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    somaoji3

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    somaoji3

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    配信主同僚くん×水木
    年越しネタ

    行く年「お邪魔、します」
    「うん、入って入って」

    コートはそこ、手はそっちとハンガーや洗面所を案内されて男に着いていく。この家に来るのはもう五回目になるのだが、いまだに緊張してしまうのは俺がこの男をそういった目で見ているからなのだろうか。



    「水木はさ、正月は実家に帰るのか?」
    「えっ、正月……は、家にいる」

    ちょうど世間的にはクリスマスが終わった直後のことだ。皆、正月はスキーに行くだとか海外に行くだとか、実家に、など。
    口々に予定を宣言するのは何かしらの優越感に浸りたいからなのか、それとも今から戦場に行くのだという人々にとっては慰めが欲しいからなのか。
    自分はというと、先ほども男に問われたように今年は実家に帰らず家でゆっくりしようと考えていた。というのは建前で、両親が流行の病に罹患したため帰ってくるなと言われてしまったのだ。
    親子仲は良好だということだけは全面に押し出すつもりではいるが、帰省を断られた息子(独身)の図は中々に切ないものがある。
    誰にも言うつもりがなかったのに、唐突に予定を聞かれてうっかり答えてしまった。

    「そうなの? 予定がないから俺の家で飯食わない?」
    「お前は帰らないのか?」
    「うん。 今年は姉貴が子ども連れて帰省するって言うから後から顔出すだけにしようと思って」

    年始からだろうか、それとも年末、どちらの話になるのだろう。俺はどちらでも大丈夫だが、年末年始に家族以外の家で飯を食べさせてもらう経験などないので、失礼に当たらないようにしたい。

    「水木はいつから来れる? 泊まるだろ?」
    「へ?」
    「年越し、俺の家でやろう」

    まさかまさか、意中の相手と年越し。年越しといっても実家に帰ったところで何もしていないから、どういうことをするのだろう。
    蕎麦を食べるとか、歌番組や特番を見るくらいしか思い浮かばない。

    「邪魔にならないなら、行く」
    「うん、おいで」

    男の優しい声とその台詞に、胸を押さえる。おいで、なんて。昔友人の妹がやっていた乙女ゲームに通じる何かがある。こんなのにキャアキャア言ってさ、などと馬鹿にしていたが前言を撤回させてほしい。

    「大晦日のお昼くらいに来てくれたらいいよ」
    「わかった」

    持ち物などは追って連絡をくれるらしい。年越しは恋人とは過ごさないようだ。なんとなく、男は家族や恋人とゆっくり過ごすのではないかと思っていたから。



    泊まりに必要なものだけでいいと男からは言われたが、空手で行けるわけがない。デパートのリカーショップでそれなりに有名どころの酒蔵の酒を購入し、つまみになりそうなせんべいを包んでもらった。
    料理の類は男が作ったものに敵うわけがないので、デリなどには手を出さないでおく。量り売りのシュリンプに目を奪われたが、殻付きのくせにグラム単位で金を取るなどなんとアコギな商売なのだろう。海老を買って持っていけば男がなんとでもしてくれそうだ。

    そして冒頭に戻るのだが。手を洗いリビングに足を踏み入れるとテーブルにずらりと並べられた食材や料理に圧倒させられる。

    「これ、酒とせんべい」
    「ありがとう。手ぶらで良かったのに」

    想像していた通りの言葉が飛び出して思わず笑ってしまう。そんな俺に怪訝そうな顔をする男になんでもないと言って、部屋の隅に荷物を置いた。

    「何作ってんの?」
    「お節もどき」

    大体の料理は終わっているらしく、あとは簡単に出来るものを一緒に作るつもりだと言う。なんというか、こうやって年の瀬にお節料理を作るなんて、深い関係なのではないかと思わされてドキドキしている自分が恥ずかしい。
    俺が配信を楽しみにしているリスナーの一人だとは思わないだろう。間近で料理をしている姿を見て、声を聞いているなんて他のリスナーからしたら大変な抜け駆け行為だ。譲る気もないが。

    「煮和えと鶏の八幡巻きを作るよ」
    「煮和え?」
    「東海の方ではなますじゃなくて、こっちなんだって」

    火を通してあるから酢がキツくなくて食べやすいのだとか。男の指導の元、野菜を切っていく。
    包丁で皮を剥くのは得意ではない。ピーラーがあれば良いなぁと思っていたら、もうすでに手元に用意されていて目を瞬かせる。

    「使いやすい方使って」
    「おお、ありがと」

    どういたしまして、と笑って鍋を出してくる男の押し付けがましさの無さにこういう所が良いんだよなぁと、しみじみと噛み締めてしまう。

    「五センチくらいに切ってから短冊に、うん、そうそう」

    肩口から手元を覗き込むようにして切り方をレクチャーされるため、耳元に息がかかってくすぐったい。職場ではここまで近い距離にいないから気付くことはなかったが、この男は結構パーソナルスペースが狭いのかもしれない。
    野菜や油揚げを切り終わり、男が用意した鍋に入れるとすかさず調味料が投入される。こんなにいきなり一緒に入れても良いものなのかと、普段料理をしないせいで変なところに驚いた。
    火にかけて、菜箸でかき混ぜていくとだんだんと水分が出てくる。野菜の水分とでちょうど良くなる配合らしいので、問題はないと男は言う。そういうもんなんだなぁと思いながらぐるぐるとかき混ぜた。

    「生でも食べられるからそんなに神経質にならなくてもいいよ」
    「こんな簡単なんだな」
    「味が濃いものばかり食べるから箸休めに良いんだよこれ」

    次は、鶏の八幡巻き。鶏もも肉を広げて、厚みが均一になるように包丁を入れていく。ここは切っても大丈夫なのかとか四苦八苦していると、男は代わってくれた。

    「ここは切っちゃって、こっちにくっつけたら良いんだよ」
    「えっ」
    「野菜入れて巻くから」

    完全に切り離してもよいことを知り、愕然とする。なんとなくそれはずるいだろうと口に出さずとも男には感じ取れたのか笑っていて少し悔しい。
    インゲンに人参、ごぼうを細く切って鶏肉の真ん中に置く。端からギュッと巻くのだがこれがまた難しい。むにむにと肉がズレていくので、野菜もはみ出てしまう。

    「出来ん!」
    「水木押さえてて。俺タコ糸で縛るから」

    後ろからにゅっと腕が伸びてきて、背中に体温を感じて思わず手を離しそうになる。おっと、と離したところからくるりと糸が巻き付いて、どんどんと端から巻かれていく鶏肉。はみ出ていたものも綺麗にリカバリーされて何一つ一人で出来ておらず肩を落とす。

    「初めてなんだから気にするなよ」
    「だって邪魔してるだけみたいだろ」

    そんなことないよ、と手が汚れているから顎で頭頂部をうりうりとされる。完全に子ども扱いだ。
    手を洗い、フライパンにごま油を引いて鶏を入れコロコロと転がしながら皮目を焼いていく。この工程は難しくないので嬉しい。

    「はい、調味料入れるよ」
    「わかった」

    焦げやすくなるから気を付けて、と言葉を添えられて任せろと拳を握る。フライパンを揺すり、たまに蓋を開けて箸でまた転がした。ある程度煮詰まれば火を止めて、冷めるまで置いておくらしい。

    「あと何か作る?」
    「あとは蕎麦のつけ汁くらいかな」

    すぐ出来るし、あとはゆっくりしようとソファーに無理矢理座らされる。夏に来た時にはなかった毛足の長いファーのラグが気持ち良い。

    「つまみ作ってあるんだ。昼から飲もうよ」

    飲む! と食い気味に反応してしまう。柚子胡椒のきいたカルパッチョに、サラミとチーズのスライス、カブと柿の洋風なます。

    「ビールもいいけど、今日は軽くシュワシュワのやつ」

    スパークリングワインをすすんで飲むことがないため銘柄などはわからないが、酸味があってしっかり辛口な味わいは料理に合う。すいすいと飲めてしまうこともあり、その度に注がれて、がっついているようで恥ずかしい。

    「美味い? 違うのもあるから」
    「ま、前みたいに潰れるわけにいかないからやめとく」
    「そう?」

    遠慮するなよという男の声が耳に心地よい。ダラダラと酒を飲んで、サブスクリプションで映画を観たり、取り止めのない話をする。
    暖房で温められた部屋の中では気付かなかったが、外は雪がちらついているらしい。初詣はいつも朝起きれたら行く、という怠惰なものだが男はどうだろう。

    「初詣とかさ、お前は行くタイプ?」
    「夜行ったりもしてたけど最近は朝起きてからだな」

    雑煮食べてからでいいでしょ? と問われてこの男は俺と行ってくれるようだ。うんと頷いて、隣から男がまたキッチンに消えていくのをぼんやりと眺める。

    「腹減ってる?」
    「そんなに……けど、蕎麦は食べたい」

    干し椎茸、ささがき牛蒡に、にんじん、鶏肉と具沢山の出汁つゆ。茹で上がった蕎麦をつけて食べるのが男の毎年の恒例料理らしい。

    「うまっ」
    「だろ? ざるそばも良いんだけどやっぱりこれが俺の年越しそばなんだよなぁ」

    鶏肉の脂が蕎麦に絡まり、しっかりとしたつゆの味がまた良い。牛蒡の歯応えもうれしくて、あまり腹は空いていなかったが、ついつい箸が伸びてしまう。

    「腹一杯」
    「俺も」

    洗い物はやらせてくれと頼み込んでなんとか与えられた仕事で、いつもよりも丁寧に行った。すすぎ残しやスポンジに汚れがあるまま放置など、他人様の家で嫌われる行動百選を読み込んできて良かったと思う。
    終わって手を拭いて顔を上げると、男はうたた寝をしているようだ。年末恒例の音楽番組はただ点いているだけという有り様。

    「寝てる?」

    俺の問いには頭り前だが答えは返ってこない。すぅすぅと寝息が響く。つん、と頬を突いても何の反応もなくて少しだけつまらない。
    寝ていることを良いことに男の肩に頭を乗せてみる。低めの体温がじわじわと移り、眠気が襲う。


    ぱち、と目を覚ますとよく知らない歌手が画面の向こうで歌っている。聞いたことがあるようなないような。
    隣にある温もりも変わらぬまま。
    そおっと様子を伺うように顔を覗き込むと、男の目が開いて思わず仰け反る。

    「っ、」
    「……ねてた?」

    寝ぼけたようなふわふわとした声。舌足らずで甘いその声にドキリ。

    「風呂、はいろ」

    よたよたと覚束ぬ足取りで湯張りのボタンを操作する男。そんなに酒を飲んでいただろうか。ただ眠いだけならもう寝てしまっても良いのに。

    「もう寝てもいいぞ」
    「年越しまでは起きてたい」

    まるで子どものような物言いに笑ってしまう。デカい図体をしておいて随分と可愛いものである。
    お客様が先、と風呂に押し込まれて出てみれば自分が持って来た寝巻の上に置かれたモコモコ。俺の物の上に自分の物を置くようなことはしないだろうし、これは着ろという無言の指示なのだろうか。

    「まぁ、せっかく用意してくれてるし」

    悩んだ末にモコモコに手を伸ばした。ふわふわのモコモコ、確かに暖かくて良い。何も言われていないのに着るのは間違っていたか、と最後まで不安になりながらリビングに戻る。

    「お風呂いただきました」
    「うん……それ! 着てくれたのか!」

    パァアと目に見えて嬉しそうな表情に思わず顔を逸らす。モコモコ着てる水木が見たくって、と続ける男の言葉にそれ以上のことはないのだろうが、期待してしまうのは仕方ないと肯定して欲しい。
    入れ替わりに風呂に行った男を見送りながら、はぁと詰めていた息をどうにか吐き出す。本当に、男同士だからなんとか勘違いするなよと言い聞かせられるけれど、そろそろ抑えられなくなってきている気がして。

    「出た!」
    「ん」

    ドライヤーの音がしないと思ったら髪がビッショビショのまま。自分の家だから好きにすればよいのだが、ポタポタとフローリングの上に落ちる水滴はいただけない。

    「髪、拭いてやるから」

    嬉しそうにソファーの下に腰を下ろした男の、柔らかそうで硬い髪に指を通す。合法的に頭を撫でているなぁとやや不埒なことを考えながら。
    いつの間にか番組が変わり、どこぞの寺との中継が映し出されていた。いつの間にか年が変わっていたようだ。

    「水木! 明けましておめでとう。今年もよろしく」
    「……おめでとう、こちらこそ」

    ごーん、とテレビの中と遠くで響くステレオタイプの鐘の音。俺のこの気持ちも煩悩のひとつとして浄めてくれれば良いのに。
    そろそろ同僚と友達では苦しくなってまいりました。






    ○煮和え
    だいこん 1/3本
    にんじん 1/3本
    れんこん 1/3本
    油揚げ 1枚
    だし汁 200ml
    砂糖 大さじ5
    みりん 大さじ2
    しょうゆ 大さじ1/2
    塩 小さじ1/2
    酢 75ml
    大根、人参は5センチくらいの長さにして短冊切り、蓮根は薄切り、油揚げは細切りにする。
    鍋に調味料と野菜を入れてくったりするまで炒め煮をする。冷めるまでおけば味は馴染む。

    ○鶏の八幡巻
    鶏もも肉 1枚
    インゲン、ごぼう、にんじんなど巻きたいもの
    砂糖 大さじ1
    醤油、酢、酒 大さじ2
    水 200ml
    鶏もも肉を出来るだけ均一な厚さに切り広げる。その上に野菜を乗せて端からぎゅっと巻く。
    タコ糸でチャーシューのように巻いて形を整える。
    フライパンに油を引いて、コロコロと転がしながら満遍なく焼き目をつける。
    調味料を入れて蓋をして中火〜弱火で転がしながら煮詰める。
    火を止めたら蓋をして完全に冷めるまでおいておく。
    糸を切り、切り分ける。

    ○黒豆
    黒豆 300g
    砂糖 250g
    醤油 50ml
    塩 大さじ1/2
    重曹 小さじ1/2

    大きな鍋に水を2l沸騰させたら火を止めて、調味料、黒豆を入れて4時間浸しておく。
    中火にかけて沸騰して全体的にアクが出てきたら弱火にして丁寧にアクをとる。
    火を強めて沸騰させ、差し水を100ml入れてまた煮立たせてもう一度差し水100mlを入れる。
    落とし蓋をして8時間以上煮る。
    煮汁が豆にかぶるくらいまで煮詰まったら火を止めて一晩味を含ませる。
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