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    osimai789

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    osimai789

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    セカアサ 殺人癖☀️幻覚
    シナリオネタバレはない

    恐怖でも哀れみでもない、でも確かな強さを持ったあの濃桃色の双眸が、今でもずっと忘れられずにいる。

    ちゃり、と魔術師が黒いチョーカーの留め具を外す。
    吸血鬼は人を逸した力を何かに操られるようにして魔術師の左手首にぶつけ、壁に押し付ける。もう一方の手で深い緑色の髪を頭ごと掴み首を晒させれば、遮るもののない白い肌の向こうに吸血鬼が求めてやまない赤い血潮の流れを感じた。
    溢れる唾液を喉へ流し、大きく口を開ける。鬼たる牙を白肌へ当て、強く食い込ませる。
    血で、魔術師の身体を巡る命で、口内が満たされる。足りない。さらに力を込める。足りない。一日に一度、主に就寝前に行う"食事"となんら変わらないように思える行為。吸血鬼の朝日は標的を爛々と見据え、離さなかった。人であればその眩しさに、恐ろしさに、自身を守るように瞼を閉じざるを得ないのだろう。魔術師は決して抵抗せず、そして自らの意志でその金を、まるで焼き付けるかのようにしっかりと見つめていた。
    きっと、これが不老不死の最期なのだ。と魔術師は考える。こうでもしなければ、もしくは太陽に焼かれなければ、人から外れた存在である自分が今後死に触れることは叶わないだろう。言ってしまえば単なる興味だ。
    ____死へと伸ばした手は、すんでのところで届かなかった。
    「っ…」
    吸血鬼は我に帰り、血を流す魔術師から急いで口を離す。食事の際にも、そこまで大きくないとはいえ噛み跡はつく。が、襲われた魔術師の首元に残っているのは跡なんてかわいいものではなかったのだ。
    「…目ぇ、覚めたかい?」
    普段とまるで変わらないような、もしくはそう装っているような声色で魔術師が問えば、俯いた吸血鬼は間を置いて小さく「………ああ」とだけ答える。
    傷つけてしまった。それだけが吸血鬼の頭にあった。牙につけた紅を拭うこともせず、目を合わせないまま「悪かった」と零す吸血鬼は、本当よりもいくらか小さく見えた。
    魔術師でなければ気付かないほどほんの僅かに眉尻を下げた吸血鬼に優しく傷を触れられれば、
    「なあに、君はちょっと力加減がヘタクソなだけさ。普段の食事と変わらないよ」
    と少しくすぐったそうに笑う。
    「……それは慰めか?」
    やっと顔を上げた吸血鬼の瞳は、先ほどよりもずっとゆるやかで優しい光だった。
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