行く年「お邪魔、します」
「うん、入って入って」
コートはそこ、手はそっちとハンガーや洗面所を案内されて男に着いていく。この家に来るのはもう五回目になるのだが、いまだに緊張してしまうのは俺がこの男をそういった目で見ているからなのだろうか。
「水木はさ、正月は実家に帰るのか?」
「えっ、正月……は、家にいる」
ちょうど世間的にはクリスマスが終わった直後のことだ。皆、正月はスキーに行くだとか海外に行くだとか、実家に、など。
口々に予定を宣言するのは何かしらの優越感に浸りたいからなのか、それとも今から戦場に行くのだという人々にとっては慰めが欲しいからなのか。
自分はというと、先ほども男に問われたように今年は実家に帰らず家でゆっくりしようと考えていた。というのは建前で、両親が流行の病に罹患したため帰ってくるなと言われてしまったのだ。
5677