「あ、」
かなの口から間抜けに飛び出した声に周囲が振り返る。静寂を保ち続けた事務室にその声は驚くほどに目立つ。かなははっとして、口を大袈裟に抑えた。パソコンに向き合っているので、きっと何かタイピングする際にミスをしたのかもしれない、と察した同僚たちがまた自分たちの仕事と向き合いだす。誰もこちらを見ていない。そのことを確認してから、口元から顎へ緩々と手を下ろしていく。終着点は首元であった。
あ〜!
死にたい!
脳で勇ましく叫んだのと同時に、ぐっと首を押さえ込む。ちょうど気管の上部。鈍い痛みと圧迫感を伴って……気持ちがよくなる。心因性の息苦しさが外因で誘発されるのと混ざって気分が誤魔化される。周りにバレないよう慎重に事を進めなければならない。自らの手で息の根を止めようとしてることを悟られずに。
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