「フカッ! フカフカ!!」
「ダメですよフカマル先輩! 今朝ダイエットしましょうと言ったばかりではないですか! まるまるとした先輩も大変魅力的ではありますが……あまり食べ過ぎてしまうと体が、ああっ! こら!」
意識を戻すと目の前に騒がしい光景が広がっていた。先程まで日なたで気持ちよさそうに眠っていたフカマルは、寝起きを感じさせない元気さで駄々をこねている。ハッサクさんに持ち上げられ、その小さな体を浮かしながら短い手をグルグルと回す様子はシュールであり、親子のような微笑ましさもある。ただハッサクさんがフカマルに掛けた言葉のうち、少し引っかかったフレーズがあった。
「フカマル……“先輩”?」
「へ? ……ああ、初対面でしたね。こちらはフカマル先輩です。画材を運んだり、授業のお手伝いをしてもらったりと、いつも助けてもらっているのですよ……あ、ちょっと!」
ハッサクさんの手から抜け出し自分の方にペタペタと駆け寄ってくるフカマル“先輩”は、意気揚々とこちらへ右手を差し出した。お菓子が欲しいのかとハッサクさんから貰った飴を小さな掌へ乗せると、違うというようにフルフルと体を振り、それを自分の太股の上に戻した。
「フカ!」
「……握手しましょう! とのことです」
あれほどお菓子を欲しがっていたのに、一度他人の手に渡った飴玉は要らないのか。得意げに握手を求めてくる様子に取引先の“お偉いさん”との挨拶を思い出す。なるほど、確かにこれは“先輩”かもしれない。
「ポケモンリーグより参りました、アオキです。……フカマルさん、よろしくお願いします」
小さな手を握り返すと、彼は繋いだ手を力強く上下にブンブンと振った。強引に距離を詰めてくるところがハッサクさんとよく似ている。
そもそも彼はハッサクさんのポケモンなのだろうか。うーん、変わった人……いや、変わったポケモンと知り合いになってしまったな。