わんにゃん🩸2ゆうじはしばらく家に居ないことがある。飯は置いて行ってくれるものの、ゆうじの温かい手やあの明るい声が聞こえないのでとても寂しい。
寂しくてゆうじの枕を齧ったりティッシュを散らかしてたりしているがゆうじは一向に帰って来ないのだ。猫はそんな俺を呆れたような顔で見ている。
知っているぞ。猫も実はゆうじが居なくて寂しいんだと。
日中は日向ぼっこをしている猫にくっついて寂しさを紛らわせる。夜はゆうじの匂いが残るベッドで丸くなって眠る。そんな数日が過ぎるとようやく外からゆうじの足音が聞こえた。ゆうじの足音も匂いも声も俺はもう全部覚えたんだぞ。
ガチャっと玄関が開く音より先に走り寄る。ゆうじに思い切り抱き着いてたくさん匂いを嗅いで、ゆうじの頬にキスをしてべろりと舐めた。
「ははっ分かった分かった、ごめんな寂しかったな?」
「ゆうじ、ゆうじ」
「うん、ちゃんと飯食ってた?アニキは元気?」
俺が抱き着いたせいで尻餅をついたゆうじは玄関先に座ったまま靴を脱いで部屋に上がった。廊下を過ぎてドアを開け放しているままのリビングへ。俺が散らかした様相を見てゆうじが笑った。
「これやったのオニイチャンだろ、散らかしたらダメなんだぞ〜」
ゆうじが困ったように眉を寄せたので、散らかしたのは嫌だったようだと悟る。今度からは枕だけにしておこう。
ゆうじは窓際の日向で、大きなクッションを持ってきてさも自分の場所のように寛ぐ猫に近づき、頭を撫でた。いいな、俺は撫でられてない。散らかしたからか。
「オニイチャンについてやってた?あんがとなアニキ」
「ふん、俺は見ていただけだ」
猫はそっぽを向いたが尻尾がゆっくり揺れているのでまんざらでもないようだ。それはそうだ。だってゆうじに撫でられると嬉しい。ドキドキするしふわふわするし体の奥がきゅうっとなるのだ。
ゆうじに撫でられたい。散らかしたのがいけなかったのはよく分かった。反省しているから撫でて欲しい。ゆうじの肩にグリグリと頭を擦り付ける。
俺は猫と違ってあまり言葉が上手く出ない。何と言ったらいいのか分からない。悲しい。
「ゆうじ、ゆうじ、ごめん、なさ」
「お、反省してんの?」
「してる」
「そっか、じゃあ一緒に片付けようぜ」
「片付けする」
散らかした部屋をゆうじと一緒に片付けた。枕は噛み破いてしまっていたので、また怒られてしまった。怒られたが、反省してると伝えるとゆうじはたくさん撫でてくれた。嬉しくて腹まで見せてやる。ゆうじにならいいぞ!尻尾を振って大好きと伝えた。ゆうじはちょっとだけ泣きそうな顔をした。また俺は間違えたのだろうかと思ったが、ゆうじは腹もたくさん撫でてくれた。あと額にキスもくれた。幸せだ。
こんな風にゆうじとじゃれていると部屋の隅で猫が首を伸ばしてこちらを見ている。猫も撫でほしいならそう言えばいいのに。
「今日は飯作ってやるからな」
「めし」
「うん、手伝ってくれんの?」
「てつだう」
手足はゆうじと一緒で人間の形をしている。ゆうじが教えてくれる動きなら真似出来るので、俺はゆうじを手伝って飯を作った。また簡単なのを教えてくれるそうで、ゆうじが居ない時は猫にも作ってやってと頼まれた。ゆうじの頼みなら俺は頑張るぞ。
寝室のベッドは広い。俺と猫とゆうじ三人で乗っても眠れるくらい。ゆうじは、やっぱり大きめで良かったと笑っていた。
「明日は出掛けるから、アニキも首輪付けてな」
「俺は寝ている、何処へも行かん」
「お前も行くんだよ」
「おでかけ」
「うーんまあ、おでかけ?かなあ?お前たちの体診てもらうから」
「病院というやつだな?俺は絶対に行かないぞ」
「ちょっと違うんだよなあ、まあ担いででも連れてくかんなアニキ」
「…………チッ」
「舌打ち〜」
「おれは、行く」
「オニイチャン偉いな」
「…………チッ」
「二回目〜」
猫はゆうじの足元で丸まっている。俺はゆうじに抱き着いてゆうじの匂いを自分に付けるように頬擦りした。ゆうじの顔には傷があるが、そのカサカサした皮膚にキスをして唇をべろりと舐める。ゆうじは少し赤くなって俺の顔を引き剥がした。
「ん〜それ、どういう意味でやってんの」
「いみ?」
「あ〜……他の人にもやるの?その、キスしたり舐めたりって」
「ゆうじだけ、大好きだ」
「そっかあ〜」
「ねこも」
またこんな風にじゃれていると、あいつも羨まし気に見ているのを俺は知ってる。しょうがないからゆうじにも教えてやる。猫は俺が呼んだのに驚いて目を見開いている。
「俺は、別に……!」
「ねこも、舐めたい、んだよな?」
「違う、犬、余計な事を言うな!」
「アニキも寂しいならこっちで寝ろよ」
「寂しいわけじゃ………………チッ……お前達が寂しいんだろう……世話が焼ける……」
猫は渋々、俺とは反対側のゆうじの隣に寝転がった。こちらに背を向けているが尻尾がゆうじの足に絡んでいる。猫は素直じゃない。
ゆうじはそんな猫の頭を撫でて部屋の明かりを消した。