焦凍襲来「お邪魔します。」
「お邪魔されます。よく来たね、焦凍くん。」
「ホークス……お元気そうで何よりです。燈矢兄も。」
「お前も相変わらず呑気な顔してンな。」
「こら、荼毘。悪態付かないの。」
ある日、二人の住んでいる部屋に来客が訪れた。
それが荼毘────轟燈矢の実弟である、現プロヒーローの轟焦凍。どこか緊張した面持ちでソファがあるにも関わらず地べたに正座で座り込み、そわそわと周囲を見渡している。
「焦凍くん、ソファに座って良いんだよ?」
「す、すみません……」
「……俺の隣に座ンのかよ。」
「駄目だったか?」
「別にィ。」
不安げに聞いてくる焦凍にぷいっとそっぽを向きながら答える荼毘。全くこいつは素直じゃないんだから……とホークスは苦笑を漏らしながら荼毘の頭を撫でる。
もし本当に気に入らない相手が隣に座ろうもんなら、そっと席を外すか意地でも座らせないのが荼毘だ。荼毘自身も焦凍へ歩み寄る気持ちがあるのか、こういう小さいところに彼なりの相手への気持ちが隠れている。
「ほら荼毘。飲み物とかお茶請け用意するからちょっと手伝って!」
「えぇ〜やだ。」
「我儘言わない。ほら、焦凍くんが気づいて立ち上がりかけてるでしょ!早く!」
「仕方ねぇなァ……」
のそのそと重たそうに立ち上がった荼毘がホークスの立つキッチンへと向かう。焦凍には聞こえないが、キッチンでも何かやり取りをしているようでああでもない、こうでもないと言い合っている声が聞こえる。
「……仲が良いんだな、二人は。」
「エッ……!?なんで?」
「だって燈矢兄がホークスに我儘言うなんて……俺にも言って欲しい。」
「……お前には言わねェよ。」
「なんでだ?」
「兄ちゃんだから。」
「じゃあホークスは?」
「あいつはいいんだ、あいつは。」
「……なんで?」
「旦那だから。」
旦那だから。
荼毘が言った言葉が焦凍の脳内で繰り返し再生される。焦凍のキャパを超えたその言葉は、焦凍の脳を停止させた。視界の端では慌てたように来たホークスが荼毘と「何で言いようと!?」「良いじゃねェか、どうせ言うつもりだったんだろ。」などやり取りをしている。
「旦那だから……?」
「おう。」
「だんな……ダンナ……旦那……?」
「しつけぇ。」
「旦那ってなんだ……?」
「……ごめん、あのね焦凍くん。俺たち結婚したんだ。」
結婚したいきさつを焦凍に説明する。
焦凍は背景に宇宙を背負った猫のような顔をしていたが、かろうじて説明は理解出来たようで、疲弊した様子でため息をひとつ吐き出しながらホークスを見つめた。
「……そうか。燈矢兄とホークスは結婚したんだな。」
「うん……君のお兄さんを、貰いました。」
「……ホークス。燈矢兄を、よろしくお願いします。」
そう言って座った姿勢でぺこりと頭を下げる焦凍。慌ててホークスも頭を下げる。唯一荼毘のみが頭を下げずに呑気にお茶請けの大福を口周りに粉を付けながらもそもそと食べていた。
「……二人に、聞きたい事があるんだが。」
「なになに?どしたの?」
「俺には恋愛経験なんか無い。だから、人を好きになるって感覚が分からないんだが、二人はどんな感じで相手を好きなんだ?」
その質問に「う〜ん……」と唸りながら考え込むホークス。一方荼毘は興味無さそうに二個目の大福をもそもそと食べていた。
「そうだなァ……俺の場合はだけど、やっぱりその人が隣にいて嬉しかったり、楽しかったりする人かな。その人の隣にいたい、と思える人が好きな人……かな。」
「そうですか……燈矢兄は?」
焦凍に問われた荼毘は未だ大福を食べていたようで、もぐもぐと咀嚼を繰り返し、ごくんと飲み込んだ後に口を開いた。
「ンなもん簡単だ。」
「え?」
「ちんこが勃つかどうかだろ。」
スパンッ
直後、横にいたホークスが勢いよく荼毘の頭を平手で叩いた。
「ってェな、本当の事だろうが。」
「焦凍くんに変なこと言いなんなや!焦凍くんは荼毘と違って純粋なんやぞ!」
「悪かったなァ、不純で。」
「ごめんね焦凍くん。荼毘の発言は無視していいよ!」
「俺で抜いてる癖に説得力の欠片もねェ。」
スパンッ
二回目のホークスが荼毘の頭を叩く音が響いた。
そんな二人に構わず、当の焦凍はホークスから言われた事を考えており、「隣にいて楽しい人……俺は緑谷とか飯田とかかな。」と微笑んでいた。
そんな焦凍を二人は「それは友情じゃないか?」と内心で思うのだった。