夢を 松野カラ松には憧れの人がいた。その人はカラ松と同い年で、プロのボクサーだった。猫のように軽い身のこなしで舞うように相手を倒していく。一度も黒星をつけることがなく、彼は超新星と呼ばれた。そんな彼の影響でカラ松はボクシングを始めた。プロ一年目にして彼がタイトルを奪取した時は数々のメディアが彼を取り上げた。彼はその後も出場した大会のタイトルを掻っ攫っていった。一松と名乗る彼は、普段は気怠そうな目が印象的だった。リングに立つとたちまち殺気を纏い、まるで別人のようになることから彼のギャップに惹かれる者が後を絶たなかった。虎を相手にしているようだと、対戦相手のボクサーは言っていた。取材はほとんど断っていたらしく、そのミステリアスさも彼の人気に拍車をかけた。カラ松は一松のことをデビュー当時から知っており、さらに同い年のボクサーという共通項もあってか、彼が活躍する度に自分のことのように嬉しくなった。正直、カラ松自身のスケジュールより一松の試合日程ばかりを把握していた。リング上の猫と出会ってから、文字通りカラ松の人生は一変した。いつだって彼の中心はあの超新星だった。しかし終焉はあっけなかった。ボクシングの試合でも最高峰と言われるAKATSUKA選手権の日だった。このタイトルを獲得すると、一松は晴れて階級完全制覇となるはずだった。決勝前、一松は突然姿を消した。
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