四面楚歌【四面楚歌】
「……。」
シャオはシャガラから渡された服……いや、布切れを広げる。
「いやぁ、可愛いやろ?シャオに似合いそうやと思って衝動買いしてしもてんw」
「……どうも。」
広げられた布は、明らかに女性用のチャイナドレスだ。
大きく入ったスリットに、大きく空いた胸元と背中。
それはセクシーと言うよりも、いかがわしいデザインのものだった。
こんなもの、一体どうしろというのか?
「じゃ、そういうことで今日はずっとそれ着といてな?」
「……は?」
「それに合わせて下着も買っといてあげたで?ほれ。」
「……。」
手渡されたのは、下着と言うより紐である。
「断ります。」
「なんで?」
「仕事に差し支えます。」
「実は今日パーティがあってな、女避け兼ボディーガードとして横におって欲しいねん。」
「聞いてませんが?」
「だって言ってへんもん。」
シャガラはニコニコとシャオの顔を眺める。
この、いかがわしい服を着て、オレに人前に出ろと?
正直、死ぬほど嫌だ。
「ほら、ワシ独身やろ?娘とか売り込んでくる奴ら多くて面倒やねん。」
たしかに、こんな下品な服着た若い女を連れ歩いていたら効果抜群だろう。
そうは思うが……
「せめて、違うデザインの服はありませんか?」
「いやや!せっかくオーダーメイドで仕立ててもろたのに!」
「さっき衝動買いって言ってませんでした?」
「そやっけ?」
「……。」
本当にこの男は……
「そんなに嫌やったら他の子に頼もかなぁ。せっかくおもろそうな商談相手もおるのに。残念やわ。ほれ。」
シャガラは出席者リストをシャオに渡す。
たしかに、シャガラを含め、普段あまり表に出てこない大物の名前がいくつかある。
一体この男がどうやってこの連中を丸め込むつもりなのか……非常に気になる。
「……わかりました。着ればいいんですよね、着れば。」
シャオは眉間に皺を寄せながらそう言った。
「ほんまにやってくれるんか!?さすがシャオや!そうと決まればはよ着替えよか?」
パンパンッ
シャガラが手を叩くと他の従者が数人部屋に入ってくる。
「シャオ様、失礼します。」
従者はそう言うとシャオの服に手をかける。
「なっ!?ここで着替えるのか!?」
「シャガラ様のご命令ですから。」
「……。」
シャオがシャガラを見ると、シャガラはにこやかな笑顔を浮かべる。
こ、コイツ……。
全ては計画通りということか。
「さ、時間ないで?はよ着替えよか?ワシも着替えるし、な?」
「くっ。」
あっという間に身ぐるみ剥がされる。
ご丁寧に偽物の胸まで用意してある。
服に合わせてゲソの結い方も化粧も変える。
アクセサリーまで変えれば、我ながら別人の仕上がりだ。
喋らなければ誰も男とは思わないだろう。
横を見ると、シャガラもまた体格の良さを活かし、上品に見えるチャイナ服に着替えていた。
「えらいべっぴんさんになったなぁ?」
そう言ってシャガラはオレの頭からつま先までをじっくりと眺める。
恥ずかしがったらこの男の思う壷だ。
どうせ見た目はほぼ別人だ。
演じ切るしかない。
「これで、満足頂けましたでしょうか、シャガラ様。」
シャオは胸を張り、女性として美しく見えるように立ち方や指先の動きまで意識する。
「合格。ほら、こっち来や。」
シャオはシャガラに呼ばれて鏡の前に立つ。
おそらくペアで特注デザインされたものだろう。
大胆なデザインではあるが、横に並ぶとバランスが取れており、そこまで気にならない。
むしろこれだけ大胆にも関わらず、自分は引き立てる為の華の役割であり、あくまでも主役はシャガラなのだ。
「なかなかええやろ?会場着くまでに参加者全員頭に叩き込んどきや。ほないこか。」
シャガラはシャオの腰に手を回してエスコートする。
「……シャガラ様、下着、もう少し布面積多くても問題なかったですよね?」
「それはワシの趣味や。」
「本当にいい趣味をお持ちですね。」
「この状況に興奮するような変態やなければ問題ないやろ?」
「ええ、勿論。問題なくやり切って…ひゃっ!?」
突然、腰に回されていた手がスリットの奥に滑り込み、シャオは思わず声を上げた。
「……シャガラ様。」
「ま、せいぜい頑張りやw」
「……。」
嫌な予感しかしない……。
しかし、絶対にやり切ってやる。
横でニヤニヤする男に殺意を覚えつつ、シャオは手に持った資料に目を通すのだった。
-end-
四面楚歌(しめんそか)
周囲を敵に囲まれ、味方がいない状況。
普段の姿を見せない大物が出てくるパーティー……普通のパーティーだといいんですがね。