光露「大瀬は死んだらどんな葬式がいい」
河川敷、景色が橙色に染まる中ふみやさんはそう自分に聞いた
「大瀬はさ、死に方ばかり考えてるけど死って死ぬ時と死んだ後どっちも重要じゃん」
ふみやさんは双眼の紫をじっとこちらに向ける。ずっと見ているとなんだかその瞳に吸い込まれそうで思わず目を逸らした
「…考えたことありませんでした。でも、どうせなら面白い葬式がいいですね」
葬式。自分が死んだ後の物語だ。クソ吉の自分が死んだらその辺に放置して欲しいくらいだが、優しい皆さんは葬式ぐらい執り行ってくださるだろう。
そんなことを考えているとふみやさんは急に笑い出した。
「面白い死に方に、面白い葬式。案外むずいね。考えるの」
「すみません…付き合わせてしまって」
「いや、俺が勝手にここにいるだけだし」
河川敷の草が風に吹かれてサラサラと音を鳴らす。まだ夏だと思っていたが吹かれた風に含まれた涼やかさに秋の訪れを感じてしまう。橙色には藍色が混ざり、辺りを段々と暗くしていく。
「あ。」
先程の会話から数十秒くらいか、はたまた数分かはわからないがふみやさんが何かを思い出したかのように声を上げた。
「どうしたんですかふみやさん」
「大瀬は十返舎一九って、聞いたことある?」
十返舎一九。高校くらいの日本史の授業か古典の授業で何度か出てきた名だ
「確か、東海道中膝栗毛を書いた人でしたっけ」
そう呟くとふみやさんは軽く頷いた
「そう、その人さ大瀬と同じで芸術に富んだ人で葬式まで面白さを追求した人だって前に読んだ本にあったんだ」
「葬式の、面白さ?」
「うん、確か一九は死に際に弟子を呼びつけて死んだ後自分の身を清めるな、すぐに火葬しろって言ったんだって」
「…へえ」
「それで言いつけの通りに死んだ後火葬したら、どーんって花火が上がった」
「花火、ですか」
「ああ、死装束に花火をいっぱい詰めてたらしい」
くるくると指を回しながら話すふみやさんに思わず笑みが溢れる
「いいですね、それ」
花火と聞いて思い出すのはあの日の夏祭り。あの花火のように散って逝けたら思い残すことはないだろう。
「じゃあ、自分が逝くときは花火入れておくので清めないでください」
「うん、わかった。あ、今何時」
「今、ですか」
いつのまに時間が経っていたのだろう。時計を見ると17時半になるかならないかくらいの時間だった
「17時半くらいですね」
そう告げるとふみやさんはゆっくりと腰を上げた。
「18時までに帰らないと、理解がうるさいから帰ろうよ」
「そうですね」
あたりはすっかり暗くなり人はいない。歩き出したふみやさんに着いて自分も足を動かす
「今日の飯なんだろう」
「こんなクソ吉に夜ご飯なんかいいんですけど…」
帰り道ただ月の光だけが自分たちを照らしていた