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    1852m海里

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    1852m海里

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    花になった貴方【第一話】松「何度生まれ変わっても僕は絶対、貴方のもとに還るんだ。」

    今年も夏がやってきた。厳密にはまだ梅雨なのだけれど、梅雨を追い越してやってきたこの暑さには、流石に土で寝ている蝉も出てきてしまうのではないだろうか。いつか蝉の鳴き声が止むのが早くなる夏がやってきてしまいそうだ。審「あ、雨。」今年の梅雨は例年に比べてしっかりと雨が降っている日が多いように思う。ジメジメとして、髪もうねって、低気圧の影響で頭も痛い。梅雨の時期に見られる風景は好きなのだけれど、風情を感じるにはいささか代償が多過ぎやしないだろうか。歌「おや、主。雨が降ってきたから中に入りなさい。身体を冷やしてしまうよ。」審「うん、そうするよ。ありがとう。」

    審「では今回は、この部隊で出陣をお願いします。隊長は松井江、よろしくね。」松「大丈夫。味方の血は流させないから。」今回の出陣先は異去だ。通常の出陣先とは少し違いまだ謎が多いこともあって、実力のある刀を中心に出陣させている。万が一のことがあってはいけないから。審神者としての責任があるのは勿論なのだけれど、私は、愛情を注いできた刀たちの命が尽きる瞬間など見たくない。この本丸に来た刀たちは口を揃えて皆「人の命は儚い。」などと言うが、私からしてみれば彼ら刀剣男士の方が儚い存在だ。刀剣男士は審神者の力によって生み出された付喪神。精霊、神様と言えど審神者の彼らに対する扱いは言わば主従関係だ。審神者の命が降れば彼らはそれに従い、戦う。彼ら自身の意思など関係ない。歴史を守るために虐げられるようなもの。どれだけ愛情を注いで育ててきても、彼らの存在意義は歴史を守ること。守るなどと綺麗事のように言うが、実際は戦うこと。己の体を、命を犠牲にして歴史を守る。上からの命に従って嫌でも戦争に駆り出される軍隊と同じようなものじゃないか。私はそんな命を下す側の審神者という存在でありながら、このような雑念ばかりが脳裏に浮かぶ。私は本来、審神者になど向いていないのだ。ここに生まれた刀たちは皆、私が生み出した本当の子のように愛おしくてたまらない存在。そんな子たちは出陣から帰る度に、時には疲労困憊になって、時には重症になってまで私の命に従ってくれる。ああ、なんて可哀想な子たちなのだろうと毎度思う。生まれた時から役目が決まっていて、その役目というのが戦場で戦うことなんて。こんなふうに慈悲深い人ぶっていながらも、実際に命を下しているのは私。そう思うと被害者ぶっている自分に自己嫌悪する。どうして刀剣男士は皆、嫌な顔一つせずいられるのだろうか。辛くても、私の顔をみればその一度、満開に咲く花のような笑顔を向けてくれる。ああ神様。どうか、私が審神者としての役割を終えこの命が尽きて、戦いの無い世界がいつか来たのなら、彼らの命をその世界でもう一度芽生えさせてやってください。

    鯰「主さん、最近よくぼーっと窓の外見てるよね。あ、もしかして松井さんでもいるんですかー?」審「違うよ!!!(焦)松井ならさっき出陣したとこよ。」鯰「あはは、すみません。いやー、でも気になるのは本当ですし、よければ僕が話聞きますよ?」審「うん…たまには鯰尾に相談するのも悪くないかもね。」鯰「ちょっとーそれどういう意味ですかー!?」審「ふふっ。」というわけで、たまたま部屋に遊びに来ていた鯰尾にここ最近頭を悩ませていることを洗いざらい全て打ち明けることにした。いや、本当はあまり重い話にすると申し訳ないというのと、皆のことで頭を悩ませているというのを刀剣男士本人に直接言うのは如何なものかと思っていたのだが、想像していた以上に鯰尾が話を聞くのが上手過ぎたので全て吐き出してしまったのだ。ハッとした頃にはもう遅く、全てを話し終えた後だったので誤魔化すこともできなかった。鯰「まあ、俺が言うのもあれですけど、確かに主さんの言う通りよくやりますよねー皆さん。」審「ほんとに。なんでみんなあんなに頑張ってくれるんだろう。自分から頼んでおきながら毎度申し訳ないや。生まれ変わったら私みたいな人の元じゃなくて、もっと幸せになれる人たちと、戦いの無い世界を生きてほしいなあ。」鯰「…俺、主さんにも一個だけ悩ませていることあったみたい。」審「え、そうだったの、ごめん。何でも言って欲しい。」鯰「そういうところですよ。」審「え?」鯰「も〜、鈍感なんだから〜。」そう言うと彼は私の両手を握り、私の目を真っ直ぐに見つめて言った。鯰「俺の口癖思い出してみてよ。いつも、過去なんて振り返ってやらないって言ってますよね?主さんとまた出会えるなら過去の戦いなんてどうだっていいじゃないですか。その未来の主さんと一緒に新しい思い出が作れるんですから。俺なら、もし生まれ変わっても主さんと出会いたいです。いや、俺だけじゃない。この本丸にいる皆そう思ってますよ。だって主さん、俺たちが顕現した時から今まで、俺たちじゃ返しきれないほどに愛情を注いでくれたじゃないですか。そんなの…俺たちが主さんのこと好きにならないわけないじゃないですか。こんな俺たち想いの主さんのためなら、この命、惜しくないです。だから俺たちは戦うんです。俺たちは、歴史を守るためだけじゃなくて、たくさんの愛情を注いでくれた主さんを守るために戦っています。申し訳ないとか、ごめんとか、そんな悲しい言葉言わないでよ。主さんが俺たちを好きなように、俺たちも主さんのこと大好きなんだ。だからさ、もう悲し涙は流さなくて良いよ。」そう言うと彼は私をそっと抱きしめた。彼に言われるまで気付かなかった。知らないうちに私は顔を大粒の涙で濡らしていた。返事をしようとしても嗚咽でうまく声を出せなかった私は、彼の背中に腕を回して強くしがみつき、声をあげて泣いた。赤子帰りをしたかのように泣きじゃくる私に彼は、よーしよしといつもの明るい口調でからかうので、思わず可笑しくなった私は、雨がかかっただけだよと言って二人で笑い合った。この日の彼との思い出は、雨が二人だけの秘密にしてくれた。

    松「はぁ…終わったみたいだね。ふふっ…思わず鼻血が流れそうだ…。」薬「あはは…っておいおい!本当に流すやつがあるか!ああもうっ…今は出陣中だから何も拭くものなんかねぇよ…。」清「このままじゃせっかくの白い衣装が真っ赤になっちゃうし、早く帰ろーよ。俺もうつーかーれーたー。」京「大丈夫…?」松「ああ。平気さ。」今日もたくさんの血が流れた。ふふ…まだまだ滾っているけれど、今回の任務は完了した。早く本丸に戻って主に報告しなければいけないね。鼻血も治ったし、帰ろう。秋「あ…。」薬「どうした?」秋「薬研兄さん、見てください!このお花、綺麗です!何というのでしょうか…?」松「血のように赤いな。綺麗だ。」薬「ああ、これは菊だな。赤い菊があるのは聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。確かに綺麗だな。」京「まるで薔薇のようですわ。ふふっ…なんて愛くるしい。」松「主のために一本摘んでいっても良いかな。」薬「良いんじゃないか。きっと喜ぶぜ。」篭「お花のプレゼントなんてとっても素敵ですね!」清「…俺も主にプレゼントしよーっと。」秋「あ、僕もプレゼントしたいです!」京「わたくしも。」篭「みんなで一本ずつ摘んで帰りましょう!」清「ちょっと!真似しないでよー!」薬「最初に言ったの松井じゃないか…?」これを渡した時、主はどんな反応をするだろうか。普段花なんて見つけてもプレゼントなんてしないから喜んでくれるだろうか。この花には何か感じるものがあったから、きっと喜んでくれるだろう。待っててくれ、主。今から帰るよ。

    審「みんな、おかえりなさい。…って、どうしたのみんな!?」秋「とても綺麗なお花を見つけたので、皆で主君のために摘んできたんです!」なんっっっっっって可愛い子たちなんだろう。任務で疲れているだろうに、わざわざ花を見つけて私のために摘んできてくれるだなんて。審「ありがとう。とても嬉しい!」もらった花は水切りをして、目の届く机の上に花瓶に生けて置いた。良い香りが部屋に漂う。雨特有の独特な匂いなど気にならない程の存在感を放っている。その日の晩は、菊の香りに包まれながら眠りについた。翌日の朝、花の香りでリラックス効果が現れたのか、いつもよりも睡眠の質が良かったように感じ、心なしか目覚めも良かった。歌「おや、主。おはよう。朝から元気だね、良い夢でも見たのかい?」審「うん、ちょっとね。」歌「ふふっ、もうすぐ朝餉の時間だから、少ししたら広間においで。」審「分かった。ありがとう。」薬「おおっと、危ねぇ…すまない主、あとおはよう。」審「あ、いいよいいよ。おはよう薬研。…ところで急いでるみたいだけどどうしたの?」薬「篭手切が具合が悪いって言うんでな、薬を渡しに行くところだったんだ。」審「篭手切が!?」薬「さっき様子を見てきた感じだと、きっと疲れが出たんだろう。ちゃんと薬を飲んで寝りゃあよくなるだろう。」審「そう…ありがとう薬研。あ、歌仙がさっき、もうすぐ朝ごはんできるから少ししたら広間においでって。」薬「ああ、分かった。すぐ行く。」

    この時の私はまだ知らなかった。あの菊の花が少しずつ私の命を蝕んでいることを。
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