おまけ🐶🐱🩸(※🐶🐱どちらでも)釘崎と脹相
「だから、私分かんなかったのよ、マタタビがそんなにヤバいものだったなんて」
後部座席の釘崎が、謝っているつもりだろうが足を組んで腕まで組んでいる。小柄な割に態度がデカくていっそ清々しい。
「俺は別に怒ってない、ただ思い出すとおかしくてな」
「詳細は聞かないわよ!」
「話すつもりはない」
思わずクツクツと笑いが漏れる。なんだか懐かしい感じがして。俺に妹は居ないはずなんだが。
「お前が選んでくれた服はな、家入や庵に喜ばれるんだ、連れて歩くと楽しいとな」
「あたぼーよ!この野薔薇様がアンタを最高にイイオトコにしてやったんだから」
「俺も悠仁もからっきしだ、また頼む」
「虎杖のカードでしょうね」
「悠仁は俺に甘いからな、頼んでみようか」
「そうこなくちゃ」
さあ着いたぞ、とブレーキを踏み車を停車させる。ナビの見方にもだいぶ慣れた。
「俺が帳を降ろしたら釘崎は……」
後部座席を振り返ると釘崎が神妙な面持ちでいた。
「脹相、弟さんのこと、謝るわ。知らなかったししょうがなかったとは言え、貴方から奪ってしまった」
「いい、お前のせいじゃない、お前は成すべきことをした」
釘崎は頷いた。これ以上壊相と血塗について言葉にするのは適切ではない。お互いに折り合いの付け方が違うのだ。早く片付けよう、そう声をかけて二人で車を降りた。
「終わったらまた撫で撫でしてやるからな」
「恥ず!何それ恥ずかしいわよ!一回だけよ!」
*
伏黒と脹相
帳が解除されると伏黒が一般人の犠牲者を一人抱えてこちらへ向かってきた。俺は一般人を逆から支え、廃墟の外側へ連れ出す。
「まだ、中に……」
伏黒が言うには何人か中に閉じ込められていたらしい。俺一人では無理だと判断し伊地知に電話し指示を仰ぐ。伏黒の様子を見るとだいぶ疲弊しているようだった。
「領域展開したのか」
伏黒は言葉も無くコクコクと頷いた。
「……まだ俺、中途半端だけど……」
「頑張ったな、ちゃんと人を助けたぞ、偉いな」
ふらつく伏黒を支え待機していた車まで連れて行く。頭を撫でて横になっているようにと伝える。
伏黒はまだ何か言いたそうに口を動かしていた。
「なんだ?」
「……脹相、さんも……居たから、助けられた」
「……そうか、そうだな……ありがとう。後はお兄ちゃんに任せろ」
伏黒はふ、と笑って気を失うように眠ってしまった。悠仁とは違う優しさを持った子だ。さて、俺は伊地知が来るまで廃墟内の犠牲者を運び出すか。
*
わちゃわちゃ
「え、待って冬服になんぼ使ったって」
「明細見りゃ分かんでしょ」
「俺は高いぞと言ったんだからな」
俺は煮立った鍋をリビングに運びながら悠仁に言い訳をする。リビングには大きなテーブルが二つ並ぶ。ガスコンロが二つ。鍋はとにかく。
「悠仁、肉が足りないんじゃないのか?」
「え、乙骨先輩買って来るって言ってたよ」
伏黒が、俺がキッチンを行ったり来たりするのを見かねて、手伝いますと声を掛けてきた。今日は東京校の忘年会らしい。伏黒には取り皿を持って行くように頼んだ。
「野菜も足りない気がする……」
俺は伏黒に聞こえるように呟く。
「あー……多分、先輩達も肉があればいいと思うんで……」
「育ち盛りなのに?野菜も食べなさい」
「……はい」
伏黒はくすぐったそうな顔で返事をした。すぐにスマホで、おそらく乙骨に電話をかけ野菜も買ってきて欲しいと伝えている。出来た子だ。
米も足りるのか……足りなければ冷凍のを出すか。
しばらくすると乙骨、狗巻、真希、パンダが到着した。乙骨はしっかり肉と野菜を買ってきてくれたようだ。俺はそれを受け取り、キッチンへと持って行く。
「乙骨、買って来てもらって何だが、なんだか多い気がするな」
「え?そうですか?10人分でしたよね」
「10人」
高専は今2年の悠仁達と3年の乙骨達と……。
その時、ピンポーンと玄関チャイムが鳴る。悠仁が出迎えたのは秤と綺羅羅だった。
「え?あれ?」
悠仁の予定にも無かったようで困惑している。俺は、とにかく野菜を切るか、とキッチンへ向かった。皿は伏黒に任せる。
真希が、来るって言っただろ、と文句を言っている。聞いてないけど、と悠仁。まあ座れよ、とパンダ。狗巻はしきりに乙骨を指差す。あー!伝え忘れてたかも!と頭を搔く乙骨。お前が犯人か。しょうがない。秤はどかっと上座に座り、綺羅羅はキッチンに挨拶をしに来た。
「えーなんか話食い違っちゃったみたいでごめんねお兄ちゃん」
「来てしまったものを帰すことはしないさ、座ってなさい」
「ありがとう〜あ、飲み物買ってきたの、あとお兄ちゃんにこれ」
「ビールか、ありがとう。頂こう。…………待て買って来たのか?」
「金ちゃん年齢確認されないんだよねー」
「…………」
色々引っかかる所はあるが今日は不問にしよう。
俺は鍋の支度をし、後は各々に任せた。ビールを飲みながらキッチンカウンターに座り同居人の黒い毛並みを撫でる。
賑やかな声を聞いていると、本当はここに1番居たかったんじゃないかと思う奴の顔が思い浮かばれる。酒は飲めなかったようだが、雰囲気だけでも。
どうかこの子達の行先に幸多からんことを。
END