DF月×FW鯉 シンプルな黒地の表面に、アディダスのロゴが白く抜かれたそのトレーニングマットを、鯉登は高一の春から愛用している。マットのフチだけがパキッと鮮やかに赤いのも良い。肝心の厚さもちょうど良くって、だけど縦幅が足りなくなってきたな、と寝転んでから思った。買い替え時だろうか。気に入ってるんだが、と考えつつ、サイドプランクの姿勢にうつる。右側30秒。左側30秒。その反復。体幹を鍛えるトレーニングは鯉登の就寝前の日課で、有料配信サービスの欧州リーグの実況をBGMに行うのが、毎晩のルーティンだった。
プレミアリーグ首位のアーセナル対エヴァートンの一戦。リーグ下位のエヴァートンの善戦を伝える解説者の浮かれ声に紛れて、ぽいん、ぽいん、と続けざまに2回、LINEの通知音が鳴る。鯉登は30秒のプランクをきっちり終わらせ、ふぅと息を吐きだしながら仰向けになった。全身の筋肉がゆるゆると弛緩していくのを待つ。そのまま手探りで床の端末を拾い、顔の上に掲げて見た。スクリーンに表示された名前に、勢い込んで起き上がる。
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