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    hida__0808

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    さめ→しし 支部から消したやつです 片想い

    おもちゃ箱の恋 大きな子どもが三人、床の上に散らばっている。「川」の字というよりは「ミ」の字と称したほうが正しい散乱ぎみの寝相を披露する彼らは、甘い酒とピザとスナック菓子でくちくなった腹を上下させていた。
    「酔い潰れたら潰れっぱなしかよ、人ン家で良いご身分だな」
    「放っておけ」
    「ここは託児所じゃねえってのに」
     と言いつつも、事実、獅子神邸はそれに近しい場所になりつつある。家主である彼が、憎まれ口を叩きながらも友を蔑ろにできないためだ。この家が彼のみの「城」だった時代は、とうに過ぎた。築二年、陥落である。
    「獅子神さんおやつ作ってー」と言われたならばクッキーを焼いてやり、「敬一くんねむーい」と言われたならば布団を敷いてやり、「神の御毛を手入れする権利をやろう」と言われたならば、ヘアトリートメントとドライヤーを両手に抱える。「おい、茶」でも動く献身っぷりだ。
     小間使い扱いに対し、獅子神は逐一・都度・欠かさず文句を言うが、文句を言った回数だけ必ず折れる。真経津をはじめとした怪物の集いはおしなべて甘え上手であり、獅子神が「仕方ねえな分かったよ」と項垂れてつむじを見せるたび、無邪気な悪魔の顔で笑った。
     そもそも獅子神は、有り余る善心を虚勢の皮で包み隠していたような男だ。積み上げたプライドの隙間からこぞって心の柔らかい部分をプニプニと突かれてしまえば、抗えるはずもない。
     甘えん坊のギャンブラー四名は獅子神のキャパシティを試し、どこまで注げば蜜が零れるかのチキンレースをしているが、今のところ決壊の兆しはない。降り注ぐ悪略の滝よりもはるかに早いスピードで、彼の器が広がっているからだ。
    「チキンのコマーシャルばっかだな」
    「腹が減った」
    「お前はまだ食うのかよ」
     十二月に入ってから、主に真経津か獅子神の自宅にて、週に二度ほど暴飲暴食パーティーが開催されている。今日の主役はピザだったが、五日前はハンバーガーパーティー、八日前は肉パーティー(牛豚鶏なんでもござれ)だった。
     クリスマスから年末年始のイベントごとを控えたこの季節柄、飲食店はどこも書き入れ時である。道端に百万円が落ちていても拾わないようなメンバーが、やれ百円引きのチケットを配布しているだの、やれ半額セールをやっているだのと端金を浮かせる理由をつけては、脂っこい宴メニューをテーブルに広げた。
     おかげで、獅子神も腹の筋肉と少々おさらばする羽目になった。十数分に一度の間隔で流されるフライドチキンのコマーシャルにすら胃もたれを覚えてしまう。
     獅子神が腹を押さえるよりも先に、村雨がテレビの電源を消した。わずかな静寂と、三人分の寝息が響く。
    「……なあ村雨、お前にとってのクリスマスってなんだ?」
     獅子神と村雨は、出会ってまだ一年未満の仲であるが、沈黙を居心地悪く感じる間柄ではなかった。獅子神が黙々とトレーニングに勤しむ横で、村雨が本を一冊読み終えることもある。それにしては珍しい、場繋ぎとしか思えない突拍子もない発言だった。
    「……ただの十二月二五日だが」
    「だよなあ」
     ここ数日で、街中は電飾まみれになっている。村雨は、イルミネーションを見ても「今年も光っているな」としか思わない。年を跨いで周りが赤と白と餅だらけになったら、今度は「光らせるのは終わったのか」と感じる程度だ。
     世間が忙しない幸福で溢れていたって、村雨礼二は浮き足立ったりしない。彼が一年のうちで「特別な日」として認識しているのは、せいぜい実兄の誕生日くらいなものだった。
    「オレも一緒だ」
     叶に買い出しを任せると、飲み物はエナジードリンクかフルーツフレーバーのサワーばかりになる。子ども舌の真経津と叶、飲み食いしん坊の天堂は嬉々として空き缶の塔を作り上げるが、獅子神と村雨はそうもいかなかった。
     アルコール分は真経津らミの字たちに吸い込まれたため、二人に酒は回っていない。まさか、プロテインで酩酊するわけもないだろう。
    「サンタが来ないクリスマスなんて、ガキにとっちゃ地獄みたいなモンだよな」
     ──なのにこの男が饒舌なのは、何故か。
     村雨と比べると、大抵の人間の口数は“多すぎる”に分類される。獅子神は、村雨比で「かなりおしゃべり」一般比で「まあまあ話好き」程度のものである。
     つい、人を暴きたくなるのは村雨の悪い癖だった。お開きが近いパーティー。机の上に散らかったままの残飯や空き缶。消されたテレビ。脈絡なく語られる言葉。どれもが自然すぎるほど、不自然だった。
     突然、一人の少年と目が合った。よく伸びた背を支えきれるとは到底思えない、棒きれのような手足が印象的な子どもだった。とてもきれいな顔をしているが、頬はげっそりと痩けている。典型的な栄養失調だということは、村雨が医者でなくともひと目で分かる話だ。
     少年は村雨を見上げ、「ヒゲもないし黒い服。サンタじゃないかあ」と唇を尖らせた。村雨は、使い古された靴下と手紙を握りしめるその子の隣に座り込んだ。
    「周りがサンタにアレコレ貰ったって自慢してるうちは、オレの中でサンタはフィクションだった。でも、みんなが“正体”に気づき始めた頃、逆に信じてみたくなった。オレが悪い子だからいけないんだって思い込んで、ゴミ拾ったり宿題やったり、必死に良い子でいようとした。そうしたら、オレんとこにも来てくれんじゃねえかって……最新のゲームをくれなんて言わない。恐竜の模型、車のおもちゃ、ジグソーパズル、光るボールペン、なんでもよかった。なんでもいいから、クリスマスにプレゼントが欲しかった」
     膝を抱えた子どもが、息を吐く。白く濁った色が、膨らんで消えた。「僕の家にはツリーも煙突も無いから、サンタは来てくれないのかな」と呟いた声も、同じく消えた。
    「ガキの頃さ、金も無いし友達も居ねぇから、よく図書館に行ってたんだ」
    「……今のあなたからは考えられない素養だな」
    「ほざけ」
     小さな手が、絵本を捲る。経年劣化でところどころが綻びた表紙には、やわらかい色遣いのうさぎが描かれていた。愛らしくも、どこかくたびれた目つきで背中を丸めるうさぎは、少年の姿にそっくりだった。
    「子どもがクリスマスプレゼントでもらったうさぎのぬいぐるみを最初こそ可愛がるんだが、どんどん新しいプレゼントを貰うたびにぬいぐるみを蔑ろにしていくっつー絵本があってよ。ソレ読むたびに、じゃあそのうさぎのぬいぐるみをオレにくれよって思ってた」
    「……ビロードのうさぎ」
    「それだ」
    「村雨先生はなんでも知ってんな」と笑ったのが獅子神で、「これね、僕の好きな本。おじさんも読む?」と訊いてきたのが“彼”だった。
    「オレなら絶対に大切にするのにって、ぬいぐるみに同情してたのによ。今じゃガキの気持ちのほうが分かる。新しいモンは魅力的で、古くて汚いモンはいらねーんだ」
     獅子神は語り続けた。数十キロ歩いた地点で落とし物に気付き、仕方なく来た道を腰を曲げながら歩いているような、しょぼくれた声色だった。
     第三者から「どこに落としたのか分からないし、もう探さなきゃいいんじゃないか」と言われたがっているのは分かったが、村雨は止めなかった。ポケットから転がり落ちた石ころを探すべく、自らが付けた足あとをたどる獅子神のことを、じっと見つめていた。大きな身体と、小さな身体。その二つを、交互に見つめていた。
    「なんでも手に入るようになったけど、あの頃欲しかったもんはもう全部色褪せちまった。今さら買えるようになったって遅すぎる。どんだけ稼いだって、」
     深い海の色をした瞳が、村雨に向けられる。やっと“獅子神”が、村雨の視線に気づく。大量の目玉ではなく、二つのまなこに射抜かれ続けていたことを、知る。
    「悪ィ。……喋りすぎたな、忘れてくれ」
     獅子神が目を逸らしても、村雨はずっと、その長い睫毛の中身を覗いていた。
    「不幸自慢とかよ、一番ダサくて嫌いなんだが……お前と一緒だと気が緩んじまう」
     忘れろ、と言われても、忘れられるわけがない。そんなことを言われてしまったら、ただでさえ優秀な村雨の海馬は百万馬力で働き出す。獅子神の表情、声、視線の動き、におい。それらを一番厳重なハコに収納して、鍵をかける。これで、ゾウに踏まれたって忘れない。村雨はきっと、今際の際に今の言葉を思い出すだろう。
     しかしながら、気を許してもらうのは大いに結構だが──村雨としては、安心と同じくらい警戒してもらいたいのが本音だ。今だって、本当は獅子神のことを抱きしめてしまいたかった。俯いた少年の影ごと、丸ごと。
     村雨の良心をつなぎ留めているのは、規則正しい呼吸の三重奏だ。二人きりの空間だったら、きっと容赦していない。
    「私も、クリスマスにこれといって特別な思い出はない。もっとも、悪い思い出も無いが」
     働き者の父親がサンタクロースの代わりなのだということを、村雨は四歳の時点で悟っていた。クリスマスイヴにはチキンとケーキが並び、クリスマス当日の朝は、枕元にプレゼントが置いてある。朝一番に、兄の弾んだ声を聞く。
     ──今年もサンタが来たな、礼二!
    「ふつう」よりも、少しだけ恵まれた家庭。獅子神からしてみれば特別も特別だが、それが村雨にとっての当たり前だった。毎日、アドベントカレンダーを兄と交互に開けていく。それだけが唯一、少しだけ楽しい記憶だと言えた。
    「あなたは、子どもの頃に欲しかったものが色褪せてしまったと言ったな」
     村雨は、そう思わなかった。彼は、幼き頃のクリスマスに貰ったハードカバーの文庫本を、(受け取り方は違えども)今も興味深く読めるからだ。
    「十歳と二十歳では百円の重みが違うなんて言うが、感覚の話だろう。為替相場の変動以外で貨幣の価値が変わることはない、百円は百円だ」
     釈迦に説法だ。
     誰も、村雨に人体の仕組みを説いたりしない。叶に動画配信のうんちくを垂れ流せば、間違いなく殺される。それと同じことだった。獅子神は毎日、死にものぐるいでレートの上がり下がりやスプレッドの広がりを眺めては、瞳から血や涙を流した過去を持つ。金の持つ価値など、村雨に言われずとも分かっていた。
    「買えばいい。子どもの頃、手に入らなかったもの全て。大したことがないと思えるなら、それはきっとあなたにとって真性のガラクタだ。きっと二十年前の獅子神少年だって三日で飽きるくらいのな」
     それこそ、恐竜の模型に近いものはこの家にある。頭を垂れた剥製たちが。真経津なんかはジグソーパズルが好きそうだし、叶は今でもたまに「ピヨピヨ」と鳴くスリッパを履いていることもあるから、文字を書くたびに閃光を放つボールペンをきっと面白がるだろう。
     色褪せてなんかいない。変わってなんかいない。「あの頃」手に入らなかったからこそ、「今」手元に残っているものだって、あるはずだ。
     大人が持つ百円も、子どもが持つ百円も、等しく百円だ。それはきっと、おもちゃの車でも変わらない。上等なコースを用意してやれることを考えればむしろ、二十六歳の獅子神敬一のもとにやってきたほうがずっと真価を発揮する。
    「クリスマスといえば……研修医時代、院のクリスマス会に参加させられたことが一番記憶に新しいな」
    「虚しいヤツだな、彼女とのデートとか無いのかよ。つか参加したのか? お前が?」
    「新人に拒否権はない。歴史ある病棟の悪しき風習だ」
     小児病棟で、ハンドベルの演奏を聴いた。サンタクロースの格好をした同僚がチョコレート菓子を配るのを、惰性で付き合った。子どもたちが喜んでいたから、まあ良かったと思う。
     箇条書きのような感想を淡々と述べる村雨の口調は、いつもより少しだけ柔らかい。
    「そのとき、患者の一人から星の作り方を教わった」
     ピザの箱の上に乗せられていた細長いクーポン券が、輪を描く。結んで、潰して、織り込んで、整えられる。村雨の手の中でみるみる出来上がっていく立体形は、折り目も角もぴっしり揃って尖っていた。村雨は魚の骨を取り除くのも、リボン結びをするのも得意だ。
     獅子神が「医者ってやっぱり器用だな」と率直な意見を述べると、「マヌケの感想だな」と尖った言葉で刺されてしまった。
    「これを、あなたにやろう」
    「ピザ屋のクーポンじゃねえか」
    「そうだ。クーポン券で作られた星だ」
     獅子神の大きな手に、不釣り合いな愛らしいフォルムが、転がった。
    「私はこれでいて案外、あなたのことを気に入っている」
     丸っこい輪郭で折られた星の中身は、空洞のはずだ。それなのに、獅子神には妙に重たく感じた。普段の彼がスマートフォンを片手に上げ下ろしするダンベルよりもずっと軽いはずのソレが、自分の手に余るような気がしてならなかった。
    「友人が、何やら傷心のあなたを励ますために折った星だ。要らんか?」
    「あー……」
     次回の注文時に提示で二十パーセントオフ!
     ポップな自体でお得な情報が書かれた星は、きっとこの形を成さなければゴミ箱に捨てられていた。
     金では買えない何かが、そこにはあった。価値があるもの。今まで、手に入らなかったもの。ペパロニによる油染みさえ、味があるように見える。
    「いや……オレが一番欲しかったモンだ、ありがとう」
    「“ビロードの星”にするなよ」
    「しねえよ」
     売っても値段はつかないが、買ったならば高くつく。それが、友情というものだ。
    「……大切にする」
     その気になれば十カラットのダイヤモンドだって買えるような男の手の中に、紙くず製の星が仕舞われた。
     村雨には、友の慰め方など分からない。学校では教えてくれないからだ。道徳の授業は一番苦手だった彼が苦し紛れに渡したブツは、どうやら正解だったらしい。
     ビロードのうさぎの背が伸びる。村雨の横で小さく丸まっていた子どもは、いつしかいなくなっていた。

    「時に獅子神、クリスマスの予定はもう埋まっているか?ここに偶然映画のチケットが二枚ある。あなたさえよければ映画を観たあとにディナーでも食べて最終的にはホテルに、いでででで! 痛い! 礼二君痛い! 刺さってる刺さってる刺さってる!」
    「安心しろ、峰打ちだ」
    「無いよ、メスに峰とかいう概念は無いよ!」
     肩を掠めた切っ先を鎮めながら、嘘つきタヌキが起き上がる。奏でられる寝息があまりに揃っていたのは、「そういうこと」だったらしい。
     叶黎明ほどのギャンブラーともなれば、頬を赤くすることも青くすることも朝飯前だ。飛んでくるメスを躱しながら「オレの礼二君のモノマネどうだった?何点?」とほざくのも、彼にとっては等しく容易い。
    「だってあんまりにも礼二君がいじらしくて、オレ見てらんなくなっちゃった。代弁してやったんだぜ、むしろ感謝してほしいくらいだな」
    「それ以上喋ったら次は頸動脈を狙う」
    「冗談じゃーん。てーかオレにもお星様作ってよ! 仕上げにニコちゃんマーク描いてよね!」
    「村雨さん村雨さん、ボクにも!」
    「神に捧げる供物を作らせてやってもいいぞ」
    「……やはり託児所だな。おい、並ぶなら一列に並べ」
     今度は、サイドメニューのクーポンが丸くなっていく。サラリーマンの生涯年収を日銭で稼ぐ面々に買えないものなどほとんど無いが、友人の手作りプレゼントに飢えているのは皆同じだった。礼二君器用ー。おい、神を待たせる気か? 折り紙欲しさに急かす姿は、とてもじゃないが賭場で人を欺く魔物たちには見えない。
    「で? 獅子神さん、実際クリスマスの予定はどうなの?」
    「え……」
     やや出遅れぎみとなり、叶と天堂の後ろに並んだ真経津が獅子神を振り返る。意表をつくような質問ではなかったはずだが、獅子神は不自然なほどに狼狽えた。
     真経津晨の目から逃れられる者はいない。早々に観念した獅子神が、大きな身体を縮めながら目を伏せる。先ほどの独白と似ているようでいて、どうにも照れ臭そうな顔だった。
    「あ、いや……オレ、クリスマスも当たり前にお前らと過ごすモンだと……」
     瞬間的に、叶の目玉そっくりの笑顔が描かれた星が、宙を舞った。それを、「順番待ち」をしていた天堂がノールックで奪い取る。
     その時間、僅か三秒。何か閃いたらしい二人が、鏡合わせに首を傾げた。
    「……ユミピコ、クリスマスツリーって今からでも買える? てかオマエの教会(トコ)に余ってねーの?」
    「モミの木などどうだっていい。それよりも神の誕生を祝う準備をしろ。丹念にな」
    「ねー、ボクあれやりたいな! プレゼント交換会! どういうルールにする? 爆弾引いた人が負け? それともあえて勝ち?」
    「急にお前らはしゃぎすぎだろ! つか真経津、プレゼント交換会に勝ちも負けもねーから!」
     ビロードのうさぎは、くたびれ果て、持ち主に捨てられた先で、運命の糸に導かれる。汚れてボロボロになったうさぎを愛し、いつまでも大切にしてくれる坊やと出会うのだ。
     ヒトとぬいぐるみでありながら、彼らは本当の友だちになる。そして、ぬいぐるみはついに命を得て、本物のうさぎに生まれ変わる。一人と一匹は、生きるもの同士・ぬくもりを分け合いながら暮らしていく。
     うさぎは一度捨てられた。興味を失くした子どもに捨てられた。けれど、優しい子どもに救われた。その坊やは、ビロード張りの肌に触れ、飽きることなくぬいぐるみを毎日抱きしめた。薄汚れていても、色褪せていても、安価なものでも、関係ない。ものの価値は、持ち主が決めるものである。
     そうして、ガラクタはかけがえのない「何か」に成る。誰かにとってのくだらないものは、誰かにとっての宝物になり得るのだ。
     芽生えたばかりの感情は、まだ村雨の手元にある。獅子神がそれを受け取らない限り、村雨本人にとっては塵あくたも同然だった。
     だが、それでよかった。まだ、この成り損ないの心を、あたためていたかった。
    「……今は、まだ」
    「ん、なんか言ったか?」
    「何も」
     ──願わくは、いつの日か。その手で宝石にしてほしい。
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