寝付きが悪い夜だった。電気を全て消した部屋の中、目を閉じても意識の蓋までは閉まらなかったらしい。モーター音が聞こえる。
血糖値が上がったら、そのまま満たされて眠れるかもしれないと不健康な策を思い付いて、一度諦めて、やっぱりそれ以外に何も思いつかなかった。ベッドから静かに抜け出して、ブランケットも整えないまま温いスリッパを履く。なるべく音を立てないようにとゆっくりゆっくり閉めたドアが、最後にキイと咎めたのを無視して、狭く暗い廊下に出る。
キッチンには誰もいないだろうから、適当なものでもつまんでしまおう。真夜中のひそかな計画は、リビングの先客によって打ち砕かれた。
人生経験で濁ったように、無垢のままに透き通るように、灰色の目が2対、こちらを見つめている。敵襲を警戒する豹の目だ。人がいたのもそうだが、見つめられた瞬間、全身が固まる心地がした。まだ目線が合っただけというのに、喉の奥がギュッと引き絞られる。冷や汗をかく焦りの中で、流石、とも思った。最前線の英雄は伊達じゃない。
1981