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    鬼の本丸 出雲に行く
    作業進捗です。

    ##鬼の本丸

    出雲に行く「ふふ、あれも聡い短刀だ。可愛がってやるがよい」
     実に楽しそうに言う。そういう普通の笑みも浮かべられるというのに、普段は悪人顔で笑う理由はなんだ。そんなことを口にする間もなく、もう行くぞと促される。則宗は頷いた。会計時に攻防があったが、鬼の審神者に押し切られた。こういうのは負けると若干悔しいものである。
    「チッ……僕が支払うべきだと思うんだがなあ」
    「何をいう。俺が支払ってこそよ」
     文句を重ねようとするとヘルメットを投げつけられ遮られる。室内にいる間に日が出て、少しは暖かくなってきたようだ。鬼の審神者はバイクに跨る。玉虫色の美しいバイクだ。則宗は鬼の審神者の後ろに跨って、それを確認するやバイクは走り出した。
     車通りは少ない。ぽつぽつと本丸であろう日本屋敷が見える地帯だ。町というほどの家屋はない。その風景を眺めていると、鬼の審神者が声を掛けてくる。
    『海はあいにくの荒れ模様だな』
     晴れてはいるが群青の海に白い波が目立つ。離れた位置から見ているが高波だ。秋も深まり冬の近づく空は寒々しさを覚える。
    『遥か海の向こうより戻るモノもあるからやもしれぬ。まあ、俺も伝え聞くほどで、実際は分からぬことばかりだ』
    「……」
     この国の人の領域ではない場所の区分は、ひどく入り組んでいて分かりにくいという印象がある。姿の見えぬ、正体も分らぬものを物の怪と呼んだように、人の力が及ばない土地を常世、幽世と呼んだ。山や海はもちろんのこと、夕刻や朝焼けの時分も逢魔が時などと呼ばれるように、境界引いて暮らしていた。だが、鬼の審神者と話をしていると、本当にあるからこそ人に伝わったのではとも思えてくる。人の区別が先か、人ならざるものの教えが先か、相互に作用しあってどちらが先なのか分からない、という方が正しいのかもしれない。
    「主、僕たちの魂というものは、何処へ行くと思う」
     ふと問いかけてみた。しばし沈黙ののち、朝尊も同じことを聞いてきたな、と小さく呟いたのが聞こえてくる。
    『生前の信仰による、と俺は思うが』
    「信仰?」
    『朝尊にも言ってやったが、俺に異国のありがたい言葉やら聖水というようなものは効かぬ。何なら、仏のありがたい言葉も、神道の祈祷も効かぬ。何故か分かるか?』
     則宗は、いや、とだけ答える。鬼の審神者は少し笑いながらも言葉を続けた。
    『俺には神仏を尊ぶ心がない。そんなもの聞いたところで気休めにもならぬ。学のある貴族連中ならいざ知らず、無学な庶民の出で人を襲い喰う大江山の鬼にそんな教えを説くものはおらぬ。だから効かぬのだ。信心、信仰あってこその死後の世界であろうよ』
     なかなか哲学的な話をする。つまり、今何を見聞きし折れた時にどうなりたいのか、それが重要だといっているのだ。何もないと思えば何処にもいかない。
    『そんな俺でも分かることはある。刀に斬られると死ぬ。皆、それで死んだ。俺も腕を落とされた。則宗よ、俺を討ちたいときは刀で首を落とせ。余計な情けを掛けるなよ。かけた瞬間、お前の刀をへし折ってやろう』
     どんな表情で話をしているのか、則宗には見えない。声の調子からも冗談なのか真剣なのか推し量ることもできない。だが、ハンドルを握る手に少しばかり力が入ったように思えた。
    「こう見えても僕は義理堅いほうでな。そうそう裏切りはせんよ」
     ふんと鼻で笑う音が聞こえた。まあ、どうとでも取ればいい。討たなくてはいけないような状況にならないよう、自分に出来る事はするつもりではいる。他の男士も討ち取りたいと叛意を抱くような輩はいない。個々の性格はどうあれ刀剣男士とは物であって、概ね持ち主の意に従うのだから。
    「しかし、そうか。僕も写経とかやっておくべきかな」
    『……ふふ、師には困らぬであろうよ』
     則宗は正直、自分が折れたらどこに行くのかという疑問について一つの答えは持っていた。本尊、本霊に戻る、というところだ。恐らく記憶や付随する感情というような、個としての一切を持ち込めない、そういうところに戻ると。
    「僕が僕じゃなくなる、ってのは、今のところ想像も及ばない」
    『奇遇だな。俺も生まれてこのかた、考えたことすらない』
     お互い笑った。だから、個というものの救いとして教えなんてものがあるのかもしれないと則宗は何となく思う。まあ、あの朝尊が同じような質問をとっくの昔にしていたとはと少し驚いたが、あの好奇心の塊のような男士だから、真っ先に気になるところだろう。何より、成り立ちがやや自分たちに近いともなれば、余計に質問したくなるのだろう。
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