(タイトル未定)①大厄災から6年経った。
呪術界隈も上層部が入れ替わり、日本自体の体制も大きく変わった。変わらざるを得なかった。
あの大厄災の渦中に、それもほぼ当事者でありながらなんとか生き延びた兄弟は今も尚呪術界に身を置き、陰ながら人々の安寧を守っているのだった。
悠仁は21歳になった。あの時の傷は体中に残るものの体躯に恵まれ、かつて見上げていた兄を今やその体で隠せてしまうくらいには成長した。
脹相は出自こそ処分対象として議題に上ったが、本戦に於いて呪術師側に多大に貢献したこと、虎杖悠仁が本当の兄として共に生きたいと望んだことにより呪術師として高専に籍を置くことを許された。
悠仁も高専卒業後、その性格故に今も尚呪術師として脹相と共に日々戦っている。
脹相の出自の他に普通の兄弟と違う事は、彼らが恋人同士でもあるということだ。
あれから6年が経った。長く肉体を持たなかった俺だが、流石に6年も人間として生活もすると慣れるというものだ。元のこの体の持ち主や渋谷で奪ってしまった命を返すことは叶わないが、呪術師として生を許された以上、人々の安寧やこれから救えるであろう命は取りこぼさないようにしていきたいと思っている。
そしてこれはそんな気持ちとはまた別の葛藤の話でもある。
悠仁と兄弟以上の関係になったのは渋谷事変後すぐのことだ。戯れかあの時の精神状態がそうさせたのか体を繋げたのが最初だが、諸々落ち着いた後、改めて兄弟に向ける愛情とは違うものも互いに持ってしまったと確認し合った。
悠仁が高専を出た今、アパートで二人暮しをている。出勤前にキッチンの換気扇の下で、覚えたタバコを吸っていると悠仁が後ろにピタリと張り付き、すっかり追い越された背丈を活かし俺の肩に顎を乗せた。悠仁は多感な時期が過ぎるとこうやって素直に甘えるようになった。それが堪らなく可愛くて嬉しい。
「まーた吸ってんの」
「俺にとっては毒にもならん」
「美味いの?」
「う〜ん?」
「ほどほどにしなね」
悠仁が俺の頬に小さなリップ音を立てキスをした。これも毎朝の出勤前の戯れだ。俺の空洞が満たされる。ここには悠仁がいつもこうやって愛情を注いで満たしてくれる。時には自分が悠仁を満たしてやることで一緒に満たされる。
だがもう片方の空洞、こっちはずっと空っぽのままだ。壊相、血塗、弟達……もし生きていたら、同じように肉体があれば、悠仁と美味いものを食べたり美しいものを見る度にその空洞の存在に哀しくなる。
今はただ、幸せで満たされて、とても寂しい。
続