紅消鼠④その日俺は、クライアントとの顔合わせが終わり、夕飯は外で済まそうかと駅前をウロウロしていた。今日は遅いし事務所へ寄らず直帰のつもりだ。
蕎麦でいいかと、とりあえず食べる物を決めた直後、背後から明るい声がした。
「あれ、日車じゃね?」
「そうだな、珍しい」
振り返ると恋人である脹相とその別彼?兼弟である悠仁が手を振っていた。二人揃って駅前に居るのは、確か今日は…
「脹相、悠仁…地方に居る弟さんに会いに行ったんじゃ無かったか」
「今帰ってきたところだ」
脹相が答える。悠仁が手荷物の一つから紙袋を分けて俺に差し出した。
「これ、日車のお土産な」
「わざわざいいのに、ありがとう」
時刻は夕方6時を過ぎた。駅前は帰宅する人で溢れている。当然、というか、彼の顔が広いと言ったらいいのか、悠仁が同年代くらいの子らに声を掛けられ、そちらへ駆け寄って行ってしまった。
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