熱の先に熱の先に
今日の僕はどこかおかしい。
仮眠を取って目を覚ました時から違和感はあった。
いつも目覚めた時はぼんやりする時間はあるが、いつにも増してぼーとしてしまった。
本当なら格納庫へ行って調整をしようと思っていたが、どうにも部屋から出る気力が湧かなかった。
通信でコノエ艦長に、今日は自室で調整作業を行う事を伝えた。
初めコノエ艦長は沈黙していたが、『了解しました』と言ってくれた為、ふぅと息を吐いてから作業をしようとベッドから抜け出し、さっと制服を着てデスクの椅子に座る。
少しの動きだったのに、やたら身体が重く感じたものの、気のせいだと端末を開いた。
それからは散々だった。
何度も鳴り続くエラー音。全く集中出来ていない証拠だ。
視界も何処かぼやっとしてきたように思う。
(あ、れ……? なんで……?)
思考が纏まらない。何となく頭もクラクラして来た。
(これ、もしかして……)
熱がある? と思ったが、認めてしまうと一気に体調不良に襲われるのが分かる為、考えないようにした。
ぐるぐる回って上手く働かない頭では、訪問者に気が付くことが出来なかった。
「……将……ヤマト准将」
耳元で名前を囁かれ、ビクッと身体が跳ねてしまった。
「っ!? あ、コノエ、艦長……?」
いつの間に部屋に来たのか分からなかった。
焦るキラを他所に、コノエがニコッと微笑む。
「……大丈夫……ではなさそうですな?」
コノエの顔がゆっくり近付いて来た為、慌てて目を閉じるとコツンッとお互いの額が合わさる感覚がした。
「……あ、あの、コノエ、艦長……?」
「……熱がありますね」
「え……?」
「キラ……今日はしっかり休むように」
有無を言わさず椅子を引かれ、コノエに抱き抱えられる。
「ちょ、まっ、待ってください!」
「待ちません。自覚がないようですが、額で熱を測った感じ割と高熱です」
キラをベッドに降ろしたかと思えば、テキパキと制服を脱がしてキラを横にすると、身体に布団を掛けてくれた。
「少し待っていて下さい。色々準備してきますから」
「ぁ……」
部屋から出ていこうとするコノエの制服の裾を掴む。
「キラ?」
訝しむコノエに、キラはあーと小さく声を漏らした。
離れていく感覚が寂しくて思わず引き止めてしまった。
「……大丈夫ですよ。直ぐに戻ります」
ニコッと笑うと、キラの額にちゅっとキスを落としたコノエに、驚いて掴んでいた裾を離してしまった。
そのまま部屋から出て行ったコノエをぼんやりと見送ると、そっとキスされた額に手を置く。
「……恥ずかしい……」
キラの心情を簡単に見透かされてしまった。
傍にいて欲しいと、子供のような独占欲が芽生えてしまった。
人肌恋しく感じたのは、熱があるせいだと自分に言い訳しながらキラは目を閉じた。
その後コノエが医師を連れて来たり、キラの熱を聞きつけたヤマト隊メンバーがやって来たりと色々バタバとしていたのだが、キラは熱の為か深く眠っていたせいで気が付かなかった。
ふと目を覚ました時、傍にコノエが居てくれた事に気が付いてとても嬉しかった。
「キラ。具合はどうですか?」
「……」
大丈夫だと声を出そうとしたが、喉がカラカラで上手く声が出せなかった。
その事に直ぐに気が付いてくれたコノエが口移しで水を飲ませてくれて、驚きに目を見開きつつも嬉しくて目を閉じた。
「キラ……早く良くなって下さいね」
再び眠りに落ちる前、コノエの柔らかな声が聞こえ、キラは温かな気持ちで眠りに着いたのだった。