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    ユアーズ

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    ユアーズ

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    よくあるラキオさんのお話
    セツ視点、主人公なし。

     セツは、LeViのアナウンスに従い、メインコンソール室へと足を踏み入れた。部屋の中は円状であり、更に部屋の中央に円卓がぽつりと存在している。乗員の数人が、それを囲んで話し合っていた。

     そしてセツが数分待つと、メインコンソール室にて、船内にいる乗員全員が集まった。
     生死がかかっているにしては、どこか緊張感の欠ける空気感だった。現実逃避をした結果がこの空気感なのかもしれないが、それだけではなく、乗員たちの肝が座っているということも大いに関係しているのだろう。

     乗員たちはみな、今後どうなるのかを知らない。だからこそ、セツにはLeViと協力してこれからどうするのか説明する義務がある。

     セツは深く息を吐き、乗員にグノーシアに対する対処の説明しはじめた。
     随分と慣れた様子で彼は雄弁に話す。そのときばかりは乗員も真剣に聞き入っており、そして……議論が始まった。


    「──エンジニアの権限者、出なさい。そして己が務めを果たしなさい」

     威圧感のある黒髪の少女が命令口調でそう告げると、乗員の一人が手を挙げた。

    「僕がエンジニアさ。君達はただ、僕が探し出したグノーシアを処分していけば?」
    「さっそく現れたね。ラキオは、敵だよ。少なくとも、唯一のエンジニアである私にとって」

     ラキオの対抗に名乗り出たのはセツだった。彼は、赤い瞳をラキオに向け、物怖じせず、果敢に立ち向かった。
     そのことに、乗員たちは動揺した様子だったが、しばらく経つと状況を整理出来た人物が多数になり、議論を進めていく。

    「次はドクターのやつに名乗り出てもらおうぜ」
    「ドクターなら明日でいいでしょう」
    「でもグノーシアのやつらに乗っ取られるかもしれない」
    「……今日でいい、と思う」

     話し合いは長引いたが、結局ドクター候補には名乗り出てもらうことになったが……ドクターも複数人が名乗り出た影響で、場は再び騒然とした。

    「……エンジニアとドクターには、投票しない方がいいんじゃねえか? 二人の解析結果が知りたいしな」
    「当然でしょう」

     セツは思考する。
     セツは、生き残りたい。そして、生き残るためには守護天使に自分が本物のエンジニアだと信じてもらう必要があるだろう。つまるところ、自分の存在価値を証明しなければならない。
     
     今日は、明日は? 乗員に信用してもらうための行動を心がけるべきだ。
     その日のセツは、積極的に行動することはなく、議論の行方を見守った。そうしてタイムリミットが訪れる。
     机に設置された鍵盤から、投票したい相手を選択し、その日の議論は終わった。



     ▽

     乗員の中では演技力は高い部類に入るラキオ。しかし、かわいげがカケラもないために、すぐコールドスリープすることになるだろうとセツは考えていた。

     しかし、そういった考えを覆すようにラキオは生き残った。それは、ラキオよりも嘘をつくのが下手な人物を優先的にコールドスリープしたからとか、言っている内容が破綻した役職持ちをコールドスリープしたからなどの理由が存在するために、ラキオはしぶとく生き残っていた。


     そして、船内で日を重ね、議論は最終局面を迎えようとしていた。
     グノーシアは残り一体。それを見つけ出すことが出来たのなら、この船は平穏を取り戻すだろう。そして、その逆も然り。残った乗員はセツとラキオを含めて三人。セツは、エンジニアとして成果らしい成果を出せなかったため、その相手に信用してもらえるか、自信がなかった。

     ラキオのエンジニアとしての解析結果を食い入るように見ても、破綻しているようには見えなかった。
     オマケにこの場に残されているのは、お世辞にもロジックが高いとはいえないSQだ。セツが分からなければ、誰にも分からないだろう。
     歯がゆい。セツは目を細め、SQに言葉を投げかけ続けているラキオを見る。
     ラキオはここに来て、信頼を集めてきている。それに比べセツはラキオの剣幕に押されて何も言えずにいる。これでは、どちらに投票するかなんて火を見るよりも明らかだった。
     セツは、出来ることならば多くの乗員を救いたい。そして、今も手を尽くしたつもりだ。
     それでもどうにもならないケースは存在する。
     セツはもう諦めようかと思案する。めぼしい情報を手に入れることが出来なかったが、次がないわけではない。
     次は誰に声をかけるべきか。このSQに最後くらい話を聞くことは出来ないか。
     セツは少し投げやりになっていたのだろう。ラキオとSQが話している様子から目をそらし、頭を巡らす。



    「──というわけで、セツが本物のエンジニアだと確定したね」

     セツはうつむいていた顔を上げた。

    「なるほど、さっすがラキオ! いやー、盲点だったZE!」
    「え……? …あ、ああ。ありがとう。こうやって情報を確定させることで、偽物を追い詰めることが……」

     セツは言葉を詰まらせた。そして、声の主を恐る恐る見た。
     その人はいつも通り、自信に満ち溢れたような、それでいて相手を小馬鹿にするような表情を浮かべている。

    「……」

     セツは何も言えなかった。SQも何も言わなかった。だからそれでいいのだろう。

    「……私、軍用のレーションを携帯しているけど、いる? 味は保証出来ないけど、小腹を満たすことは出来ると思うよ」
    「えっ、レーション? SQちゃんちょっと興味あるZE! ……あ、でも太っちゃうかな」

     SQがセツの言葉に食いついたが、すぐに考えを改めたようで悩んだ様子で空を見上げていた。 

    「ま、いっか! セツもらうねー」
    「……」

     SQは、やっぱりあまり美味しくないと、笑いつつレーションを食べて、そしてほぼ一方的に会話を繰り出した。内容は至極どうでもいいことであり、その勢いにセツは飲まれていた。
     それらしい議論も行わないまま、SQが内容のない会話をタイムリミットギリギリまで行なった。

     そして、投票するその直前。

    「はーい、SQちゃんはラキオくんが偽物のエンジニアだと思いまーす」

     SQが気が抜けたような声音でそう指摘した。

    「……どうやら僕は君達を侮っていたようだ。事ここに至っては仕方ない。いや怒ってなどいないよ? 冷静かつ理性的に、僕は僕の運命を受け入れるつもりさ。しかしよくもこの僕をハメてくれたものだね」

     ……ハメるもなにも自分から死ににいったようなものではないのか。
     セツはそう言いたいものの、ぐっと堪えた。

     当然、その日はラキオに票が集中していた。

    「冷凍睡眠ねえ。僕が今から君たちをグノースへと送り届けるというのは」

     ラキオが最後まで言い切る前に、セツが言葉を遮る。

    「させないよ、ラキオ。私は君ひとり制圧するくらい訳ないからね。それに、この船にはLeViもいる。私を倒したとしても君に勝ち目はない」
    「……フン」

     試しに言ってみただけなのだろう。ラキオは鼻を鳴らすと、メインコンソールの出口へと歩き始めた。

    「……SQ、君はいつからラキオがグノーシアだと?」
    「ラキオがセツを本物のエンジニアって言ったってことはさー、ラキオ偽物じゃん? SQちゃんだってそれくらい分かりますよー」
    「それならどうして最後まで指摘しなかったの?」
    「いやー、ラキオがグノーシアっていうのは分かったケド、変に指摘して逆上されてもヤダからNE」

     SQはにへらと笑ってそう告げる。

    「それじゃあセツ、ラキオのコールドスリープは任せたZE!」

     SQはセツの肩に手を置き、鼻歌交じりにメインコンソール室を出ていった。グノーシアであるラキオとふたりきりは怖いらしい。

     SQに任されたということもあるが、セツはラキオのコールドスリープに付き添うことにした。
     ラキオを一人でコールドスリープ室に行かせるのは危険だ。なんせ、彼はグノーシアであるのだから、味方のコールドスリープを解こうとするだろう。その場合、乗員たちはあっという間に無力化される。
     セツは走ってラキオに追いつき、そしてその隣を歩いた。
     その間、話らしい話はなかった。セツとラキオは敵対しているのだから、当然のことだろう。
     しかし、ラキオに話すことがなくとも、セツには聞きたいことが存在していた。

    「ラキオ。どうして私を本物だと認定したんだ? そんなの、自分の首を絞める結果になることが火を見るよりも明らかだったはずだ」

     セツにとっては理解出来ないことだった。だからこその問いかけだったのだが、ラキオは呆れた様子で口を開いた。
     
    「破綻を見逃すくらいなら黙って冷凍睡眠するほうがマシだね。むしろ、僕としては君の解析結果からから見て本物のエンジニアなのは明白だろうに誰も指摘しないことに驚いたね」
    「あ……ああ、そうか」

     彼にとっては人を消すよりも、破綻の指摘をすることのほうが優先されるらしい。グノーシアになったとしても、その人の根幹は変わらないということなのか。
     セツが呆然と相槌を打つと、ラキオはセツに目もくれずに歩いていく。

    「……ラキオは」

     セツは、言いたかったことを、心へと押しとどめた。そして、堂々とコールドスリープ室へと歩いていくラキオに置いていかれそうなことに気がついて、慌てて追いかける。
     そして、ラキオをコールドスリープさせ、次の日に望んだ。




     ──その日の夜、誰も襲われることはなかった。当然のように、ラキオはグノーシアだったのだ。
     そして次の日の朝、宇宙が崩壊することもなく、アクシデントらしいアクシデントも存在せず、平和な朝を迎えることか出来た。

     きっと、ラキオは自分の中で一番大切なこと……ロジックを優先しただけだ。そのおかげでセツとSQが生き残ることが出来たのは、喜ばしいことのはずだ。
     それが分かっていてなお、セツは思う。

    「ラキオは……それでいいのか?」

     困惑した声音に、誰も返事はしなかった。しかし、セツは、満足げなラキオの顔を幻視したのだという──
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