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    ヤニ吸い大学生脹相と脹相が火を近付けるのが嫌な虎杖

    転生ネタ悠脹※記憶あり虎杖と記憶なし脹相(加茂姓)


     喫煙者にとって、公に許された喫煙スペースは一種の憩いの場だ。
     青年──加茂脹相は、通う大学の最寄駅の喫煙スペースで二本目のタバコをふかしていた。
     時間は十六時。アルバイト先のバーに向かうにも中途半端な時刻で、そうした隙間の時間に無意味に肺を苛めてぼんやりするのが気が付けば習慣になっていた。
     きっかけは、幼少期の火遊びだった。その頃の彼は、火に怯えながらもその熱に手を近付けると、なにか充足感のようなものを感じていた。その頃、というのは正確には語弊で、実は今もそうだからこそこうして煙を燻らせている。
     件の火遊びは、仏壇の蝋燭を倒して、それが顔に当たってそれなりの大きな火傷をしてからはやめた。火傷痕は、年を経た今でも彼の鼻頭に横一文字、刻まれている。貼り付いた蝋が熱くて恐ろしくて、痛かったことを脹相は今も褪せず覚えていた。それでもなお、熱は恐怖と共に謎の充足感を彼に与え続けていた。
     ぼんやりとしていたらタバコの先は、長い灰になっていた。重力に負ける前に、指で挟んで目の前に鎮座する灰皿スタンドに慌てて手を伸ばした。灰は少し溢れて、タイル調のコンクリート床を幾らか汚す。誤魔化すように靴底で地面に擦り付けていたところで、ふと隣から声が掛かった。

     「なぁ、今日夜予定ある?」
     「バイトがある。なんだ」
     「いやぁ、先輩と飲みの約束してたんだけどあっちの仕事が立て込んじゃってキャンセルになっちまったのよ。だから良けりゃ飲みに行かね? と思ったんだけど」
     「相手は社会人か。苦労が多そうだ」
     「労働はクソだってよ。ちゃんと休んでんのかなぁ……」

     声を掛けてきたのは、同じ大学に通う猪野という男だ。脹相とは学部が違うため、学内で会ったことはない。この喫煙スペースでたまに顔を合わせては世間話をする程度の仲だ。下の名前も知らない。

     「じゃ、そっちも予定あるならまた機会あったら」
     「ああ」

     猪野とは特別親しいわけではないが、故に気安くもある間柄だ。特に思考を濾過せず会話できる相手は、喫煙の供にちょうど良い。
     二、三話すうち、二本目が燃え尽きた。脹相は流れるように三本目を取り出して、星をあしらったジッポで火を灯す。これはアルバイト先の常連の女性が、何故か脹相をいたく気に入って贈ってくれたものである。
     口に咥えて、吸い込む。タバコを指で挟んで、口から離して深く息を吐いた。白い煙が視界を曇らせる。
     突如。その煙の中からぬっと、手が伸びてきた。脹相が面食らって硬直していると、伸びてきた手はタバコの火へ向かい、親指と人差し指で先端の熱源を押し潰す。

     「火、点けんなよ」

     いつの間にか目の前には、学生服を纏った高校生くらいの少年が立っていた。火を潰したのは彼だ。明るい頭髪に、学ランの下に着込んだ赤いパーカー。ともすれば不良のような風体の少年だが、その鼈甲色の瞳は清く澄んでいるように脹相の目には見えた。

     「オマエは、なんだ? ……ここは喫煙所だ。火くらい点ける」
     「……ごめん。でも、火は点けんで」
     「何故だ」
     「……。体に悪いから……」

     少年は目を伏せて、少しの逡巡の様子とともにそう溢した。そしてそれは明らかな嘘だと、顔に書いてあるくらいにわかりやすい態度。消え入りそうな声に、何故か脹相の胸もしくりと傷んだ。

     「えーっと。俺も火消した方がいい?」

     気遣わしげに、傍らの猪野が声を上げる。すると少年はぱっと顔を上げ、「い……、お兄さんはいいよ」と気まずげな笑みを浮かべながら答えた。
     脹相はまったくわけがわからなかった。おそらく傍らの猪野も同様に困惑している。
     しかし、ひとつすべきことが明確にあることだけは理解していた。脹相は火を消されたタバコを灰皿に捨て、少年の腕を掴む。

     「ぅわっ」
     「何がしたかったかはわからんが、手当てをするぞ。痕が残る」
     「い、いい! ついやっちゃっただけだし!」
     「ダメだ。オマエは子どもで俺は成人だ。オマエが何をしても俺の責任になる」

     有無を言わさず、脹相は駅前のドラッグストアへ足を向けた。火傷の処置に必要なもの、保冷剤に水に軟膏、それから……と考えながら、ふと後ろを振り返る。猪野が困ったような笑顔で手を振るのが見え、空いた手を軽く振った。それから、視線を少年へ落とす。
     少年は戸惑いつつも、素直についてくる。何故か彼を連れ歩くのに奇妙な既視感を覚えたが、弟の手を引いていた頃を想起しただけだろう、と自己完結をする。脹相には、弟が二人いるのだ。

     「学校と学年、名前を教えろ」
     「えっ……知らなくていい、よ」

     問えば、やはり少年は歯切れ悪くそのように言った。突然やってきて大胆な行動をした割に、今は妙にしおらしい態度に脹相は内心首を傾げる。

     「二度目になるが、オマエの怪我は俺のせいになるんだ。何かあった時のために、教えてくれ」
     「うっ……」

     念を押すように伝えれば、仕掛けた側の罪悪感があるのか少年はおずおずと、脹相の顔色を伺うように目線を上げる。

     「……××高、一年。虎杖……悠仁」
     「ゆうじ」

     その名に、立ち止まる。知らず口が動いてその音を反芻した。初めて会った得体の知れない子どもの、それも下の名を。不思議と、今まで何度も呼んできたように口に馴染む音だった。
     呼ばれた少年は、ぽかんと口を開けて、脹相を見上げる。呆気に取られたような表情のまま、瞬きを忘れた瞳に水の膜が張っていく。

     「もっかい、呼んで。……脹相」

     何故この子どもは自分の名を知っているのだろう。そんな疑問以上に、脹相の胸は名を呼ぶ声に締め付けられた。


    ○○○
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    ・お兄ちゃんのバイト先はバー天元
    ・常連の女性は九十九ネキ
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