けて笑い合う【おでこを付けて笑い合う】
「⋯⋯」
無言で端末を見ながら、カタカタとキーボードに打ち込むキラをシンはじっと見つめる。
「⋯⋯ん」
時折手が止まっては難しそうに眉を顰めたかと思えば、すぐにキーボードに文字を打ち込みその表情も柔らかくなる。
そんなキラの表情を見詰めるのが、最近のシンの楽しみだったりする。
タンッと最後にキーボードを打ち込む音を立てて、キラがぐーっと伸びをした事で、今日の仕事が終わったのだと分かり、すぐさま用意していた飲み物をキラに差し出す。
「キラさん、お疲れ様です」
「シンありがとう。ごめんね? 退屈だったよね」
「いいえ? キラさんの顔眺めてたから退屈じゃなかったですよ」
「えー? 僕そんな面白い顔してた?」
一度仕事に集中してしまうと周りが見えなくなり、休憩時間も忘れてしまうキラの為に、シンが率先して声を掛けるようになったのはいつからだっただろう。
初めこそ声を掛けるだけだったのに、今では早めに部屋に赴いて仕事が終わるまでじっと待つ様になり、その時に仕事中キラの表情がコロコロ変わる事に気が付いてからはこの時間が楽しみになってしまったのだ。
「面白いってよりかは、可愛いなぁて見てます」
素直に答えると、キラはキョトンとした後困った様に笑った。
「可愛いって⋯⋯僕は男だよ?」
「男でもキラさんは可愛いんです。俺にとっては本当に可愛い年上の恋人ですから」
「⋯⋯もう⋯⋯いつからシンはそんな事平気で言えるようになったの?」
少し恥ずかしそうに頬を染めたキラを見て、シンは椅子に座るキラのおでこに自身の額をこつりと合わせる。
「積極的な俺は嫌いですか?」
「⋯⋯嫌い⋯⋯じゃないよ⋯⋯?」
そんな甘い雰囲気を醸し出しながら会話をしていると、シンの方が先に限界が来た。
「⋯⋯くっ、ふっ、だ、ダメだ! 俺にはまだこれが限界!」
「ふふ。惜しかったけど、今回も僕の勝ちかな?」
甘い雰囲気はどこへやら、おでこをくっ付けたまま笑い合う2人は満足そうだ。
2人は恋人になった時に“おでこをお互いにくっ付けて、口説くセリフを言いながら先に恥ずかしくなった方が負け”というなんとも幼稚な事をしていた。
勝っても負けても特に何かある訳では無いのだが、現在シンの全敗だった。
今回のようにシンから口説いていても、シンの方から先に恥ずかしなって負けてしまうし、キラからストレートに「シン、大好きだよ」と言われた時も嬉しさよりも恥ずかしさが勝っていた。
「くそー! 俺にはこんなセリフ似合わないの知ってるでしょ?」
「そんな事ないよ? 少しドキッとした」
満更でもなさそうなキラに、次こそは恋人らしくビシッとしてやると心に誓った。
こんな2人だが、未だにキス止まりなのだが(キスすら触れ合う程度の可愛いもの)、いつになったら濃厚な恋人関係になるのか、周りが心配している事など2人は分かっていないのだった。