ぜつぼうかぶれチリチリと、砂埃が夜空を舞う。
二十一時、四十三分。本日は快晴。
雲ひとつない夜の空が広がる中で、二十一人と一人が見つめる視線の先はたった一つの満月に向かう。
ぴん、と張り詰めた空気と共に突風が吹き荒れ、小さな砂が白い頬に掠ってはかすかな傷をなぞって消えていく。怯える己を揶揄するような強い風に飛ばされそうになりながらヒースクリフは汗で湿った自分の手を握りしめ、鼓舞をした。
年に一度行われる、二十一人の賢者の魔法使いによる厄災戦。
その厄災を初めて自身のまなこで見ることになったヒースクリフでさえ明らかに異様だと悟ってしまうほど、今日の厄災はかつて無いほどに恐怖と絶望と焦りに満ちたものであった。
……さて、今から語るはヒースクリフをはじめとする賢者の魔法使いが『月を踏みつけるまで』の長い長い物語なのだが、これはほんの数ページにも満たないプロローグの一編だ。
8503