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    1000字しか書けなかったので

    「あ、」
     かなの口から間抜けに飛び出した声に周囲が振り返る。静寂を保ち続けた事務室にその声は驚くほどに目立つ。かなははっとして、口を大袈裟に抑えた。パソコンに向き合っているので、きっと何かタイピングする際にミスをしたのかもしれない、と察した同僚たちがまた自分たちの仕事と向き合いだす。誰もこちらを見ていない。そのことを確認してから、口元から顎へ緩々と手を下ろしていく。終着点は首元であった。
     
     あ〜!

     死にたい!

     脳で勇ましく叫んだのと同時に、ぐっと首を押さえ込む。ちょうど気管の上部。鈍い痛みと圧迫感を伴って……気持ちがよくなる。心因性の息苦しさが外因で誘発されるのと混ざって気分が誤魔化される。周りにバレないよう慎重に事を進めなければならない。自らの手で息の根を止めようとしてることを悟られずに。
     先刻の「あ」の声は、突如降って湧いてきた希死念慮に気付かされたときの声だった。あ、と思うのと同時に、あ、と声に出す。次に浮かぶ言葉は「死にたい」だ。でもそれは、口に出すことは到底できない。
     ぐ、ぐ、ぐ、と息を留めるようにより力を入れる。ここで、ここで死んでやったらどうなる? 最悪の妄想が脳内を埋め尽くす。死んでやる、死んでやろうか、なあ。誰に言うでもない取り留めのない言葉。恨んでるわけじゃない、ただの好奇心だ。
     かなは思い描く。トイレに駆け込んで腹をナイフで切り裂く。痛みを舌を噛んでやり過ごして、腹から血が抜けていく感覚を考えた。
     誰もいない会議室。ドアノブに縄を括り付けて、ドアを挟んで向こう側に縄を通す。大きな輪っかを作って、首を括る。加減のできる自分の手なんかではいつまで経ってもどうせ死ねない。
     ここを飛び出して、階段を何段も何段も駆け上る。向かうは屋上。ドアを蹴破るように突破して、フェンスをよじ登ってそのまま。自分がアスファルトにぶつかって四方八方に肉片を散らす様を上から覗き込む、想像をした。
     脳内の自殺絵図を繰り広げていく中で、すうっと、胸を満たす閉塞感が消えていく心地がした。徐に手を下ろす。顔を動かさずに視線だけを周囲に巡らす。かなの様子を気にする人は誰もいない。
     馬鹿らし。
     どーせ、死にゃせん。
     は、と笑い声にも似た溜息を飛ばして、今度はキーボードに手をかざした。横並びに伸びていく文字列に次第に意識が沿っていくのに、どこか安堵を覚えた。

     (終)
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