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    omaru

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    3/16頒布予定のバン漆アンソロ「朝晩潤うこの日々よ」に掲載予定のサンプルです。
    サンプルは全年齢向けですが、全文はR18になります。

    バン漆アンソロジーサンプル「流れ星」まるで、夜空を駆ける一筋の流れ星のようだと思った。
     一見すると豪奢で、しかし細部をよく見ると安っぽい造りの洋室。部屋の真ん中にどかんと存在するダブルベッドに腰を掛けて所在なさげにキョロキョロと辺りを見渡す。ここは所謂、ラブホテルの一室である。扉を一枚隔てた浴室の向こうから聞こえてくる水音に耳をそばだてながら、何でこんなことになってしまったのだろうと考えた。
     時は少し遡り、数時間前。俺は夜の繁華街を一人でブラブラと歩いていた。本当は大学の友達と飲みに行く予定だったのだが、急遽予定が入ったとドタキャンされたのだ。詳しい理由は聞かなかったが、恐らく最近出来た彼女と会うのだろう。俺との約束の方を優先しろよ、なんて子供じみた怒りは特に湧かなかったが、もう少し早く連絡してくれれば、待ち合わせ場所まで来て途方に暮れることもなかったのにと思ってしまった。
     折角ここまで来たのだから、とんぼ返りするのも味気ない。かと言って週末のゴールデンタイム。急遽飲みに誘っても皆空いてないだろう。どうしたものかといつも入る居酒屋の前まで行くが、一人で入るような店でもないため尻ごみしてしまう。
    その辺のラーメン屋でラーメンでも食べて帰るかと、そう思った時、一枚の立て看板が目に入った。ネオンで煌びやかに光る夜の街の中、その看板は目立とうともせずにひっそりと存在していて、気付かずに見逃す人の方が多いんじゃないかと思う程だった。矢印と「BAR」とだけ書かれたそれが妙に気になって、矢印が向いた先の路地裏を覗いてみる。暗い路地に一か所だけ明かりが灯った店があった。
    友達数人とならバーに入ったことがあった。それもバーというよりもスナックに近い店だったような気もする。こういうひっそりとした、いかにも通の大人のためのお店です、という場所には入ったことがない。興味がないわけではなかった。酒は好きだし、何よりも知らない世界を覗いてみたいという好奇心がある。これも何かの縁だ。もしぼったくりとか怪しい店だったら警察を呼ぼう。そう思いながら、少し重たい木製の扉を開いた。
     店内は思ったよりも明るく綺麗で、夜の店というよりも喫茶店のような印象に近い。入口で立ち止まっていると店員さん─バーテンダーというのだと後で知った。─にカウンター席に案内された。どうやら一見さんお断り、というわけではないらしい。
     格好良く酒を注文しようかと思ったが、ソワソワとしているうちにメニューを差し出された。メニューを眺めてもいまいちピンとこない。こういう店でビールっていうのもつまらない気がする。格好つけることを早々に諦めた俺は、素直に店員さんを頼ることにした。
    「なんか色が綺麗で飲みやすいやつ」というなんともざっくりとした注文で出て来たカクテルは、目が覚めるような鮮やかな赤色で、さっぱりとして飲みやすかった。
    そのカクテルが気に入った俺は、店内に静かに流れる音楽を聴きながらグラスを傾けてすっかりと雰囲気に酔っていた。お一人様バーデビューしたとあとで友達に自慢しよう。そう思って二杯目を頼もうとした時だった。
    「飲んでるのは何だ?」
     突如隣から声が掛かり、驚いてそちらを見る。俺よりも二、三歳程年上であろうか。黒髪を頭の後ろで一つに結った細身の男性が俺の隣の椅子に腰掛けるところだった。目を引くのは、その美しい顔立ちだった。成人男性にしては大きな瞳と、それを縁取るように施された赤い隈取り。白い肌は陶器のように滑らかで、思わず息を飲む。
    「何だ。そんな見られたら穴が開く」
    「あ、えっと、いや」
     思考がまとまらず、言葉が思うように出て来ない。いや、誰? 何で俺の隣に座る? 色んな疑問がよぎっては、形にならずに消えていく。ジッとこちらを見つめる瞳は店内の照明を反射してきらりと光った。綺麗だな、と頭の片隅でそんなことを考えた。
    「俺、もしかしてあんたと会ったことある?」
     何か言わなくては。焦った俺は、思わず下手なナンパのようなことを口走ってしまった。男は大きな目をゆっくりと瞬かせて品定めをするように俺をジッと見つめた。ヤバイ、変な奴だと思われてる気がする。額にじっとりと汗が滲む。
    「ごめん、気のせいかも。あんたみたいな綺麗な人、一回会ったら忘れないし」
     またも余計なことを言ってしまった。男は目を伏せると、くすりと小さく笑みを零した。それがどことなく自嘲してるように見えて、引っ掛かりを覚えた。
    「口説いてるのか?」
    「ちが、そんなつもりじゃ……」
    「はは、分かってる。いきなり声を掛けて驚かせて悪かったな。見ない顔だから気になっただけだ」
     その言葉にドキリとする。勝手にこの店に居心地の良さを感じていたが、やっぱり常連客しか訪れない店なのだろうか。
    「俺って浮いてる?」
    「少しだけ」
     ヒソヒソと問い掛けると、同じく潜めた声で返ってくる。
    「帰った方が良いかな」
    「そんなことはない。気にせず飲んでいればそのうち馴染む」
    「マジ? それならもう少し居ようかな」
    「折角来たんだ、そうしろ」
     もっともな言葉に頷いておかわりを頼むと、男も「俺も同じものを」と注文した。
     男は、漆羽洋児と名乗った。このバーにはよく来るのだそうだ。酒が好き。特に日本酒が好きなのだと言う。それなのに何で俺と同じカクテルを頼んだのか聞くと、「味見をしたくなった」と笑っていた。不思議な人だと思った。俺とそんなに年が変わらないように見えるのに、妙な落ち着きがある。かと思えば身振り手振りを交えながら大袈裟に話をしたりする。その美しい顔と相まって、掴みどころがなくミステリアスにも感じた。
    「漆羽さんって大学生? 社会人?」
    「どっちだと思う?」
    「そういうの良いって」
    「当ててみろ」
     ただ普段何をしてるのかを知りたいだけなのに、まどろっこしい。合コンで年齢を当てろと言ってくる女子みたいだ。
    「じゃあ、大学生?」
     当てずっぽうに答えると、漆羽さんは小さく笑った。それを肯定と捉えて質問を重ねる。
    「どこの大学? この辺?」
    「お前と同じとこだよ」
    「……俺、どこの大学行ってるかなんて言ってないよな」
    「そうだったか?」
     からりと笑ってグラスを煽る姿に、真面目に答える気がないのだと悟る。
     漆羽さんに声を掛けられて一緒に飲み始めて、これで何杯目だろう。結構飲んでいるのに、俺は漆羽さんの名前と酒が好きなことくらいしか知らない。バーでの出会いなんてそんなものなのだろうか。勝手が全く分からない。でも、それはなんとなく寂しい気がした。漆羽さんのことをもっと知りたかった。漆羽さんと話すのは楽しくて、もう少し、あと少し、と手を伸ばしてしまいたくなるような魅力があった。
    味見をしたい。そう言った割りには、俺と同じ赤のカクテルを飲み続ける漆羽さんをぼんやりと見る。
    「何だ。そんなに俺の顔が好きか」
    「いや、カクテルの色と漆羽さんの目元の色、同じ色で綺麗だなと思って」
    「……口説いてるのか?」
    「そういうわけじゃ……うーん、そうなのかな」
    「酔ってるのか」
     酔っ払ってる自覚はあった。元々そんなに酒が強い方ではない。漆羽さんにつられるようにして飲んでいたから、とっくに自分の限界は越えていた。ふわふわとして心地が良い。今なら何でも話せる気がした。大概そういう時に口から出る言葉はまともじゃなくて、シラフの自分が大慌てで止めるような内容なのだが、ここには酔っ払いの俺しかいないので止めようもない。
    「俺、漆羽さんのこともっと知りたい」
    「そう言われてもな。会ったばっかだろ」
    「ん~……なんかさ、やっぱ初めて会った気がしないっていうか……。だってすげぇ話しやすいし、楽しいし、昔からの知り合いみたいな感じがするんだよな」
     自分が滅茶苦茶なことを言っているのはなんとなく分かっていた。上手い具合に逃げようとする漆羽さんを繋ぎ止めたくて、駄々を捏ねているだけだ。話しやすさだって、単純に漆羽さんが会話上手なだけだろうに。しかし俺の言葉のどこかに引っかかったのか、それともなりふり構わない俺を哀れに思ったのか、漆羽さんは少し考える素振りを見せてから俺にそっと囁いた。
    「場所、変えるか?」
     バカな俺は、カラオケにでも行くんだと思って元気よく頷いた。
    ぼやっとしているうちに会計は済まされて、気付けば外を歩いていた。もう既に目的地が決まっているようで、迷いなく歩く漆羽さんについて行く。途中、アルコールが回ってふらついたせいか、漆羽さんに手を握られた。嫌な気持ちは特にせずそのままでいたら、そろりと指を絡められ、どうしたことか俺はその時点で少し勃起した。酔っぱらってるから身体がバグってるのだと言い聞かせ、手を引かれるままに路地裏を歩いて辿り着いたのは、ラブホテルだった。
    ああ、まあゆっくり話せるもんな。眠くなったら眠れるし。そんな具合にぼんやりと考えていたら、いつの間にか漆羽さんはシャワーを浴びていて、俺は少しばかり冷静になった頭で、これはマズイことになったのではないかと考えていた。
     これって俺、抱かれるのか? 漆羽さんってそっちの人なの? 彼女はいたことはあるけど、彼氏はない。今まで男をそういう目で見たことすらない。っていうか、ラブホって男同士でも入れるんだ。いやいや、そんなことはどうでもよくて。どうしたら良いんだろう。流石にシャワー浴びてる漆羽さんを放って帰ることは出来ない。ううん、と唸っている間に、水音が止んだことに気付く。漆羽さんが浴室から出て来る。考えている暇はない。よし、決めた。そういうつもりじゃなかったことをしっかり伝えて、帰ろう。
     そうするはずだったのに。シャワーを浴び終えて浴室から出て来た漆羽さんを見て、言おうと思っていた言葉全てが吹き飛んだ。お湯で上気した頬は薄桃色に彩られ、妙な色気を纏っている。羽織っただけのルームウェアの下から覗く肢体は同じ男のもののはずなのに、どうしてか目を奪われた。頭の上で纏めていた髪が解かれ、ハラリと舞う。髪は洗ってないんだ。あ、そっか、これからセックスするって時には洗わないよな。いや、しないって。帰るんだよ、俺は。
    「どうした? お前もシャワー浴びるか?」
    「いや、あの、漆羽さん、俺」
    「うん?」
     こちらに近寄って来る漆羽さんから目が離せない。呼吸が浅くなって耳の辺りが熱い。少し遅れて、痛い程に心臓が鳴っていることに気付く。俺、何で男相手にドキドキしてるんだ。そうじゃないだろ。漆羽さんは確かにやたらエロいけど、雰囲気にのまれるな。帰るって、一言言えば良いんだ。
    「漆羽さん、あの、俺やっぱり」
     その後に続くはずだった言葉は、漆羽さんの口に飲み込まれた。
    何が起こったかすぐには分からなくて、唇に触れる少しカサついた感触に、もしかしてキスされてるのか? とやっと思い至る。男とキス。しかも会ったばかりの人と。何がどうなってそうなるんだよ。頭の中は絡まった充電コードのようにぐちゃぐちゃとしていて、思考は纏まらない。どれ程の間唇を合わせていたのだろう。ほんの短い時間だったかもしれないが、俺にはとんでもなく長く感じた。唇を離した漆羽さんは、俺の顔を見てふっと微笑んだ。
    「何だ、緊張してるのか?」
     その問いに俺は何て答えたのか覚えていない。いや、多分何も答えなかったかも。ただ、微笑んだ漆羽さんがこの上なく綺麗で、ゴクリと唾を飲みこんだ気がする。一つ言えるのは、この時点で俺の中からは帰るという選択肢は消えていた。
     再び唇が合わせられる。ペロリと下唇を舐められ、ゾクリとしたものが背中を走った。ぼうっとしていると「口を開けろ」と囁かれ、慌てて薄く唇を開く。すぐにぬるついた熱いものが口内に入ってきた。漆羽さんの舌だ。口の中の粘膜を舌先でなぞられ、上顎を擽るように撫でられる。それだけでとてつもなく興奮してしまい、股間は痛い程に張り詰めた。経験豊富と胸を張れるほどに性体験をしてきたわけではないが、漆羽さんのキスが上手いことは分かる。舌を吸われてしまえば、頭の奥がジンと甘く痺れて何も考えられなくなった。それでも、責められてばかりなのは面白くなくて俺からも舌を絡めて必死で応える。軽く舌を吸うと、上擦った甘い声が漏れ聞こえて、その声の出所が漆羽さんなのだと思うとそれにも堪らなく気分が高揚した。
    暫くして、どちらともなく唇を離すと二人の間には唾液が糸となって引いた。漆羽さんの頬は紅潮して、瞳はとろんとしている。あんなに綺麗でどこかミステリアスだった人が俺とのキスで蕩けている。可愛い。そう思ってしまうともう止まらなくて、この人をめちゃくちゃにしてしまいたくなる。いや、待てよ、俺がめちゃくちゃにされる側なのか? どっちなんだ?
    「あの、漆羽さん、その、どっちが抱く方なの?」
     どうしても気になって聞いてしまった。目をパチクリとさせた漆羽さんを見て、間抜けな質問をしてしまったかもと焦る。もしかして暗黙の了解があり、わざわざ言わずとも分かることなのか? ドキドキとしていると、漆羽さんは俺にぴとりと身体を寄せてきた。甘い良い香りはボディソープのものか、それとも漆羽さんの体臭か。
    「どっちでも構わないが」
    「え、そういうもんなの?」
    「……でも、俺はお前に抱かれたい」
     耳元で囁かれた言葉に一気に体温が上昇する。頭の中で何かが弾けた気がした。多分理性とか常識とかそういう邪魔くさいものだ。男同士がなんだ。出会ったばかりだからってどうした。目の前の人の乱れた姿が見たくて、その欲求に素直に従う。
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