我が上の星は見えぬ手紙が届いた。
トイドーは胸を高鳴らせる。その内容は『ジーノ人形を作らせてもらえないか』というものだ。
差出人はマシュマロの国の次期国王、マロ。この宿屋に泊まった一行の1人で、今はトイドーの友人である。
トイドーはすぐに手紙の返事を書いた。
『ジーノ人形』。それは、トイドーが幼い頃よく遊んでいた木製の人形。そして、『ジーノ』は彼の憧れのヒーローだ。それは今も変わらない。
しかし時というものは、どうしたって人を、物を、変化させる。成長したトイドーは、いつだったか「ジーノごっこ」を卒業した。遊ばなくなったわけではないが、ジーノとの接し方が変わったのだ。
「ジーノがいつ帰って来てもいいように、綺麗にしておかないと。」
そうして少しくたびれた人形は、宿屋のカウンターでお客さんのお出迎えをしてもらっていた。
手紙が届いてからひと月ほど。トイドーはマシュマロの国に招待してもらった。
マシュマロの国には銅像を作る職人がおり、造形の技術が高い。2代目のジーノ人形が出来上がったときには、瓜二つの人形が並んでいた。違いがあるとすれば、シューティングスターショットは打てないことか。
「すごい、そっくりだ!でもさぁ、このジーノ、戦えないんだよね。大丈夫かなぁ?」
「その時は、ぼくがジーノさんを守ります!」
自信満々なマロがカッコよく見えて、ちょっと羨ましくなった。マロはジーノと冒険していたんだ、と思って。
「ボ、ボクだってもう子どもじゃないし、ジーノを守れるよ。」
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それからどれだけの年月が流れただろう。トイドーはすっかりお爺さんになった。
若い頃はマロと頻繁に手紙のやりとりをしていたのだが、相手は王族だ。国王になったマロと気軽に連絡を取り合うのは難しい。それに、トイドーも宿屋の主になった。経営に子育てに目まぐるしい日々を送っていると――マロとのやりとりは、毎年新年の挨拶を交わす程度になっていた。
が、その日は違った。マシュマロ王から便りが届く。いつもと異なる時期に、いつもより柔らかな手紙。
『ジーノさんに会ったよ。』
昔を思い出す、友自身の言葉だ。
その日の夜、さっそく旧友に向けて筆を取った。
――その時。
入口の方向から光が差した。
トイドーは駆け出した。さっきまでの腰痛がウソのように、足取り軽く。
「………おかえり!!」
かつての少年の声が、そこにはあった。