雨のち花「うわっ……最悪。」
もう少しで家だと言うのに、突然雨が降り始めた。
タイミング悪く信号に引っかかって立ち止まると、一瞬にして雨は激しくなる。
ゲリラ豪雨と言うやつだ。
堪らずすぐ側にあった店の軒下に逃げ込んだ。
しかし雨が激しく足が濡れる。
まずい。このまま濡れたらリスポーンする……
「良ければ中に入って。」
突然の声に振り返ると女性が立っていた。
言葉に甘えて店に逃げ込む。
ここはどうやら花屋だったらしい。
俺の様子を見ると、店員の女性はクスリと笑った。
「凄い雨ですね。収まるまでゆっくりしてもらっても大丈夫ですよ。」
「助かりました。」
「いえいえ。ここのリスポーン地点は数少ないですからね。きっと今大混雑してますよ。」
ゴンズイ地区は人口の割にリスポーン地点が少なく、こういう時は結構順番待ちになってしまうことが多い。
それにリスポーンしてしまうと、せっかく買った夕飯の食材も落としてしまう事になる。
「本当に助かりました。」
「フフフ…せっかくだからお花でも見て行って。」
今まで花には興味が無かったせいか、ここに花屋がある事すら知らなかった。
色とりどりの綺麗な花が並んでおり、いい香りがする。
「無理矢理買えなんて言わないわよ?そんなつもりで声掛けた訳じゃないからリラックスしてね。」
「は、はぃ……。」
とは言われても花屋なんて落ち着かない。
ソワソワと店の中を歩いていると、次第に雨が収まってきた。
「もうすぐ止みそうね。」
「あ、あの……コレ下さい。」
「別に気を遣わなくていいのよ?」
「いや、その…下さい。」
「フフフ……ありがとうございます。包むので少しお待ちくださいね。」
**************
買ってしまった。
柄でも無いのに花を買ってしまった。
雨上がりの道を歩きながら、手の花を眺める。
コレ、どうしようか?
チョロにあげる?
でも世話とか面倒だしな……
一応声だけかけようか。
「ただいま。」
「オカエリ!雨凄かったネ!リスポーンしちゃったかと思って心配したヨ〜!」
ドアを開けると勢いよくチョロが玄関まで出てきた。
「アレ?お花?ソレどうしたの?」
「あ、いや、その………いる?」
「え?」
手にある1本の花をそっと差し出す。
「いらねぇなら別にいいんだけど…」
「貰ってイイノ!?ホシイ!!」
「じゃあやるよ。」
「ヤッター!!大きいコップ、花瓶にしてイイ?」
「別に良いけど……」
「わっわっ!どれにしようカナ///」
チョロは花を受け取ると勢いよくキッチンへ走って行った。
俺も後を追い、スーパーで買った食材を冷蔵庫に入れる。
その横でチョロは嬉しそうにコップを選んでいる。
「お前、花好きだったのか?」
「ンン?あんまりわかんナイヨ〜。でもネ、エイトがお花くれたのが嬉しいノ〜。」
「そ、そうか?」
「だってエイト、お世話大変だから〜とか言ってこういうの絶対買わないデショ〜wエイトから貰うの、食べ物とか消耗品が多いカラ。ア!勿論いつものも嬉しいヨ!でもネ、なんだがボクもよくわからないケド、今凄く嬉しいノ。ホラ、カワイイ!」
チョロはそう言うとコップに入った花をコチラに見せてくる。
「ココに置いてイイ?」
「あぁ。好きなとこ置け。」
「わぁ〜い!エヘヘ、ボクと同じオレンジだ〜!」
言われてみればそうだ。
あまり何も考えていなかったが、無意識にオレンジを選んでしまっていたようだ。
そう思うとなんだが恥ずかしい。
「コレなんて言うお花?」
「え?いや……ごめん。見てなかった。」
「おぁー、調べたらわかるカナ?」
そう言ってチョロはスマートフォンを触り始めた。
「ネェ、どうしてお花買ってきたか聞いてイイ?」
「あぁ……その、雨宿りさせてくれたのが、たまたま花屋で……それだけなんだ。こんなお前喜ぶと思って無くて……ごめん。」
「謝らなくてイイヨ〜。フフフ……雨もたまにはイイネ。あ、この花、ガーベラって言うらしいヨ〜。これボクの1番好きな花にするネ!」
そう言って写真をパシャパシャと撮っている。
「ネェ、写真ハチに送ってイイ?」
「なんか恥ずかしいからやめて?」
「ンンー!じゃあアイコンは?アイコンにするのはイイ?」
「いや、まぁアイコンぐらいならいいか。」
「ヤッター!」
確かに、たまには雨もいいな……
****************
「スミマセーン!」
「いらっしゃいませ。」
「青いお花買いに来ましタ!」
「青い花ですね。今だとこの辺ですかね。こういうのもありますよ?」
「うわぁ!色々迷う!花束にしようカナ?でも沢山だとお世話大変って怒られちゃうカナ?うぅーん…喜んでもらえるかわからないカラやっぱり1本カナ……」
「大切な方へのプレゼントなんですね。」
「ウン!この前ね、初めてお花貰って嬉しかったカラお返ししたいノ!ボクの色のお花くれたカラ、ボクもそのヒトと同じ色の花をあげたいノ。」
「そうですか。たくさん悩んで行ってくださいね。」
「ウン!」
END