熱帯魚胃袋を満たすためにじめじめした夜の裏路地を歩けば、廃墟のような建物が並ぶばかりで、そこには青白い水槽が並ぶ熱帯魚の店だけしか無かった。
熱帯魚の可食部はどこだか一瞬だけ考えて、踵を返す。
安全と睡眠の為だけに押さえたボロいホテルに戻れば、ベッドサイドの小さなライトだけが暗い部屋の一角を照らしていて、そこではアンジェリカがダブルベッドを占拠していた。
ローランは仮面の奥で顔をしかめた後、スーツを脱いで、少し汚れたワイシャツのままそこへ入り込む。アンジェリカはローランの分の場所をすんなり開けてくれる。
「夜ご飯、見つからなかったんですね」
「まだ何も言ってないだろ」
「機嫌が悪そうなので分かりますよ」
アンジェリカから背を向けて、目を瞑る。今日出来ることは終わった。「血染めの夜」の手掛かりは今日も得られなかったのだ。
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