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    1852m海里

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    1852m海里

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    都合の良い俺薬「なあ大将、あんたにとって俺は何なんだ?」

    審「薬研、いる?」
    薬「おお、大将。今度はなんだ?」
    審「やめてよ、厄介払いみたいじゃん。」
    薬「っはは、すまんすまん。…で、今日はどうしたんだ?」
    スケジューリングをミスってしまったのか、作業を短期間に詰め過ぎてしまい、無理をさせた身体にいよいよガタが来てしまった。このままではまともに作業ができないため、一度薬研に診てもらう事にしたのだ。このような事例はこの本丸では割と頻繁に起こっているため、薬研もあの反応である。私のこと、もうどうでもいいとでも思われているのだろうか…。私審神者なのに…。
    薬「うん、疲労がかなり蓄積したんだろうな。咳の症状も酷いみたいだし、薬を用意しておこう。今日は俺はずっと部屋にいるから、そこ、使っていいぜ。大将には少し、休むってことの重要さを知ってもらわなきゃいけねえな。」
    審「そこって………。」
    薬研の布団だ。
    審「自分の部屋で寝るからいいよ〜………。それに、万が一夜まで寝過ごしたら薬研が兄弟たちと寝れないし……。」
    薬「いや、今夜は大将と寝るに決まってるだろう?」
    ………ん?今夜は私と寝る?な、なんで?
    薬「大将をこのまま部屋に返したら絶対作業するだろ。薬飲んだ瞬間に。」
    審「それはそう。」
    薬「即答がすぎるだろう…まあ、あとは……。」
    審「あとは?」
    薬「……いや、なんでもねえ。」
    審「何それ、気になるじゃん。」
    薬「いいから、病人は黙って先生の言うことを聞くんだな。ほら、布団敷いてやったから、寝た寝た。」
    審「はーい……。」

    すごく寝た気がする…今は何時だろうか。温かくて良い匂い。なんだか懐かしいなあ、この感覚。ずっと昔から知ってるみたい。私の体と心を、全てを包み込んで、受け入れてくれるような。その温かみに身を寄せる。
    薬「おっと…ったく、可愛いところもあるじゃないか…。」
    審「…ん、薬研?」
    薬「お、起きたのか。おはようさん。…うん、熱も無いし、さっきより顔色も良さそうだな。」
    そう言って彼は、彼の額と私の額をくっつけて熱の有無を確認し、私の頭を愛おしそうに撫でた。
    審「うん、頭スッキリした、ありがとう。作業してくる。」
    薬「え、ちょ、待った。」
    審「!?」
    布団からそそくさと出ようとした私を慌てて布団に戻し、気がつけば私は彼の腕の中にいた。彼は私よりも小柄だ。それでも、当たり前だが彼は男なので私ごときが振り解けるわけがなく、私は慌ててしまい、暴れた。
    薬「そんなに暴れないでくれ、病み上がりなんだから。」
    審「は、離して!本当にもう大丈夫だから!無理しないから!」
    薬「それは嘘だろう。」
    審「そうかも。…でもなんでこの状態なの?」
    薬「だって…今夜は一緒に寝るんだろ……?」
    審「え?」
    薬「…んんっ、とにかく!まだ病み上がりなんだから今日はもうここで休め!!」
    審「じゃあせめて部屋から布団持ってくるから待ってて…。」
    薬「それとも…。」
    そう言うと、彼は私をさらに強く抱きしめ、か弱い声で私に問いかけた。
    薬「もう、俺と寝るのは嫌なのか…?」
    私が幼い頃から、彼はずっと私のことを見てきた。そんな幼なかった私が今、こうして一緒に寝たがらないのを寂しく思っているのだ。私を抱きしめている彼の顔は、私には見えない。彼はどんな顔をして言っているのだろうか。私が嫌だと言ってしまえば、彼はどんな顔をするだろうか。私が受け入れれば、彼はもう一度、私を優しく包み込んでくれるのだろうか。
    審「私は…。」
    雲「薬研、主いる?部屋にいないからまた体調崩したんじゃないかなって……。」
    薬「あ〜…。」
    審「あ、えっと、村雲江!!いるよ!!」
    雲「頭!良かった…出陣から帰ってきたら頭どこにもいなくて……机の上もほったらかしだし…何かあったのかなって………色々考えてたらお腹痛くなって……(涙)」
    私はなんとか薬研の腕から逃れ、布団から出て薬研の部屋を後にした。薬研に薬の処方をしてもらったこと、部屋で休ませてもらって看病してもらっていたことなど、とにかく今は大丈夫であることを伝えて彼を落ち着かせた。彼が泣き止んでから私からなかなか離れないので今夜は一緒に寝る事にした。そういえば、薬研はあの時なんで私を引き戻したんだろう。何て言ってたんだっけ…。また明日以降に聞こう。今日はもう遅いから早く部屋に戻らなきゃ。

    薬「あ、大将、明日の分の薬忘れて行っちまってるじゃねえか。…………なあ、大将。あんたにとって俺は何なんだ?」

    翌日、俺は主に今日の分の薬を届けに主の部屋に行った。部屋に入ると、昨日のこともあってか村雲江が大将に密着していた。当然、大将はすごく作業しづらそうだった。薬だけ渡し、部屋に戻ろうとしたところで、大将に昨日の話で聞きたいことがあると言われた。ここだと話しづらいとの事だったので、俺の部屋まで大将も同行する事になった。すまん、村雲江。
    審「それでさ…昨日の事なんだけど…。あの時、何で私を引き戻したの?」
    心臓が飛び跳ねたのが自分でも分かった。聞こえてなかったってことか…?いや、だとしても今更そんなの恥ずかしくて言えねえ。どう誤魔化そうか。
    薬「だから言っただろう、何でもないって。」
    審「いや、絶対何かあるでしょう。こう見えて私だって薬研のこと分かってるつもりだからね?」
    大将が俺の返答を急かす。
    薬「じゃあ聞くが…。」
    部屋に着いたところで俺は、何かがプツンと切れたかのように大将を押し倒して問い詰めた。
    薬「大将は俺の気持ちが分かるのか?昔からずっと大将のそばにいたのは俺だ。俺が誰よりも大将のことを知ってる。誰にも譲るわけにはいかねえ、だってもう十年近くも一緒にいるんだ。大将には分かるか?いつだってそばにいたはずの存在が、こうも簡単に奪われる気持ちが。」
    違うんだ、大将。そんな顔をしないでくれ。俺はそんなことを言いたいんじゃないんだ。
    薬「俺は最初、大将が心に決めた相手を見つけた時、この気持ちを諦めた。大将が幸せなら俺は良いと思ってたからな。でも、大将は俺の元に度々帰ってきた。相手ができたのに、だ。だから会話を交わしていくことで俺はおかしくなっちまったんだ。勝手に、また帰ってくることを期待するようになった。案の定、大将は何度も俺の元に帰ってきたよな。そしてそれと同じように、また相手の元へも帰って行ったよな。だから俺は、諦めたはずの気持ちがまた溢れてきたんだよ。認めちまったんだよ、俺は大将のことが好きだって。」
    審「え…。」
    薬「っはは…最低だな俺…。すまない、怪我してないか?急に押し倒したり、叫んだりしてすまなかった。忘れてくれ…薬ならそこにある。」
    そう言って机にある薬を指さす。
    審「あ、待って、薬研!」
    大将に呼ばれたところで俺は視界がぼやけた。気が遠くなり、気が付いたら俺は部屋の布団で横になっていた。今は…朝だ。どうやらとてもリアルな夢を見ていたらしい。
    薬「勘弁してくれ……。」
    人がよく比喩表現として用いる、寿命が縮まるとはきっとこの感覚なのだろうな。人様もよく例えたもんだ。さて、この薬を大将に渡しがてら、昨日より良くなってるか様子を見てくるか。

    廊下を歩いていると、大将が村雲江と歩いていくのを見た。足取りは軽い。両者共に顔色はすこぶる良い様だ。大将は、笑っていた。俺には見せない、特別な笑顔だった。
    薬「っはは……。」
    俺は、持っている薬を見て呟いた。
    薬「もう必要なさそうだな…にしても、今日も暑いなあ……。」
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